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はったりポーカー


取調室は、無意味な空間だった。


俺が想像していた拷問のような、暴力的行為は行われなかった。


窓がない部屋。

どれだけ時間が過ぎたのかわからない。


同じ話を何度もさせられて、前と違うところがあるとしつこく追求される。


こいつらは、何がしたいのだろう?

俺から情報を引き出したいのか?

それとも、俺が心を失って同じ話しかできないバカになるように洗脳をしているのか?


宮廷魔術師候補でもある俺の頭脳を失うという事が、どれほどの重大な損失だと……


ああ、そうか。

俺は元第五位の宮廷魔術師を失った原因として疑われているんだっけ。

そっちの方が損失は大きいのか。


じゃあもうどうでもいいや。


俺は、諦めた。


俺は、少しずつ本当の事を話していった。

何回か繰り返した頃には、気が付いたらほぼ全部の事を話していた。


ミリアの能力に関わる部分、それ以外のほぼ全てを。


ミリアを拾った理由は、外見がかわいくて行き場をなくしていたようだったから、という事にした。

全く嘘はついていない。

拾った時点では真実だったし。


ミリアはどこで何をしているのだろう。

あんまり酷い目にあってないといいのだが……奴隷扱いだから、俺と違って、話に決着が付くまでどこかで世話された後、売られてしまうのだと思う。


かわいそうだと思ったけれど、俺にはどうしようもない事だ。



たぶん、十日ぐらいが過ぎたと思う。


俺がいつものように取調室の椅子に座らされて待っていると、一人の男が入ってきた。


まとっている雰囲気が、警備兵とは違う。

むしろ、牢屋の中で相部屋になりそうな相手だ。


何よりおかしかったのは、そいつが一人で取調べ室に来た事だった。

普通は尋問と記録で最低でも二人で来るはず。


こいつはおかしい。

何者なんだ?


謎の男は俺の椅子に座ると、歯を見せて笑った。


「俺はサムと呼んでくれ」


そう言うのは女に向かってやれ。

男の俺にやると、高感度は逆に下がるぞ。


「その名前は、最近別の奴が使ってたんだ」

「じゃあ、好きな名前にしてくれて良いよ」


やっぱり偽名かよ。


「おい、ケイン」

「……ん? 私を呼んだのかな?」


そうだよ。

おまえ、ケインだろ。

俺がアカデミーで徹夜してる間に、ミリアに近づいていた近所の男とかいうやつ。

あの時点で、既に情報収集は始まっていたのか。


つまり、全てが仕組まれていたのだ。

まんまとしてやられたよ。


「おまえの狙いは何だ?」


俺はケインを睨みつける。


「真実を知りたいだけさ」

「どの真実を?」


ケインは少し考えるようなそぶりを見せた後、言う。


「真実は一つしかないだろう」

「だから、どの真実をだ? 俺はもう話すのに疲れたんだ、質問がないなら答えもないぞ」


嘘だった。

いや、疲れたのは本当だが、それ以上に俺は待っていたのだ。

こういう奴がやってくるのを!


こいつが、警備兵と違う質問をするためにやってくるのを。


「知っているんだよ。君が、元第五位の宮廷魔術師が生み出した『究極の魔術』を隠し持っている事はな」


やはり、狙いはそれか。


「究極の魔術がどうかしたか?」


いきなり本題か?

と思ったが、なぜかケインは自分から話を逸らす。


「それはともかく、コンペでの君の発表は、とても斬新だったそうじゃないか」

「まあね」


伝聞系?

こいつはあの会場にはいなかったのか。


「君が短期間であれだけの物を生み出せるとは到底思えない」

「詳しいね」

「当然だよ。俺も会場で君の発表を見ていたんだぜ?」

「嘘をつくなよ。俺はあの場にいた全員の顔を覚えている」


はったりだった。

だがケインは乗ってくる。


「本当さ。君のいる位置からは見えなかったんだろうが、俺はいたんだ」

「観客席からも舞台からも見えない位置ってどこだい?」

「それは君の想像に任せるよ」


ケインはへらへらと笑う。

まあいいか、追求しても意味はない。


「俺の発表を認めてくれるのは嬉しいけど、それが何だって言うんだい?」

「あれは君の能力を超えている、と言っているのだ」


それは認める。

ミリアがいなければ、不可能だった。


「あの発表が『究極の魔術』だったのかね?」

「いいや、違うよ」

「なら、究極の魔術はどこにあるのかな?」

「知らないよ。知ってたら、それで大金持ちだ。宮廷魔術師なんか目指す必要はなかったさ」

「本当は、どこかに隠しているんだろう」

「知らないと言っているだろう」


この会話にはどんな意味があるのだろう?

そもそも、この事件に関わっているのなら究極の魔術は脳に何かをする装置、ぐらいの情報は持っていてもおかしくない。

俺がコンペで発表した魔術が、究極の魔術ではないのは明らか。


どうして知らない振りをするんだ?


知らないのではなく、本当は良く知っている。

喉から手が出るほど欲しい。

それを隠したがっているのか?


「あんたの目的はなんだ?」

「真相の究明さ」


ケインは言うが、そんな言葉に騙される俺ではない。


「嘘をつくな。それなら俺を捕まえるのは筋違いだろう。本当は真相なんて、どうでもよくて、『究極の魔術』が欲しいだけなんだろう?」

「意味がわからないな。真相を究明するために君を捕まえたんじゃないか?」

「なら俺は、二度と『究極の魔術』の話はしない。以上だ」


俺が頑固に言い張ると、ケインは大げさにため息を付いてみせる。


「そんな態度は良くないな。このままだと、君は死刑になってしまうよ」

「俺が喋る前に死ぬと、困る奴がいるくせに……」

「認めよう。俺が探しているのは『究極の魔術』だ」

「やっぱりか」


認めるのは想定の範囲内。

問題はここからだ。

どう来る?


