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盗賊は燃えているか


叫び声に反応した盗賊たちがわらわらと地下室に集まってくる。

その数、四名。

建物の上にはもっといるかも知れない。


「うおっ、死んでるっ! 侵入者かっ! 貴様がやったのか!」


先頭をやってきた盗賊その2が仲間の死体を見て、俺をにらみつける。

俺は答えない。

先手必勝。


「デス・サンダー!」


四人まとめて感電死してしまえ!

しかし、稲妻は盗賊に命中する直前で消失した。

バカなっ、なぜ効かない?


「まさか、魔術無効化シールド?」


どうしてただの盗賊団がそんな物を?


「ははははは。驚いたか! なんだか知らんが、宮廷魔術師の攻撃すら打ち消したんだぞ」

「そんなの、そこらで売ってるような物じゃないだろ! どこで手に入れた?」


軍の保管庫から盗んできたのか?


「ああん? 今回の雇い主がくれたのさ」


こいつらを雇った魔術師、マジ死ね。

っていうかどうやって調達したんだ?

俺でも作り方は知らないのに!


俺が次の策を練っていると、ミリアが後ろからしがみついてくる。


「かっ、勝てないんですか?」

「ああ……うん。突破する方法もなくはないけど、ちょっと道具が要るな」


例えばボウガンとか大砲とか。腕に自信があるなら剣とかでも良いけど。

あとは、何か別の手段でシールドの使用をやめさせるか、だ。

やるだけやってみるか。


俺は盗賊その2を指差す。


「おまえ、その魔術無効化シールドを開発したのが誰だか知ってるか?」

「は? 知る訳ないだろ?」

「そのシールドは、魔術師が作った」

「そりゃそうだ」


他の職業の者には作れないことぐらい、子どもでもわかる。

盗賊その2は、それでも話に乗ってきた。


「いいか? そのシールドは軍の精鋭部隊に配備されて、おかげでしばらくの間、この国は戦争では無敵だった。そいつは、その功績で宮廷魔術師の第一位まで上り詰めたんだ」

「それがなんだって言うんだ?」

「問題はここからだ。実はそのシールド、とんでもない欠点がある。10年も経ってからわかった」

「け、欠点だと?」


そう。

とんでもない欠点だ。


「その魔術は、全ての生命活動に対してマイナスの効果がある。体が少しずつ腐っていくのさ」

「は? 何を馬鹿なことを言ってるんだ」


盗賊その2はへらへら笑いながらも、両手を表にしたり裏にしたり。

自分の体もどこか腐っているんじゃないかと心配になったようだ。


「本当さ。それを使い続けた兵士の半分は、謎の病気で死んでいった。精鋭部隊ほど被害も大きかった。何が悪かったのかは今でもよくわかってないけどな」

「お、おう」

「それで開発した魔術師は、四位まで格下げされたのさ」

「そうなのか……宮廷魔術師も大変なんだな」


盗賊その2も、とりあえずわかってくれたようだ。

さあ、その危険な装置の使用を直ちにやめるのだ。


「でも、それが本当だとしてなんだよ? 10年後の健康のために俺がこれを使うのやめると思うか? やめたら今ここでおまえに殺されるのに?」


ちっ、騙されなかったか。


「もしかして今の嘘だったんですか?」

「いや、一応本当だ。多くの魔術師は、あの装置を防御用としても採用したがらない」


逆に嫌いな奴の寝床に仕掛けておけば暗殺できるのでは、なんてブラックジョークを言うやつもいるぐらいだ。

幸いにも、製造法が出回っていないおかげで実行されたことはないが。


これで、魔術無効化フィールドを突破することは不可能になった。


だが俺には秘策がある。

普通の魔術師には不可能な、天才的な発送の逆転。

教えてやる、この俺が最高の何ふさわしい頭脳を持っていることを!


「くらえ、ライン・スウォーム!」


俺の突き出した短杖の先端から、数十の光が躍り出て、でたらめな軌道を描きながら盗賊たちにせまり、無効化フィールドに打ち消された。


目くらまし用の魔術だ。

当たったとしても殺傷力はない。


「無駄だって言っただろう。もう余興はおしまいか?」


盗賊その2は笑う。

後ろの三人は、もう攻撃に入ってもいいかな、みたいな感じで武器を構えだした。

しかし無駄ではない。

今ので無効化フィールドの有効範囲がわかった。


「フレイム・インシデント!」


フィールドの外ギリギリをねらって、熱線を発射。

命中したあたりは、床が赤熱し、木箱が燃えあがる。


「なっ、何を考えている?」

「屋内で、この火力を撃てる魔術師は、この俺だけだ」


なぜ普通の魔術師は、屋内で炎系魔術を使わないのか。


それは、簡単。

火事が怖いからだ。


「なんだあいつ。建物の中で火なんか出しやがって!」

「火事になったらどうするんだよ?」

「焼け死にたいのか! バカなのか!」


バカではない。天才である。


もちろん、ちゃんと火事にならないように細心の注意を払っている。

ただ、盗賊たちがパニックを起こしてくれれば、それでいい。


「くそっ、火を消せ! 水、水だっ!」


ほら、簡単にパニックに陥った。

むしろうまくいきすぎて不気味なぐらいだ。


盗賊その3からその5までが、必死に消火活動を始める。


「水なんかここにはないぞ!」

「叩け、なんか板とかで叩け!」


とりあえず火を消そうと思いつきで意味不明な行動をしている盗賊たち。

だがそれは愚かな試みだ。


自ら無効化フィールドの範囲外に出てくるとは。


「フレイム・インシデント!」

「ぎゃああっ!」


盗賊その3が火柱に変わる。


「うわぁっ! 火を消せ! 火を!」

「水、水だあっ!」


パニックに陥った盗賊その4が、近くの樽を持ち上げる。

おい待て、それ中身は酒か何かだぞ?


