表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

不遇な少女


とにかく、地下から、そしてこの研究所から脱出しなければならない。


俺とミリアは慎重に階段を上がる。

上がった先の部屋は無人だった。

誰かがいたに違いないが、陽動に騙されてどこかに行ってくれたようだ。

戻ってくる前に、脱出しよう。


俺はミリアにマスクを渡し、自分もマスクをつける。


そして俺は荷物から最後の物を取り出した。

発煙装置だ。

作動させると、黒煙が広がって行く。


「なんだ、火事か?」

「火元を探せ!」

「地下の方だぞ!」


警備員が慌てている声が聞こえる。


俺たちは、煙に紛れて建物の外まで逃げる。

さっき爆破した南側の壁の辺りは、警備員がいなかった。

再度の爆発を警戒しているのだろう。


壁の穴を越えて、町に出た所で背後で爆音が響いた。

地下の時限爆弾が爆発したのだ。


上手くすれば、第四位は死んでくれているだろう。

やれやれ、これで俺もめでたくテロリストだな。




首都の端。

前に俺が住んでいた地域よりは小綺麗だが、宮廷魔術師として暮らしている土地よりは、家賃は安い。

新婚とかが住んでいそうな感じの集合住宅。


その部屋に、俺はミリアを連れて到着した。


「宮廷魔術師になってからここに引っ越したんですか?」

「いいや。それは別にあった」


あの部屋は、今やもぬけの空だ。

もともと荷物がなかったのに、製図板すらこっちに持ってきたからな


「この部屋はどうしたんですか?」

「偽名を使って借りた部屋だ。数日はバレないと思う」

「ここに潜むんですね」

「ああ。数日の間は町の外へ出る門の警備が厳しくなるだろう。だから、潜伏する必要がある」


当然の考えだと思っていたのだが、ミリアは驚いたような顔になる。


「正門から逃げるんですか?」

「そうだよ」

「こういう場合って、地下道とか、秘密の通路とかを使うものだと思ってました」

「そんな都合のいい物があったら大変だよ」


悪い奴らが大活躍してしまうじゃないか。

もしかしたら、その手の抜け道は存在していて誰かが使っているかもしれないけれど、そいつらは多分犯罪組織だ。


この前、俺が盗賊団を燃やした事を考えると、そっち系と接触するのは得策ではない。


「大丈夫だ。脱出手段は考えてある」

「本当ですか?」

「俺は前回、大きな間違いを犯していた」

「前回って?」

「警備兵に逮捕された時だ。その間違いとは、おまえの奴隷登録だ」

「つまり、私が見つかったら、おしまいなわけですね」


最初は、荷物か何かに隠そうかと思った。

しかしそれでバレたらいいわけができなくなる。

だから考え方を変えた。

インテリジェンスに行くのだ。


俺はミリアを製図板の前に座らせてから、設計図を広げる。


「いいか。よく見ろ。奴隷登録を書き換える装置の設計図が、これだ。一応、現物も試作した」

「それを使って私の登録を書き換えるんですね?」

「いや、それは無理なんだ」


そこまで話は簡単ではない。


「これだけで奴隷登録を書き換える事はできない。なぜなら暗号コードが必要だからだ。暗号コードを認識する部分はここからここまで。それをよく見ておいてくれ」

「はぁ」

「そしてここに、暗号解読装置の設計図がある」

「暗号解読装置?」


これは宮廷魔術師しか入れない図書室にあった。

ラウダイツがコンペで発表した暗号解読装置のバージョン違いだ。


「この二つの設計図を上手く組み合わせれば、暗号を突破して奴隷登録を書き換える事ができる。もちろん俺にはそんな事できないけどな」

「あの、この流れは、もしかして……」

「早速頼むよ」


俺がミリアの背中を叩くと、ミリアは呆れたようにため息をつく。


「まあ、私は嫌とは言いませんけど、無計画すぎませんか?」

「仕方ないだろ。これができるのはミリア以外に誰もいない。だからこそ、セキュリティーホールが残ってるんじゃないか」

「私が上手くできなかったら、どうするんですか?」

「大丈夫だよ。君ならできるさ」


このあとめちゃくちゃSEXした。



ミリアの書いた設計図を元に、装置を改造する。

この部屋の中で作業するしかないので、騒音問題が怖い。

隣人から苦情が来ないことを祈るだけだ。


俺が装置の改造をしている間、ミリアは設計図を眺めていた。

あの牢屋から出るときに、ちゃっかりいくつかの設計図を持ち出してきたようだ。


「ずっと、これの改良ばっかりやらされてたんですよ」

「これは……魔術妨害フィールドか?」


宮廷魔術師の図書室にも無かった設計図だ。


「あの人が昔開発した物らしいですけど……なんか欠点があるとかで」

「ふうん?」


俺も設計図を眺めてみるけど、どこがどうなって魔術を妨害しているのか、仕組みがよくわからなかった。

俺が知っている魔術とは、次元が違う何かのように思えた。


だからこそ、普及して十年以上も過ぎた頃に、わけのわからない欠点が発覚したりする。

変な物に手出ししない方が無難ってことだな。




そんなこんなで三日ほどが過ぎた。

装置の改造は終わり、俺はミリアの奴隷登録紋章を書き換えた。

あとは、警備兵たちが油断した頃に脱出すればいい。

それまでに残った材料で何か予備の武器でも作っておけばいい。

そう思っていた。


なのに、扉が外からノックされる。

俺とミリアは顔を見合わせた。


