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宮廷魔術師コンペディション 前編(前)


【業務連絡】

コンペでの発表の順番が決定しました



1「火属性魔術の効率改善」

ウェンヒル・ダイラブス


2「飛行装置」

アーヴィン・グ・ナフト


3「ミナル粒子の圧縮率による防護シールド」

ダバル・サル・ディード


4「フォトンシールドの防御力について」

ロサルカ・マイセン


5「カクピタラス効果の改善によるシールドの防御力向上について」

バイル・ラビライル


6「メギド・ブラスト呪文の構造解析および強化」

ラファノス・テリブット


7「暗号解読装置」

ラウダイツ・ハナ・ナーレッセン


8「エンターティメント性を重視した飲み物作成装置」

マックス・パイエル


9「失われた手足を補うための装置」

アラエント・イフ・サニキス


10「植物の成長速度に影響を与える要素について」

クズマ・ジ・メケー



以上になります。

これは第三王女が自らお決めになった順番なので、最終決定です。

最終決定です。



中央講堂。

学会発表の時に使われる議事場は、混雑していた。


発表する予定の者や見学者が多いのはともかくとして、やたらと警備兵が多い。

王族が来るという噂は本当だったのかもしれない。


俺はカレッタと一緒に関係者用の入り口から中に入ったが、そっちも廊下は渋滞のように人であふれいてた。


「結局、いつもの服で来る事になったわね」


カレッタは、いつものふわふわした感じの赤いドレス姿だ。

俺も洗濯したてのシャツに着替えはしたが、それだけだ。


すれ違う発表者の中にも、やたらと気合いの入った服を着ている人も多くて、気後れしてしまう。

やっぱり、貸衣装を利用するべきだっただろうか。


控え室に行って、搬入されている試作品をチェックする。

輸送中に壊れたりしていたら、問題だからだ。

テストした限りでは、ちゃんと動作した。


そんな事をして時間をつぶしていると、コンペのプログラムを書いた紙を渡された。

俺の発表の順番は、まさかの最後だった。


「トリを飾れて良いじゃない」

「どうだろう? 最初に回されるよりは良いけどな」


まだ始まるまで時間があるし、審査員に挨拶でもしてくるか。


「よう、おまえらは誰だ?」


控え室を出たところで、酔っぱらったおっさんに絡まれた。


「えっと、人違いですよ」


質問は無視して俺はそう答える。

誰でもいいから絡んでやろうという、邪悪な意志を感じたので。


「俺の名前を知っているか?」

「知りませんけど」


俺が正直に答えると、男は怒り出す。


「なんだってえんだ? 長距離砲の権威、アルトム・ラックエンド様を知らないって言うのか?」

「いや、知りませんけど……あ、アルトム?」


ああ、そうか、アルトムか!

確か新型の長距離砲を発表するって聞いたな。

でもこの人、プログラムに、名前がなかったような……。


アルトムは俺の両肩に手を乗せる。


「なあ聞いてくれ。俺はな、二十年以上の間、国に貢献してきたんだ。名誉の一つや二つ求めて何が悪いって言うんだ?」

「いけない事はないと思いますけど」

「ふん。すました顔でいいやがって。俺だってな、考えはあったんだ。あの長距離砲さえ持ち込んでしまえばこっちの物だと思ったんだ。なのに、軍の奴ら、先回りして接収しやがった。ちっくしょう!」

「あなたみたいな人は、別の形で名誉を得られると思いますよ」

「うおおおおお。俺にも発表させろよおぉぉっ!」


やれやれ。

長距離砲を使って、この建物の中でどんなデモンストレーションをするつもりだったのか知らないが、周囲は全力で止めるだろうな。


この酔っぱらい、どっか他の所に行ってくれないかな……と思っていたら、何人かの兵士がやってきた。


「アルトムさん。探しましたよ。さあ、こっちに来てください」

「なななっ、何をするんだっ!」


兵士たちがアルトムを捕まえる。


「どうして酔っぱらってるんですか? あなたは審査席に椅子が用意してあると通達が来ているはずですよ」

「嫌だ嫌だ嫌だ。俺にも発表させてくれよぅ……」

「ダメです。もう決まっているんです。あー、ダメだなこれ。とりあえず、胃の中の酒を吐かせるか……」


アルトムはずるずると、どこかへ引きずられていった。


「なんだったんだ、あれ?」

「優秀な研究者にも、いろんな人がいるのね」


っていうか、あれが審査するのかよ。

先が思いやられるな。


会場に行く。

審査員席には、既にたくさんの人が座っていた。


舞台正面の特等席らしき場所に二段に分かれて座る三十五人。

あれが宮廷魔術師か。


うまく行けば、明日には俺もあの中に……。


あれ?