じゃーっ、ぼわっ


盗賊その4も火柱になった。

踊り狂いながら、近くの樽に倒れ込む。

そして流れ出すアルコール飲料。

もちろん、引火だ。


ちょっと待って、こいつら何やってんの?

俺が火事にならない程度の火を出したのに、なんで勝手に火事にしちゃってんの?


「バブルウォール」


泡の壁を発生させて、強制的に酸素を奪って火を止める。

しかし、既にいろいろ手遅れだ。


盗賊その5は仲間を見捨てて地下室を出ていったし、地上に繋がる階段の木材がメラメラ燃え上がっていた。

その辺りは、魔術無効化フィールドの範囲内だから、魔術では火を消せない。


退路が塞がれた。

ミリアが俺に近づいてくる。


「あっ、あの……どうするんですか?」

「いや、出口はどうとでもできるさ」


俺は、部屋の隅で頭を抱えている盗賊その2に杖を向ける。


「おい、そこのおまえ。死にたくなかったら無効化フィールドを止めろ。火を消せるのは俺の魔術だけだぞ」

「わ、わかったよ。……ほら、止めたぞ。でも、火を出したのはそもそも」

「イービル・メギド・ブラスト!」


どぐしゃっ!


盗賊その2は俺の放った空間爆砕呪文を受けて、原型すらわからないぐらいに押しつぶされて死んだ。

魔術無効化装置も粉々だ。

ここに何があったかなんてもう誰にもわからないだろう。


「ひいいっ!」


ミリアが悲鳴を上げる。


「な、何もそこまでする事は……」

「こいつに恨みは……なくもないけど、どうでもいい。それより魔術無効化フィールドを壊す必要があった」


さもなくば、火事を消した直後に俺たちは殺されていただろう。

俺はバブルウォールを操って階段の火を消しながら一階へと進む。


一階も多少、引火していた。


「出てきたぞ。ぶっ殺せ!」


何も考えずに斧を振り上げて襲ってくる盗賊。


「フレイム・インシデント!」


熱線を放つ。

あっけなく燃え上がる盗賊。

ついでに周囲の床や天井に火が燃え広がる。


あっ、やべ……火力間違えた。


「くそぅ、水、水をもってこい!」

「消えろぉっ!」

「だからそれ酒だってば!」


また自分達で火を大きくしていく盗賊たち。

そう言えば、第五位の家も最終的に火事になって焼け落ちたらしいな。

こいつら、学習能力ないのか。


火事ともなれば通報される。


遠くから鳴り響く警笛の音。

早いな。

警備兵が集まりつつある。


俺は方位の隙を突いて脱出しようとするが、主要な道は既に塞がれているようだ。


武装を持った謎の男である俺と、靴すら履いていない少女ミリア。

普通に見つかったら、任意同行は避けられまい。


俺はミリアを切り捨てる事を決意する。


「逆方向に逃げよう。うまくすれば、どちらか片方は逃げ切れる」

「わかりました。助けてくれてありがとうです。どこかでまた会いましょう」


ミリアはそれだけ言うと、どこかへ走って行く。

目立つ事をなんとも思っていない感じだ。

自分が囮だと薄々気づいていたのかもしれない。


いや、ミリアの場合は警備兵に捕まっても保護されるだけで問題ないのか。


……。

あっ、ちょっと待って?

ミリアが走って行った方。


そっちは川だよ。

町内会が清掃費を使い込んで宴会ばっかりやってるせいで、20年以上ドブさらいがされていない、酷く汚れたドブ川だよ。


どぼん、ぐちゃりっ


水音と、なんか気持ち悪い音が聞こえた。

一つ目の音はミリアが水に落ちた音。

二つ目の音はミリアがヘドロに埋まった音だと思う。


俺も驚いたが、警備兵たちはもっと驚いたようだ。


「誰かが川に飛び込んだぞ!」

「飛び込むって言うか、落っこちたんじゃね?」

「盗賊じゃないよな。ここに住んでたなら川があること知らない訳ないし」


知らなくても普通は落ちないと思うんだけどな。


「あの赤い奴。あれじゃないか? 引っ張り上げろ!」

「嫌ですよ! なんかこの川、臭いし!」

「一番階級が低い奴呼んできて、そいつにやらせようぜ」


警備兵たちが、臭い川に集まって騒いでいる。

包囲網に隙が出来た。

逃げるチャンスだ。


俺は、川に落ちたミリアのことなど歯牙にもかけず、自宅まで逃げ帰ったのだった。



人命に対する優しさが足りない、やはりクズか。


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