目の死んでる少女をシャワーに連れ込んで熱湯攻め
ほとんど意識のないミリアを背負ったまま、どうにか家までたどり着いた。
なんかそれだけで疲れてしまった。
俺の住む家は、集合住宅の一種だ。
よい点は家賃が安いこと。
悪い点はそれ以外のほぼ全て。
職人が住むような建物で、それなりの騒音を覚悟しなければならない。
逆に、俺も作業部屋を持っていて、時々騒音とか出すので、こういう場所でないと住めないのだ。
生活のタイミングが違うので、隣の部屋にどんな人間が住んでいるのかもよくわからない。
こんな場所に長居するつもりはない、と思いながら何年もダラダラ住み続けざるを得ないような人のための住処。
ここはそういう場所だ。
欠点の一つは、シャワーが共同の物しかない事だ。
この汚れたミリアは、とりあえずシャワーを浴びさせる必要がある。
体を綺麗にしないと、次の行動をとれない。
「ミリア、起きろ。ほら」
「ねて、ません……」
ミリアをシャワールームの前におろして、ぺちぺちと頬を叩いたけれど目を覚ます気配はない。
これは、あれかな?
俺が一緒に入っても許されるパターンだな?
「部屋に行って荷物をおいたら、すぐ戻ってくるから、ここで待ってろよ?」
俺はミリアに言い聞かせてから、急いで部屋に戻る。
部屋は三階だ。
階段を上り下りしないといけないから、上の階ほど人気がない。
荷物を置いて汚れた上着を脱ぎすてた。
バケツを掴むと、石鹸、バスタオル、たわし、などを放り込んで一階に戻る。
ミリアはぼーっとしたまま、壁により掛かっていた。
ようやく意識を取り戻したのか、熱に浮かされた目で俺を見つめる。
「あの時の、魔術師さん? ここは?」
「俺の家だ。立てるか?」
「う、うん……」
ミリアは壁に手を突きながらも立ち上がる。
「全身が泥だらけだろ。シャワーを浴びるんだ。一人でできるか?」
「でき、る……」
俺の手に引かれながら、ミリアはよろよろと更衣スペースに入る。
ここには扉と呼べる物がない。
昔はあったのかも知れなけど、今は蝶番が取れた跡だけが残っている。
覗かれたくなかったら、人がいなさそうな時間を狙って入るしかない。
まあ、この集合住宅に、覗かれる価値のある人がいるか、って言われると微妙なんだけど。
ミリアは俺がいるのも構わず、上着を脱ごうとしたが、できないようだった。
壁により掛かっていないと、まっすぐ立つのも難しいようだ。
「手伝うよ」
俺はそう言ってミリアの後ろに回ると服のボタンを外していく。
ミリアは少し恥ずかしがっていたようだが、不健康度合いの方が勝ったのか、その場に膝立ちでしゃがんで、俺に脱がされるのを待った。
手を上に上げさせて服を引き抜く。
ボサボサだった髪が、さらにバサバサになった。
あれ、何か間違えたかな? まあいいや。
俺は脱がせた服をバケツに放り込む。
泥の固まりみたいになっている胸当てを苦労して外し、いろいろな理由で汚れているパンツも脱がせて、これでミリアは一糸まとわぬ裸だ。
俺も手早く服を脱いで、脱衣所の隅に丸めておくと、ミリアを引っ張ってシャワーに入る。
ミリアの体は、カレッタと比べれば、いろいろ貧弱かもしれない。
主に胸囲とかが。
それでも言葉にできない魅力は確かにある。
女体というのは良いものだな。
「さあ、体を洗うぞ」
操作板に魔力を流すと、水魔術が発動して頭上のタンクに水が発生し、炎魔術で加熱された管を通ってから降り注ぐ。
温度調節、などという高級な物はない。
最初のうちは冷水に近いし、最後の方は熱いを通り越して水蒸気しか出てこなくなる。
汚れたミリアの体を、たわしでゴシゴシこする。
「い、痛い……もっと優しくして……」
「こうか?」
「あと、背中がかゆいから……」
「この辺りか?」
「前はいい、……自分でやるから、あっ」
「ほらほら、無理するなって」
「う、内股はやめて……ひゃぅっ」
「ここが一番汚れてるんじゃないか? 綺麗にしないとダメだぞ」
「あっあっあっ……」
ミリアの全身をいじくり回しながら、隅々まで綺麗にしていく。
うん、なるほど。
覗くよりも一緒に入る方が断然いいね。
「あひー……」
ミリアは顔を真っ赤にして、濡れた床にうずくまっていた。
このシャワー装置、使い続けていると、最後にサウナ状態になるのが問題なんだよな。
一度冷えるのを待つか。
「……お嫁に行けなくされた」
「ん? 何か言った?」
本当はちゃんと聞こえていたけれど、あえて聞こえないふりをした。
だってめんどくさいじゃん。
適度な温度のシャワーを浴び直してから、精魂尽き果てた感じのミリアを脱衣所に連れ戻して、全身の水分をよくふき取る。
ミリアは何かいろいろ諦めたような表情で、人形のように従った。
扱いやすいけど、ちょっと不気味だ。
俺はさっき脱いだ服を着直す。
「ほら、おんぶするぞ」
バスタオルを巻いただけのミリアをシャワールームの外に連れ出すのは、さすがに抵抗があった。
ミリアも当然、嫌だっただろう。
が、バケツの中の汚れた服に目をやった後、よろよろと俺の背中に掴まった。
住人と顔を会わさない事を祈りながら、俺は三階まで階段を上って自分の部屋に入った。
ミリアを背負ったままベッドまで歩いて、ミリアをおろしてバケツも床において、やっと一息つけた。
「さてと、ミリア。気分はどうだ?」
「あうー……」
「具合が悪いのは間違いないな。とりあえず、ベッド使っていいから、ゆっくり寝ろよ?」
「うん……」
ミリアはもぞもぞと動いて、毛布にくるまって芋虫みたいになった。
棒でつついてみたくなったけれど、病人で遊ぶのもどうかと思ったので自重する。
さてと、夕食どうするかな。
「ミリア、食事はどうする?」
「……」
「食欲がないのか?」
「ない、けど、何か、食べないと……」
「最後に、何か食べたのはいつだ?」
「盗賊のところから逃げてから、何も食べてないです……」
「そっか」
出来るだけ消化のよさそうな物を与えなければ。
まてよ、
さっきのおばさんからもらったリンゴがあったな。
俺はそのリンゴを、部屋の隅の機械に放り込む。
ばすごんっ、じゅががががががっ
機械の下からでてきたジュースをコップに入れて持って行く。
ミリアは、毛布の中から手を伸ばしてコップを受け取る。
「さっき、何かを壊しませんでした?」
「ジュースを絞っただけだよ」
リンゴは形を失ったかも知れないが、それを壊すと表現するのは違うと思う。
あの機械は三年前に開発したものだ。
魔術の力で物体を粉砕して、一瞬で果物をジュースに変えてしまう便利な機械なのだけれど、皮や種まで潰してしまうとか、目的のわりに消費する魔力が多すぎるとか、音がうるさいとか騒音がひどいとか耳障りだとかやかましいとか、いろいろ不評だった。
記録上では四台しか制作されていない。
仕方がないから構造が似ている物として、動力機関の研究を始めた、という経緯がある。
「おいしいですね」
「おまえが稼いだリンゴだからな。存分に味わんだぞ」
「あれを稼ぐと表現するあなたの感性が怖いです」
なにがおかしいと言うのだ?
解せぬ。
「おかしいと思わないおまえがおかしい。
何がおかしいのかは自分で考えろよ」