「ここに、来そうな人って誰かいます?」

「いないはずだ……」


来るとしたら、俺たちにとって敵でしかない。

対応するにしても武器がない。

爆弾をここで爆破するわけには行かないし……

俺は、現状、唯一の武器である箱を手に持ってドアに近づく。


慎重にドアを細く開けた。

ドアの向こうに立っていたのは、最も予想外の人物だった。


「カレッタ?」


俺があっけに取られている間に、カレッタは扉を強引に押し開けると、室内まで入ってくる。

そのままズカズカと奥まで踏み込んで、驚いているミリアに向き合う。


「あなたが、そうなのね」

「えっと、はい」


何なのかカレッタは明言しなかったけれど、ミリアは肯定したし、特に解説が必要にも思えなかったので、俺も何も聞かない。

俺は一度、ドアの外を見回して、他に誰もいない事を確認してからドアを閉めて鍵を掛ける。


「おまえ、なんで来たんだ?」

「なんでじゃないわよ! それはこっちのセリフでしょうが!」


カレッタは俺に掴みかかる。


「またあんたが指名手配されてるし、出頭する様子がないし、家に行ったらあんたはいないし、知らない女がいるし、製図板がなくなってるし……」

「それだけで、どうやってここまでたどり着いた」


証拠は何一つ残していない。

ここだって偽名で借りてるのに。


「別に大した事じゃないわ? ここ最近、新しい家を借りた人がいないか、不動産屋に聞いて回ったのよ」

「いや待て。なんでそんな総当り方式で警備兵よりも先にたどり着けるんだ?」

「知らないわよ。警備兵はまず身内とかから総当りで調べてるんじゃないの? でも、あんたはそっちに行かないって、私は解ってた」

「そっか……」

「だって、あなた、土壇場では誰も信用しないもの」

「まあね」


土壇場に限った事じゃないと思うけど。


「それで? あんた、これからどうする気なの? まさか、ここでずっと隠れて暮らすわけじゃないでしょうね?」


もちろん、そんなわけはない。


「不動産屋に」

「え? ああ、最初の何件かでは、出したかもしれない……まずかった?」

「いや。あんまり関係ないかも」


カレッタが熱心に何かを探して回っていて、それなのに途中でやめたという事は、そこが当たりだと警備兵は判断するだろう。

俺の名前が出ていたかどうかは、あまり関係ない。

だとすると、どうすればいいか。


「あのさ、カレッタ。ちょっと頼みがあるんだけど」

「何よ」

「この会話中に俺に殴り倒されて、明日まで気を失って倒れていた、ってことにしてくれないか?」

「はぁ? なんで?」


カレッタは意味がわからなかったのか目を白黒させる。

まあ最後まで聞けって。


「そしてカレッタが目を覚ました時には、俺もミリアも姿を消していた。そういう事にして欲しい」

「逃げるの? 私を置いて?」

「……さもなきゃ俺は処刑だ」


つまりは、保身のためにカレッタを殺さなければいけなくなる。

それだけは避けたかった。


「そんなふざけた事を言われて、はいと頷くバカがいると思う?」

「そこをなんとかわかってくれないか……」


カレッタは怒っているようだった。

何が原因で怒っているのかよくわからないけど、俺の提案を受け入れてくれそうにない。


「待ってください!」


カレッタの前に飛び出したのはミリアだ。


「ちょっと、あんたは引っ込んでなさい。私は今クズマと話しているのよ」

「それはわかっています。でも、聞いてください」

「何よ……聞こうじゃないの」


カレッタは腕組みしてミリアの言葉を待つ。

ミリアは言いづらそうにしていたが、腰を九十度に折って頭を下げた。


「その、ごめんなさい」

「何よあんた、勝ち組の分際で頭下げて、私が納得するとでも思っているのかしら?」

「違います。そんなつもりはありません。でも私は……もう、こうする事でしか生きていけないんです。」

「……」

「だって、私は故郷の村にも帰れないし、変なものを頭に埋め込まれてしまって、もう普通の奴隷としても生きていけません。……クズマさんに助けてもらうしかないんです」

「……」

「他に、どうしようもないんです。だから許してもらうしかないんです」


ミリアは頭を下げたまま動かなかった。

カレッタは苦虫を噛み潰したような顔で、言う。


「この卑怯者」

「……」

「そんな事言われたら、言い返せないじゃないの……」


カレッタは短杖を取り出す。

攻撃かと思ったが、そのそぶりは見せず、俺に差し出す。


「え? これはどういう?」

「あんたの短杖、没収された後、再申請してないんでしょ? 殴られたついでに盗られたって事にするから、必要なら持ってけば?」


カレッタはベッドに身を投げ出すように倒れた。


「あの、カレッタ?」

「殴られて気絶してたってことにするんでしょ。私が気絶したら、すぐ出て行くのよね」

「あ、ああ……。でも、いいのか?」

「別に。わかってるわよ。私があんたを警備兵に突き出しても、誰一人幸せになれないってことぐらい……さっさと、どっか行っちゃいなさい」

「そっか。ありがとな」

「そこはありがとうじゃないわよ」


俺は既にまとめてあった荷物を確認して、背負う。

いつまでも頭を下げたままのミリアをつつく。


「ミリア、行くぞ」

「でも、あの」


ミリアはまだ何かを言おうとしていたが、俺はそれを引っ張って部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