端の方の一人、なんか見覚えがあるような。

あれっ?


俺は近づいてみる。

その男は図書館で会ったサム(自称)だった。


「サムさんですよね? 何してるんですか?」


俺が声を掛けると、サム(自称)は無表情でこっちを見る。


「おや? 貴方が噂のクズマ君とかいう魔術師ですか? おもしろい発表がされることを期待していますよ」

「いえ、あの……アカデミーの図書館で、会いましたよね?」

「存じませんね。人違いでしょう。その男はなんと名乗ったんですか?」

「サム、と名乗りました」

「私の名前と違います。別人ですよ」


いや、あれ偽名でしょ?

なおも追求したかったが、カレッタが後ろから服を引っ張るし、他の宮廷魔術師も変な視線を向けてくるしで、俺は引き下がるしかなかった。


「君は何をやっているんだね? わざわざ審査員の心証を下げるような事をする必要はないだろう」


教授がいた。

なんか、いつもより良い服を着ている気がする。

俺にはあんな事を言ったくせに、自分はいい服を着るのか。


「前に図書館であの人に会った、はずなんですけど……本人に否定されてしまって。……誰なんですか?」

「あの男はエルサム・ラディアント。第三十六位……いや、今は繰り上がって三十五位の宮廷魔術師だ」

「なんと……」


どうりで、宮廷魔術師の暗黒面とか、順位の低い宮廷魔術師の話とか、やたら詳しいと思ったら。

本物の宮廷魔術師、それも最下位だったとは。

そっかー。


「どんな華やかな業界も、ふたを開けてみると世知辛せちがらい物なんですね」

「君は何を言っとるんだ?」



俺達も、発表者向けに与えられた席に着いて、しばらく待つ。

発表の直前になって、警備兵が何人も入ってきた。


「見て、近衛兵が来てるわよ」

「とうとう、王族のおでましか」


物々しい男たちに囲まれて入ってきたのは、小柄な少女だった。

たぶん十台前半。

淡い色彩のドレスを着た金髪の美少女だ。


「あれ、第三王女じゃないの……」


カレッタが驚いたように言う。

驚いたのは俺も同じだ。

まさか王族が直々にお出ましとは。


周りの人の挨拶に、華のような笑顔を返している。

きっと心も水のように清らかなお方なのだろう。


などと思っていたら、突然カレッタに背中を叩かれた。


「あんた、王女様に変な視線を向けるんじゃないの。無礼でしょう」

「わ、わかっているよ」


列の最後尾にはアルトムもいた。

ちょっと待て。

おまえ、なんでそこにいるんだ?


というか、そこに並ばされる予定だったのに、さっきまで酔いつぶれていたのか?

バカなのか?

第三王女一行は、特等席の三段目に座った。



プログラムの順に従って発表が始まる。

最初に始まったウェンヒルの発表は、退屈、以外の言葉が出なかった。


「巨大な火の玉を発生させ、敵陣に落とすという攻撃は……」


火属性魔術の歴史から始まり。


「従来の呪文では、ラタトナール円環を機軸としていたが、これを私が開発したラタトナール円環弐式とでも呼ぶべき呪文構造に置き換えることによって……」


魔術の内容について語り……。


「今回の研究で判明したのは、ラタトナール円環にはまだ改善の余地があるという事であり……」


研究を続けていく必要性を説いて幕を閉じた。


いや、がんばったのは、わかる。

この研究の重要性も、研究を続けるメリットも、わかる。

でもそれだけだ。


強いて感想をあげるなら「今日おまえの話を聞く前から知ってた」としか言えない、非常に微妙な発表だった。

これ、本当にやる必要あったの? みたいな。


会場は終始、微妙に白けた感じで、義務めいた拍手に包まれながら発表は終わった。

満足したのは話していた本人だけだろう。

研究発表って、こういうのが多いけどね。



二人目の発表者は、大きな装置と共に現れた。

椅子のような形をしているが、柱のような物が上に延びていて、その先にはごちゃごちゃした機械が取り付けられている。

もう一つ、箱型のより大きくて重そうな機械。

何を始める気なのか?


