宮殿の罠
さて、まずは町に出かけて武器になりそうなものを買わないと。
顔を洗いながら、何を使えばいいかを考える。昨日と同じ戦法が通用するとも思えないし、一体どうすればいいのかしら? 爆薬でも買えたらいいのだけれど、そんなことしたら怪しまれる。ファイの使用した『ディスガイズ』の効果中に、もっといろんなものを買っておくべきだったわね。
悔やんでいても仕方ないし、着替えを済ませて町に向かいましょう。店を見て回れば、何かいいものが見付かるかもしれないわ。
マジックも一応忍ばせておいて……っと、これでよし。
早速家を出て町へと向かう。マジックハンターとしてではないから、今日は普通の道を歩いて向かう。一応警戒はしておくけれど、軽く注意を払うくらいでいいからさほど疲れない。
そして、町へと着いたので店をじっくり見て回る。武器屋、薬屋、いろいろな店があるけれど、よさそうなものが見付からない。あまり物騒なものは買えないし、どうしたものかしらね。
仕方ないわ……気が進まないけれど、またあの老婆に知恵を借りるとしましょう。人の弱みを握るような、心からは信用できない人だけれど……。
町の外れへと向かい、人目がないのを確認してからドアを開ける。店へと入った私を出迎えてくれたのは、相変わらずの不敵な笑みだった。
「おや? また来たのかい?」
「ええ、次も負けないように、何か策を考えてくれないかしら?」
「そんなもの、爆薬でも使えばよかろうに。あの男一人くらい、簡単に消し去れるじゃろう」
「でも、そんな物騒なものを買ったら怪しまれるじゃない?」
「本当に手のかかる子だねえ……」
老婆は私を馬鹿にするように笑っている。少し頭に来るけれど、落ち着いて怒りを抑える。
そんな私を見ながら、老婆は赤い液体の入った瓶を取り出した。
「使いな。衝撃を与えれば爆発する薬さ」
「え? いいの?」
「あんたにはがんばってほしいからねえ。さあ、もう一回勝って来な」
「ありがとう。期待に応えられるように、いいものを見せてあげるわ」
「そうかい、楽しみにしておくよ」
そう送り出す老婆の声は、やはり笑い声の混じったものだった。何がそんなにおかしいのか、よくわからないけれど気にしないでおきましょう。
さて、後は次のマジック出現を待つだけ。次こそファイを逃がさないようにしなければ! そう決心を固め、来る日も来る日もファイを倒す計画を練り続ける。
そうして数日後、老婆の『リポート』により新たなマジックの情報が届いた。一週間後、この国を治める皇帝の宮殿に現れるらしい。
そして、今はその当日。私はすでに宮殿の近くまで来ている。
門は兵士が守っているでしょうから、空から侵入することにしましょう。一流のハンターと違って私にはその身体能力はないけれど、代わりにこの『フロート』がある。これを使えば二階や三階から入ることが可能になるわ。
さて、辺りもすっかり暗くなったことだし、そろそろ行動開始の時間ね。
「フロート!」
私の詠唱に呼応し、マジックは白く輝く。そして、私は宙を歩きながら宮殿へと向かった。
これで誰にも気付かれずに……。
「来たぞ!」
「えっ!? 何!?」
不意に私は強い光に照らされた。誰にも知られずに侵入するはずだったのに、どうして見付かったの!?
「気をつけろ! 爆薬を所持しているとの情報だ!」
どういうことなの!? それを知っているなんて……。まさか、あの老婆が私のことを教えたの!?
それじゃあ、もしかして爆薬をくれたのは私を油断させて宮殿に招くため? 私が逃げずにここへ現れるように仕向けた罠だったの!?
「よく狙って放て! 撃ち落した後はなるべく遠ざかれ!」
まずい、ここは一度逃げなければ! 全力で宙を駆け抜け、襲い来る矢から逃れる。
どうして……どうしてこんなことに!?
「もらったあ!」
「えっ!? きゃああ!」
痛い! 背中に火が燃え移ったかのような激痛!
あまりの痛さに体を動かすこともできない……。
「落ちるぞ! 離れろ!」
あっけない最期だったわ……。老婆に騙されて、この宮殿まで誘き寄せられるなんて……。