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俺にいい考えがある


翌日。

約束通り、設計図を教授に預けに行ったら、部屋にはカレッタもいた。


「来たわね」

「カレッタはどうしてここに?」

「しばらく姿を見せないから心配してたのよ?」


なんと?


「ごめん。でも特別な事があったわけじゃないんだ。家の製図板の前で考え込んでいただけだよ」


俺は嘘をついた。

拾った少女とセックス三昧だったなんて口が裂けても言えない。

変な話になる前に、持ってきた設計図を教授に渡す。


「教授、約束の物です」

「見せてくれ。ほう……なるほど。ここがこうなって、こうなる……なるほど。なかなか良いじゃないか」

「あと三日で決まらなかったら、それを試作しようかと思うんですけど」

「それはちょっと厳しくないかね? やるなら、今日から始めても徹夜が必要になるぞ。それに金属部分の加工は、どこかに発注しないといけないから……」


それだと間に合いそうにないな。

実演は諦めた方が良さそうだ。


俺は、それとは別に厚ぼったい封筒を取り出す。


「コンペとは何の関係もないんですけど、これ、どこかに保管しておく事ってできませんか?」

「なんだね? 何が入っているのかね?」

「いえ、大した物じゃないんですけど……家においておくのもどうかと思って」


中身は魔術の設計図だ。

盗賊団のアジトから回収した物と、今までミリアが書いた物。

一番大事なのは『究極の魔術』の設計図。

ほかの物はそれを隠すためのダミーだ。


手元に保管しておくのはマズいと常々思っていた。けれど、ミリアに何かあった時の事を考えると、捨てるわけにも行かない。


教授は、封筒の中から一枚の設計図を取り出して、ちらっと見た後、ため息をつく。


「なるほど。そう言うことか……」

「はい?」

「これはコンペで発表する予定の物ではない、それで間違いないね?」

「ええ。当面は必要ないと思いますけど……」

「なら私から言う事は特にない。預かっておこう」


なんだ?

何と思われたんだ?


カレッタも不思議そうにのぞき込んで、あ……、と驚いた顔になっていた。

なんで?

不審がられるような要素はないと思ったんだけど。


「安心したまえ。捨てたりはしないよ。君が話してくれる気になるまで預かっておく」

「はあ……」


話すって、何を?

こいつら、俺の何に気づいたんだ?


何か釈然としない物は残ったが、俺の方から追求して墓穴を掘るわけにも行かない。


予定通り、カレッタとともに図書館へと向かう。

いや、カレッタがついてくることを予定に組み込んだ覚えはなかったけど。


「やっぱり、戦争に関わる物の方が、受けがいいんだろうか?」

「傾向としては、そうよね。でも兵器とか防御装置とかだと、既に誰かが作っちゃってる物が多いのかも知れないわよ」

「それは、確かにあるな」


宮廷魔術師の研究内容と被るな。

サムから言われた教えだ。

妥当ではあると思う。


「戦争そのものより、それを支援する装置っていうのは、どうかしら?」

「支援って、具体的には?」

「例えば、武器や兵士や食料を、素早く前線に運ぶ、とか?」

「輸送系か……」


それ、俺の作った動力機関じゃないの?

五十年後ぐらいには、あれが軍隊のスタンダードになっているんじゃないかと思う。

でも、今の時点では技術として未熟すぎるけど。


「戦争をしたら、ケガ人や死人も出るわね。そういうのを、なんとかするってのはどうかしら?」

「やっぱり防御系か?」

「いえ、治療というか、医療系ね。死んだ人間を生き返らせるとか、どうかしら?」

「無茶言うな……」


そんなことが出来るようになったら、文明の前提がひっくり返るぞ。


「医療系は、死んだ第五位が得意だったはずよ。あなたが、それを穴埋めするってのはどう? 宮廷魔術師になれそうじゃない?」

「できるなら、そうしたいけどな……」


そっち系はあんまり得意じゃないんだよな。

俺は今まで、機械ばっかり作ってたのもある。


それに、他にも同じ事を考えてくる奴がいるかもしれない。

発表が被るのは、やっぱり避けたい。


「もっと、みんなが困っているけど誰にもどうしようも出来ない物、ってないんだろうか?」


俺が漠然とした事を言うと、カレッタは笑う。


「そうね、市場の値段を下げる魔術ってどうかしら?」

「市場の値段?」

「例えば去年、なんか北の国と戦争してたじゃない? その時に食べ物の値段が倍ぐらいになった時期があったでしょ。ああいうのって、困るわよね」


確かに、それは俺も困る。


「でも、どんな魔術で値下げさせるんだ?」

「そうね? 例えば、催眠術で店員を混乱させて、安い値段で売らせるとか、どうかしら?」

「いやいや。それはマズいだろ」

「ダメかしら?」


俺も法律には詳しくないが、何かの罪に問われる可能性が高い。


「そんなことしても物資不足が解消されるわけじゃない。根本的な解決になってないよ……」


いや、待てよ?

自分で言ってから思ったけれど、この場合の根本的な解決って、どういう状態を指すんだ?


食料の値段が上がるのは、食料が足りないからだ。


戦争が始まれば軍隊が動員されて、そのための食料が必要になるから、値段が上がる。

それを阻止するためには……。


「やっぱり、輸送系か、保存系かしら?」

「いや、違う。違うぞ」


誰も思い付かなかった物。

思い付いても実現できなかった物。


それでも俺は思い付いた。

ミリアならたぶん実現できる。


「これだ、これしかない」

「クズマ、どうしたの急に? 何を思いついたのよ」

「俺も到達したのさ、『究極の魔術』ってやつにな」


第五位とは違う形態ではあるが、これはこれで究極と言えなくもない。

俺は内容を聞きたがるカレッタを言いくるめながら、必要な設計図を借りて図書館を後にした。


自宅に帰ると、ミリアが暇そうに本を読んでいた。


「おかえりなさい。今日も、設計図やるんですか?」

「ああ。何を作ればいいのか、ようやく決まったよ」

「どんな物を作るんですか?」

「ま、これを見てくれ」


俺は借りてきた設計図を並べて行く。

一つ一つを説明していくと、ミリアは首を傾げる。


「これ、ですか? 何を作ろうとしているのかよくわからないんですけど」

「大丈夫だ。ミリアはそんな事を心配する必要はないさ」


むしろその方が上手く行くような気がするからな。


「でも、選んでる設計図が、脈絡ないような気がするんですけど……これ、本当に組み合わさるんですか?」

「それはやってみなければ、解らないな。まあ、一回や二回失敗しても、リトライするだけだろ」

「リトライなんて簡単に言うけどわかってますよね。それ、クズマさん一人でやるんじゃないんですよ」


このあと滅茶苦茶、以下略



「おにーちゃん、これ、何の研究を始める気なの?」


詳細はコンペの発表で明らかになる予定だよ


「つまり、まだ決まってないんだ?」


そんな事はないよ


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