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ファイの思い

 落ちてゆく絶望の中で、ただただ死を覚悟することしかできない。私はあまりにも無力だった……。


「お、おい! なんだあのハンググライダーは!?」


 ハンググライダー……? まさか!?


「仲間を助ける気だ! あいつも撃ち落せ!」


 そんな……何で私を助けに来たの? 私はあなたを倒そうとしていたのに、それなのになぜ?


「よーく狙えよ?」

「ま、待て! 何か様子がおかしいぞ!」

「ひい! 雷だ! 雷がこっちへ来る!」


 雷……ファイが『ライトニング』を発動させたのね。

 危機を脱したことに安堵していると、私は何者かに抱きかかえられた。それが誰かは見なくてもわかる。


「全く、お前と言う奴は……」

「ファイ……どうして私を?」

「説明は後だ。とりあえず今は逃げるぞ」


 視界の中で宮殿が遠のいていく。そして風が吹き抜けていくような感覚がなくなった時、ファイは私を地へと降ろした。


「矢を抜かないといけない。少し痛いかもしれないけれど我慢しろよ?」

「なっ!? ちょっと待っ……うぐう!」

「今治療してやる。ヒール!」


 ファイのかざしたマジックが白く輝き、私を温かな光が包む。直後、あれ程の激痛が和らいでいった。


「ここも危ない。逃げるぞ!」

「ちょ、ちょっと! 何で私を……」

「いいから来い!」


 一体どういうことなのか説明もしてくれず、ファイは私の腕を強引につかんで走り出した!


「ちょ、ちょっと! どういうつもりよ!? どこへ連れていくの!?」


 振り解こうとするけれど逃れることができず、問いかけにも一切答えてくれない。

 仕方ないのでしばらくそうして走り続け、数分程経った後にようやく腕を離してもらえた。けれど、ファイはまだ私を解放する気がないようで、とても怖い表情で私を睨みながら思いっきり壁を殴りつけた。


「来るなと言っただろう!」


 わあっ! びっくりした……。

 突然何? なぜ怒っているの!? あなたには何も関係ないじゃない!

 ……と言いたいけれど、いつになく荒々しい口調と鋭い瞳に圧倒されて反論できない。


「あれ程言ったのにどうして来たんだ!? 捕まったら確実に殺されるぞ!? 死んだらどうするんだ!?」

「……え? それって」

「な、何でもない!」


 急に顔を背けられた……。もしかして、怒っていたんじゃなくて心配してくれていたのかしら?

 でも、敵であるはずの私をなぜ? それに、危険を冒してまで助けてくれるなんて……。


「わかったら早く帰れ……」


 吐き捨てるような無愛想な言い方だけれども、なぜだか冷たさを感じない。私はこの人のことを誤解していたのかもしれないわ。


「……迷惑かけてごめんなさい。それと、ありがとう」

「気にするな。いや、むしろもう全部忘れろ。これからはマジックと関わらずに生きていけ」

「どうして!? 私がマジックハンターとして活動しているとそんなに迷惑なの? それならなぜ私を助けたの?」

「迷惑だなんて言ってない!」

「ならどうして!?」

「それは……。いいから帰れ!」

「教えてくれないなら帰らない!」


 そう言い放ち走り去ろうとする私の腕を、ファイは強い力でつかんだ。


「離して! 離してよ!」

「ダメだ、絶対に向かわせない!」

「なぜそんなにまでして私の邪魔をするの!?」

「君が美しいからだ!」

「なっ……はあ!?」


 突然のことで、私の理解が追いつかない。美しいから邪魔をするってどういうこと!? それに、話し方もいつもと違っているし、いきなり君だなんて呼び出すし、それに、それに……!


「い、意味わかんないわよ! どうして美しいと邪魔をするの!?」

「俺は君のような綺麗な女性に、マジックハンターなんかになってほしくないんだ!」


 その言葉を聞いて、私の中で時が止まりそうになった。その真っ直ぐな瞳からも、必死な口調からも、彼が真剣だということは痛い程伝わってくる。


「マジックハンターというのは、人の皮を被った魔物のことなんだ。お互いに奪い合い、傷付け、挙句に誰かを殺してしまう。そんなことを平気でやってのける人たちのことだ。俺は、マジックなんてなければいいとさえ思っている」

「そんな……」

「わかったら、もうこんなこと辞めて普通の女の子に戻るんだ。今日は俺もあきらめざるを得ないし、家まで送ってやるから」


 突きつけられた言葉の前に自分がどうすべきなのかもわからなくなり、ただただファイに連れていかれるしかなかった。そうして無言で私を家まで送り届け、そのまま帰ってしまった。

 一人になっても落ち着きを取り戻せず、先程のことを思い返す。マジックハンターは人の心を持たない魔物で、平気で人を殺してしまう。ファイの言葉が頭をぐるぐると回り、離れようとしない。

 私はそんなものに憧れていたの? 冷血でおぞましい怪物になりたかったの? そんなつもりじゃなかったはずなのに、私はただスリルに満ちた生活に魅力を感じただけなのに……。

 けれど、確かに私はこの手で人をあやめてしまった。少しずつ、私は闇へと染まろうとしていたんだわ。

 だからファイは私からマジックを取り上げようとしていたんだ。夢を見せて警告したり、マジックと関わるなと諭したり。それなのに、私はファイのことを全くわかっていなかった。彼が私利私欲のために行動しているのだと勘違いして、言うことを聞かずに心配もかけた。

 私は……どうしたらいいの? もう過ちを繰り返したくないけれど、私がマジックハンターを辞めたらファイはどうなるの?

 それなら私は……。そうね、それがいいわ。

 私は最後まで戦う!

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