結末
いつ殺し合いが始まってもおかしくないような緊張感の中、俺は思い出したように言ってみる。
「そうだ。おまえに渡しておく物があったのを忘れていた」
俺は第四位に向かってそう言いながら、抱えていた荷物の中に手を突っ込む。
中に入っている唯一の物体、時限爆弾のスイッチを押す。
「あ、違った。こっちだったかな」
俺は抱えていた荷物を隣のミリアに預けて、懐から箱を取り出す。
手のひらに乗るほどの大きさ。
それを、俺たちと第四位たちの中間ぐらいの地面に投げる。
「なんだそれは?」
「……」
俺は答えない。
第四位の取り巻きの一人が、警戒しながら拾おうと前に出てくる。
魔術妨害フィールドの範囲外に、出た。
攻撃は先手必勝だ。
「デス・スパーク」
俺は短杖から攻撃魔術を放つ。
一撃必殺の雷は、取り巻きその1を打ち倒した。
「なっ、貴様!」
俺はミリアを近くの木の後ろに突き飛ばして、自分は別の木の裏に隠れる。
飛んでくるボウガンの矢。
幸いにも当らずにすんだ。
他にフィールドの範囲から出てくる奴はいない。
残り四人。
クロスボウは、一発撃ったら、次弾を装てんするのに時間が掛かる。
今は四人ともクロスボウの装てんを終えていない。
まだ行けるか?
「ライン・スウォーム」
短杖の先端から数十の光の点が放たれ、でたらめな軌道を描きながら第四位たちに殺到する。
光は妨害フィールドに当たってかき消された。
これでフィールドの範囲がわかる。
盗賊団が持っていた物とほぼ同じ広さだ。
今回俺が特定したかったのは、中心点が誰か、なのだけれど、それも大体見当がついた。
魔術妨害フィールドは、ほぼ球状に展開されている。
つまり、この球体の中心点に立つ人間が、装置を持っているはずだ。
五人で一列になって歩いていた時に、二番目だったやつだ。
俺はナイフを手に取ると、木の陰から飛び出して、そいつ目掛けて走る。
「止まれっ!」
取り巻きその3が俺の前に立ちふさがろうとするが、俺はそれを左腕でガードしながら、ナイフを二番目に向かって投げつける。
二番目は慌ててナイフを避けたが、手に持っていた何かを地面に取り落とした。
「フレイム・インシデント!」
俺はその落し物の辺りの地面に向けて熱戦を放つ。
通った。
魔術妨害フィールドは既に無効化されている。
そしてもうすぐ時間だ。
「ミリア! 投げろ!」
俺が叫ぶと、ミリアが木の陰から飛び出して、荷物をこっちに投げつけてくる。
「なっ、なんだこれは?」
取り巻きその4は、それが何なのかも良く理解しないままキャッチする。
俺はそれを無視して、別の方向へと逃げる。
爆発前に距離をとらなければ!
「バカ! 敵が投げた物を受け取る奴があるか!」
「でも、だったらどうしろって!」
「捨てろ、どっかに投げ捨てろ!」
取り巻き三人は、対処に戸惑って、動きが止まっている。
一方で、第四位だけは適確な判断に出た。
全てを無視してミリアの方へと走ったのだ。
「ミリア! とにかく走って逃げろ!」
俺は叫ぶ。
直後、時限爆弾が爆発した。
閃光と衝撃の中、俺は地面を何回も転がって、木の根元に叩きつけられた。
耳がよく聞こえないし、全身が痛い。
けれど、倒れているわけにはいかない。
短杖はどこにいった? もう武器がないぞ。
俺は精神力をかき集めて、何とか立ち上がる。
爆発地点の周囲は木々が放射線状になぎ倒されていた。
「ミリア! どこだ、生きてるか!」
ミリアの返事はなかった。
代わりに悲鳴が聞こえた。
「いやっ、助けて!」
「このっ、手間をかけさせおって!」
第四位に襲われているのか。
俺は声が聞こえてくる方に走る。
取り巻きは全滅したのか姿が見えない。
「ミリアから離れろ!」
「ぎゃああああっ」
俺が駆け寄る寸前に、ミリアが悲鳴を上げる。
第四位、おまえ何しやがった!
「このっ!」
俺は第四位を蹴り飛ばす。
第四位は、どたりと地面を転がった。
その手には、血だらけのナイフ。
「おまえは、ここで殺す!」
第四位は、狂気に満ちた顔で笑いながら、ナイフを振り回す。
「どうしてだ。俺もミリアも関係ないだろう!」
「とぼけるな、私が元第五位を殺したと噂を流したのは、おまえだろうが!」
「……俺じゃないが?」
「それでも、まだ私はやり直せる、おまえさえいなくなれば!」
第四位は完全に俺の話を聞いていない。
それよりこっちは武器がない。
どうする?
