不殺の決意、ファイとの共闘
決意を新たに、来るべき戦いに向けて休息を取る。そして、起きた時にはすでに空が夕闇に染まっていた。日の光へとマジックをかざし、それを胸に当てる。最初にハンターとして活動した日とは違い、マジックは私に自信を与えてくれた。そう、私ならきっと大丈夫だし、ファイも話せばわかってくれる。
さあ、準備を済ませて向かうとしましょう。今まで以上に厳しくなる戦いを前に、メイクをしながら気持ちを強く保つ。しっかり変装できた私は、意を決して家を出る。少しずつ高鳴る鼓動を抑え、大きくなる不安を振り払いながら目的地へと走る。
そして昨日と同じ時刻、宮殿へ着いた私はファイと鉢合わせた。
私の顔を見るなり、ファイは強く睨んでくる。
「何でまた来たんだ!? あれ程言っただろう!?」
ファイはこの前と同じ真剣な眼差しを真っ直ぐ私へ向けてくる。それは私のことを思っていてくれるからだけれど、今日は私もここで引き下がるわけにはいかない。
そう、私も決心したのだから。
「……お願い、私の話を聞いて」
私の必死さが伝わったのか、それを聞いてファイは黙り込んだ。彼は何かを考えているようだったけど、しばらくして頷いた。
「ありがとう。私、確かにあなたの言う通り、魔物になりかけていたかもしれない。だから、もう辞めようと思ったの」
「ならばなぜ!?」
「それは……あなたのことが気がかりだったから。私が辞めた後もあなたはきっと戦い続ける。マジックが引き起こす悲劇、その責任を全てあなたに押し付けて逃げ帰ることができなかった。だから……」
「だから?」
「これからは、私は人を傷つけずにハンター活動をするわ。あなたと目的を同じくし、この争いを終わらせるために戦う。それならいいでしょ?」
「ダメだ。それは君を危険に晒すこととなる。君はやっぱり帰るべきだ」
「平気よ。最初からその覚悟はあったもの。さ、今夜の任務へ向かいましょう」
「お、おい!」
ファイが私を心配する気持ちはわかる。けれど、私だってファイのことが心配だわ。
だから、これは譲れないの。ごめんね、ファイ。
「……わかった、わかったからちょっと待て! 策もなく突き進むのは危険だ」
「わかってくれたの? それじゃあ作戦を立てましょう」
「ああ」
ファイはマジックを取り出し、それらを私に差し出した。
「触れろ。最低限の能力として、お前も鑑定に必要なシックスセンスはあるはずだ」
「何よその言い方。ちゃんとわかるわよ」
ファイの所持するマジックは、今までに使ったもの以外に二つあった。それぞれ姿を消す効果の『ハイド』と、自らの音を消す『サイレンス』ね。これを使えば上手く潜入できるかもしれない。
あ、でも老婆は『クレイボイエンス』によってこのやり取りも見ているかもしれない。そして、ファイはおそらくそのことは知らないはずだわ。
「ファイ、魔女の噂は知っている?」
「町の外れに済む老婆のことか。……お前まさか」
「そう、私は騙されてしまったみたいなの。それと、老婆の持つマジックの中に千里眼と暴露の効果のものがあったわ」
「厄介だな……」
ファイは黙り込み、何かを考え始めた。どうすれば老婆に勝つことができるか、その作戦を立てているんだわ。
私も何か考えられたらいいんだけど……。
「……もしかしたら」
「何? どうかしたの?」
「一つ聞きたいことがある。その千里眼のマジックとやらは、音まで拾うことができるのか?」
「音? いいえ、実際に使っているところを見たけれど、映像だけよ」
「それならできるかもしれない……」
どういうこと? もしかして『サイレント』と『ハイド』を使えば切り抜けられるってことかしら? 先にそのことを知られたら、向こうも対策を用意してきそうな気がするけれど……。
「いいか、よく聞け。今から俺の言う通りにしろ」
「えっ? それってどういう……」
「まず、俺と口論しろ」
「は、はあ!? 口論って、一体何を?」
「それでいい。素晴らしい演技だ」
演技じゃなくて本音よ! 全く、突然何を言い出すのかしら。
「よし、じゃあ次。俺を思いっ切り叩け。そして、俺が落とすマジックを奪って逃げるんだ」
「……はあ!? さっきから何言ってるのよ! そんなことして何になるわけ!?」
「俺を信じろ!」
「うっ……」
発言内容はふざけているようにしか聞こえないけれど、目を見れば本気だということはわかる。
ここはファイを信じるしかないようね……。
「わかったわ。気が引けるけれど……」
「いいから叩け! 俺たちがけんかしているように見せるんだ!」
「ごめんね……絶対この作戦を成功させるから!」
私は思い切りファイの頬を叩いた。そして、落としたマジックを拾ってその場から逃げ去るように走る。
そして、鑑定した結果わかった。ファイがくれたのは『ハイド』とサイレンスのマジックだ。それだけでファイの伝えたいことはわかる。ファイの立てた策で宮殿に乗り込めということね。
わざわざ私にその役目を託したのは、自らを囮とするため。それなら何かファイからの合図があるはず。
建物の陰に隠れならが、それを見逃さないように待つ。すると、しばらくして宮殿の方で雷が鳴り出した。
きっと今なら老婆もファイへと注意を注いでいる。今がマジックを使うチャンス!
「ハイド! サイレント! フロート!」
魔力を惜しまずマジックを連発し、私は姿も音も消しつつ宙へと浮いた。
急いで向かうためには、もう一つ使う必要があるわね。
「ウィンド!」
生じさせた風に乗り、宮殿へと向かって宙を駆け抜ける。時間が経てば経つ程ファイが危険になるから、一刻も早く向かわないと!
眼下に雷鳴が轟く中、私は宮殿の二階の窓を破って侵入した。
広い空間に、老婆がただ一人佇んでいる。作戦が上手くいったおかげで、兵士は一人もいないわ。
「何事じゃ!」
老婆が慌ててマジックを取り出し、それは白く輝き始めた。
「リビール!」
その詠唱の直後、消えていたはずの私の姿は暴き出された。
「ほう、お前さんか。まさかこんな小娘に一本取られるとはねえ……」
「よくも……よくも騙したわね!」