「空を飛ぶ事は、長い間、人類の夢でした」


まさかの飛行装置だ。


「誰しも一度は、鳥のように飛ぶ事を夢見たでしょう。私はその夢に、一歩近づく事に成功しました」


聞いている俺たちは半信半疑だったが、発表者は余裕の笑みを浮かべながら、装置を指さす。


「これが飛行装置です。人を乗せて飛ぶ事ができます」


会場がどよめく。


「どなたか、乗ってみたい方はいますか?」

「わ、わらわが……」

「ごほん!」


誰かが手を挙げかけて、誰かが遮った。


「今の、第三王女じゃなかった?」


カレッタが小声で聞く。

俺にもそう聞こえた。

止めたのは、近衛兵の誰かだろう。

さすがに危ないもんな。


結局、エルサムが乗ることになった。

何あれ。

宮廷魔術師の最下位って、人柱のハズレクジを引かされる役なの?


エルサムが渋々椅子に座ると、発表者が大きな箱の方で何かをした。


ヒュォォォォン


甲高い音が響きわたって、突風が吹き荒れる。

エルサムを乗せた椅子が床から、腰の高さぐらいまで浮き上がった。

会場がざわざわと騒がしくなる。


「何だあれは?」

「人間を持ち上げる出力、出せるのか……」


ミリアが書いた設計図でも、そこまでできるかどうか怪しい。

椅子は、しばらくの間、浮いていたが、会場内のざわめきが収まる頃に、床まで降りてきた。

とたん、エルサムは立ち上がり、逃げるように椅子から離れた。

何その反応、やばいの?


「飛んでみた感想はいかがですか?」


空気を読んだ答えをお願いします、と言いたげな発表者に対して、エルサムはダメだ、と首を横に振る。


「なんか椅子の下が熱くなっていたぞ。これ、本当に大丈夫か? 長時間飛んだら燃えないか?」

「問題ありません。むしろ廃熱がスムーズに行われている証拠です」


発表者はすらすらと答える。


「あ、あれはダメね」


カレッタは、平然と失格を評ずる。


「どうしてそう思うんだ?」

「だって……嘘をついてる時のクズマのしゃべり方にそっくりだもの」

「おい。俺を不名誉な物の基準に使うのはやめてくれ」


俺たちがこそこそと話している間に、特等席から声が上がる。


「少し、質問があるのだが?」


質問をしたのは、アルトムだった。


「その、ホースのような物、それは何だね?」


アルトムが指摘したのは、装置の下部に繋がっているホースのような物。

浮かぶ椅子と、発表者が操作している大きな箱を繋いでいる。

確かに俺もちょっと気になってはいた。


発表者は笑顔で答える。


「今の所、操作はこちらで行っています。確実に信号を送るために、有線にしました」

「つまり、そのホースは外せるのか? 無線に作り直すこともできるのか? あるいは、操作系も積み込んで飛ぶことができるのか?」

「いや、その……それは、ですね。まだ研究をすすめてみないと」


急に歯切れが悪くなる発表者。

何か良くない傾向だ。


「事前に提出された概要には目を通したが、素材の強度や重さに関して目新しい情報がなかった。本当に飛べるのか?」

「何を言っているのですか? 浮遊しているのはあなたも見たでしょう?」

「ごまかすんじゃない。私が何を言いたいのか、理解できているのだろう?」


アルトムの疑いを簡単に説明すると、だ。


飛行装置は、装置自身の重さを浮かせるだけの出力を得ることが出来ない。

少なくとも現在の技術ではまだ無理なはず。

なのに、基礎研究レベルでのブレイクスルーがないのに、なぜ飛べるのか?


もしかして、重い部品、特に冷却系とかを、そっちの大きい箱の方に押し込んでごまかしているんじゃないか、と。


エルサムが大きな箱の方に近づいて、指先で触る。


「あちっ! 本当だ。これに比べたら、椅子の熱は大したことなかったな」


これで確定か。

アルトムは近くの誰かと話していたが、結論を出したらしい。


「つまり、完全な自立飛行はまだ不可能、という事かな?」

「それは、今後の研究で発展させていく課題になるでしょう」

「わかった。ありがとう」


アルトムは口調こそ丁寧だったが、言葉の裏には、これはダメだな、という感じが出ていた。


飛べないってのは最初からわかってたけど、飛べる振りをして出てきて、他人からそれを指摘されるって、あれだな。


上げてから落とす、みたいな残酷さがあるな。

しかもそれを自分に向けてやっちゃうみたいな。


本当、詐欺発表はよくないね。


「おにーちゃん。前編(前)って表記は何かなぁ? 私、そんなの見た事ないよー?」

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