「取引と行かないかね?」

「へぇ?」

「俺の雇い主は、君が無罪となって釈放されるように働きかける事ができる」

「そうか……」


そんな嘘、俺にも見抜ける。

必要な情報だけ聞き出したら、口封じに殺すだろう。

もちろん黙っていても、遅かれ早かれ処刑だ。


つまり、俺の人生はもう終わったのだ。

何を選んでも意味がない。

それなら、秘密を公開する必要はない。


せいぜい苦労すればいい。

いや、でも……交渉する理由が、一つだけ、あるか?


俺の考えも知らずに、ケインは間抜けな顔で質問を続ける。


「君の部屋は調べさせてもらった。だが、それらしい設計図はみつからなかったよ。どこに隠したのかな?」

「設計図は、最初からない」


本当は教授に預けた封筒の中にあるけれど、もちろん教えない。

さすがに、教授に迷惑を掛けるわけにはいかないからな。

もっと別の場所に隠せばよかった。


「設計図は、ない? 現物は別の場所にあるのかな」


……ん? 今のケインの発言は……

ああ、そう言うことか。


「俺は『究極の魔術』を持っていない」

「何か少しでも喋らないと、命を失う事になるぞ?」

「喋る事がないなら、デタラメを言うぞ」

「それでこの場はしのげるかもしれないが、釈放はされない。釈放前にデタラメだと判明したら、君はより不利な立場になるだろうね」

「そういうものか?」

「そうだよ」


ケインは、さあ正直に話せと笑う。

俺は救いを求めるように辺りを見回す。


「ミリア……。なあ、ミリアはどこで何をしている?」

「一昨日、留置所で面会してきたよ。とりあえず生きてはいる」

「そうか。俺のことで、何か言っていたか?」

「毎晩、無理やり、犯されてつらかった、みたいな事を言っていたな」

「他には?」

「それだけだよ。おまえ嫌われてたんだな」


なるほどね。

そう来るか。


それじゃあ、俺もがんばらないとな。


「なあケイン。今回の件では、一つ驚いた事があるよ」

「何がだ?」

「あんたの雇い主の事さ」

「ん?」


俺は笑顔で言う。


「宮廷魔術師の権限って、凄いんだな」


ケインの顔色が変わった。


「待て、何の話をしている?」

「おまえみたいな怪しい奴が、殺人事件の被疑者と、二人だけで秘密の話をさせてもらえるなんて。それも見張りもなしに」

「おいおい。人を怪しい呼ばわりしないでくれよ」

「事実だろう?」

「人の外見をとやかく言うな」

「おまえの外見はどうでもいい。俺はおまえが、宮廷魔術師の誰から命令を受けているのか、知っているんだぞ」

「はったりはやめろ」


バカめ。


「気づいていないのか? 今おまえは、宮廷魔術師から命令など受けているはずがないのに、否定するのを忘れた」

「くっ……」

「時間の無駄だよ。おまえは俺より弱い。情報を隠す力なんてない。さあ、時間の無駄はやめて俺を解放するんだ」


俺が強気で言うと、ケイン。


「うるさい! どうせはったりじゃないか。違うと言うなら、そいつの名前を言って見ろ!」

「それで名前が合っていたらどうするんだ? 口封じに俺を殺すのか?」

「聞いてから決める」

「もし俺を殺したとして、俺がこの話を他の誰かに話していたら? 俺の言葉が正しい事を、おまえは自らの手で証明してしまうんだ」

「……」


ほら、これでもう、こいつは俺を殺せない。


「逆にこう考えて見ようか。俺が正解の名前を言ったとして、おまえは内心では驚きつつも、ポーカーフェイスを貫く。とぼける。俺の答えが間違っているかのように振る舞う。そうすると、俺の方でもやっぱり違ったのかな、と思って自信が無くなる」

「おい、何が言いたいんだ?」


ケインは目を左右に動かす。

必死で何か考えているようだが、無駄だ。

もはや考えれば答えが見つかるような領域ではない。


「しかし俺は、自信を失っていない振りをするんだ。おまえを混乱させるためにわざと嘘の名前を言っていたかのように振る舞う。その一方で、言った名前が正しかった場合に備えて、嘘というのが嘘だったかのように振る舞ったりもする」

「だから、なんなんだよ」


ケインは俺を睨みつける。


「そこまで考えたなら、もっと面倒なやり方だってある。わざと無関係な人間の名前を挙げて、おまえを油断させ、反応を見るというのもいい」

「ふざけるのもいい加減にしろ! 悪巧みを仕掛ける相手にいちいち予告してどうする! 貴様は何がしたいんだ!」


ケインはとうとう怒り始めた。

そりゃそうだ。

俺だっておまえの立場だったら、自分みたいな奴を相手にしたくないよ。


「こんなの何の意味もないだろ、って話だよ。どうせおまえは俺を殺せない。何を言ってもお互い信用できないから会話も時間の無駄だ」

「き、貴様……自分が何を言っているのかわかっているのか」


わからねーよ。

そもそも、名前を名乗らない奴と会話できるわけないだろ。

最初から無駄なんだよ、おまえの存在その物が。

さっさと死ねよバカ。


しかし、それを言っても仕方ないので俺は話を変える。

ここで誰の名前を使うかな。

教授はまずい。

エルサムもダメだ。

ってことは……長距離砲の人でいいか。


「この前、アルトムと話した。誰がコンペをやろうと言い出したのかは、既に確認済みだ」

「んむっ?」


もちろん嘘だが、ケインの顔色を変えるには十分だった。


「悪巧みする時だけイキイキした顔になるの、ちょっと好きじゃないな」

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