俺は、ゆっくり後に退きながら地面に視線を走らせる。
探したのは石だ。
拾えるぐらいに小さく、殴れば痛そうなぐらいに大きい石。
ちょうどいい石は見つからなかった。
代わりに、さっき俺が投げたナイフが落ちていた。
俺は第四位に気取られないようにそちらに後ずさりしていって、転んだ振りをしてしりもちをついた。
「おまえがいなくなれば、どうとでもごまかせるんだ。おまえさえ、いなくなれば……」
「それは無理だろ」
俺は挑発するために笑顔を作る
「なんだと?」
「ここで死ぬのは……おまえだからだよ!」
ナイフを掴み、第四位に飛び掛る。
「ぐあっ?」
「くっ……」
地面に倒れたとき、俺のナイフは、第四位の胸に深々と突き刺さっていた。
第四位のナイフも俺の肩を掠めていたが……、こんなのかすり傷だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁっ」
俺は、立ち上がるとミリアに駆け寄った。
「ミリア? ミリア、大丈夫か!」
「い、痛い……ダメ、かも知れません」
腹からの出血が酷い。
俺はともかく、布で抑えて止血するが、血は流れ続ける。
ミリアは痛いだろうに、気丈に微笑む。
「クズマさん……」
「喋るな、傷口が開くだろ」
「私は、たぶん、もうダメです。今の爆発で、警備兵が集まってきちゃいますよ。クズマさんだけでも逃げてください……」
「バカ言うな! 俺はおまえを取り戻すために全てを捨ててきたんだぞ!」
「クズマさん。その言葉だけで私、とても嬉しいです」
「これで終わりみたいな事言うな! 俺と一緒に生きるんだ!」
「ごめんなさい。でも、この傷じゃ……私、きっとここで死ぬんです」
「…………」
うん、なんだろうな?
俺は冷静になるというか、ちょっと冷めてきた。
「なあ、ミリア。おまえここで死ぬのか?」
「難しい事はわからないけど、なんとなくそんな気がします」
「そうか? 俺も傷口と出血を見た時は驚いたけど、そんな普通に喋れるなら、多分大丈夫なんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?」
「…………、そうかも知れませんね」
ミリアは恥ずかしそうに目を逸らした。
しばらく様子見していたけれど、なんか大丈夫そうに思えてきたので、俺はミリアを背負って移動する事にした。
人里まで行けば、医者ぐらいいるだろう。
一日中歩いていたら、夕方ごろには森を抜けた。
遠くに煙が見える。
たぶんあの下に村があるのだろう。
背中ではミリアがはぁはぁと苦しそうな息をしている。
「あの、クズマさん。いい知らせが一つと悪い知らせが二つあるんですけど」
「なんだよ」
「いい知らせですけど、傷口の出血、止まったみたいです」
「そうか。ならもう安心だな」
やっぱり死ななかったな。
「それで悪い知らせの一つ目なんですけど」
「ああ」
「傷口の辺りが血でガベガベに固まっていて、たぶんクズマさんの背中ともくっ付いてます」
「それが何だ?」
服が汚れるとか?
今更そんな事気にしてる場合じゃないだろ。
「私を降ろしたら、また傷口が開いちゃうんじゃないかと」
「そんな事、もう気にする必要ないだろ。日暮れまでに人里にたどり着く。治療ぐらい受けられるさ」
別に悪い知らせだとは思わなかった。
ミリアは何を心配しているのだろう?
「えっと、あの、悪い知らせの二つ目なんですけど」
「ああ」
「私、随分前から、おしっこを我慢していて……」
「したいなら、その辺ですればいいだろ。降ろしてやるから……あー」
なるほど。
単体では大した事ないけど、前二つと組みあわせるとかなり悪い知らせになるな。
「な、何か、いい解決方法を思いつかないでしょうか」
「ないよ、そんなもの」
「で、でももう、無理ですよ。ほんと、限界ですから……」
「あと一山超えるまで、がんばれ」
「ふえええええ……」
結果から言うと、無理だった。
やれやれ。
これは後で、おしりパンパンだな
ここまでお読みいただきありがとうございました
とりあえず、ここで第一部完という事になります
今後の事は、活動報告にでも書いておきますので、よろしければそちらをぜひ
「待ってよ、おにーちゃん、おしりパンパンってペンペンの間違いじゃないの?」
……それは誤字じゃないよ、わかるでしょ?




