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魔女の店

 町の人に尋ねながら探し回り、かれこれもう三十分程経つ。けれど、いくら探しても見付からない。本当にそんな店あるのかしら? 隅々まで回って、町外れまで来てしまったけれど……。

 あら? あの店だけ何だか様子が変だわ。上手く言えないけれど、奇妙なオーラを発している……ような気がする。

 確証はないけれど、とりあえず入ってみればわかるわ。

 周囲に誰もいないことを確認し、向かい側の道へと渡る。そして店の前に立ち、ゆっくりとドアを開けて中の様子を伺った。


「どうぞ、お入り……」


 ローブを纏い水晶玉に手をかざす老婆が、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。

 その雰囲気に呑まれてしまいそうだけれど、ここで逃げ帰るようでは一流のマジックハンターには程遠いわ。覚悟を決めて入るしかないわね。


「すみません。この町に魔女がいると聞いたのですが……」

「そりゃあ私のことさ。マジックのを情報として流しているのも私」


 噂は本当だったんだ……。この人が、マジックが出現した位置をハンターたちに教えていたわけね。

 でも、何のためにそんなことをしているんだろう?


「あの……」

「どうしてそんなことをするか、理由を聞きたいかい?」

「な、何で言う前に!?」

「ここに来る人はみんなそれを気にするからねえ。率直に言うと、あんたらの活躍を見たいからさ。私はこの通り老いぼれだから、夢を追う代わりに若者の後押しをしているわけ」


 確かに、お年寄りにとっては廃墟の探索は無理があるかも。だからこうして自分にできることをしているのね。


「さて、それじゃ占ってあげようかねえ。と、その前に……」


 言いながら老婆は何かを探り出した。そして取り出したものはなんとマジックだった!


「リビール!」


 その詠唱と同時に、老婆の持つ半透明の球体が白く輝いた。

 この人もマジックを持っていたなんて!


「心配いらんよ。今のはあんたの正体を見破るだけのマジックさ。ただ、変な気を起こしたらその情報が流れることは覚悟しときなよ? その時はこの『リポート』を使って、国中にあんたの情報を流してやるからね」


 そう言って別なマジックを手に取り、またしても不敵な笑みを見せた。

 老婆の言う通り、これではマジックを強奪できそうにない。失敗して情報を流されたら、私はもうどこへも逃げ場がなくなってしまう。


「さて、それじゃあ始めようかね」


 老婆は水晶玉には手をかざさず、再び別なマジックを取り出した。


「サーチ! ……ふむふむ、どうやら天を漂うマジックが、二十日後の夜この町を通過するようじゃな。この情報は他の人にも流さないといけないから、ちょっと失礼するよ。リポート!」


 再び先程見せてきたマジックを取り出し、使用した。情報を流すためのマジックだと言っていたものだ。


「国中の者に告ぐ、国中の者に告ぐ。二十日後の夜、イーストタウン上空にマジックが現れるであろう。我が物とせんと欲する者は、直ちに準備を進めるがよろしい」


 老婆の声は、町の外からも聞こえてくる。老婆の使用したマジックが伝達の効果を持つことは、もはや疑う余地が全くない。


「さて、せっかく来たあんたには他の情報を上げようかね。どれどれ……」


 老婆は四つ目のマジックを取り出した。こんなにたくさんマジックを使いこなしているなんて……。


「クレイボイエンス!」


 老婆の詠唱の直後、水晶玉に映像が映し出された。そこにはファイの姿が見える。


「千里眼のマジックさ。目に直接映すこともできるけど、あんたが怖がらないようにこうして水晶玉へと映したんだよ。で、どうだい? この男にやられっぱなしじゃ悔しかろう」

「……やっぱり、見ていたのね」

「それが仕事だから、悪く思わないでおくれ。それよりも、せっかくこの男の計画を筒抜けにしてやってるんだから、何か対策を考えな」

「対策って言われても……」

「よく観察してみな。ほら、案外わかりやすいもんさ。この男は時計台からハンググライダーを使って、丁度マジックが通過するところを狙って回収するつもりのようじゃ」


 確かに老婆の言う通り、ファイは時計台を拠点に思考を巡らせているように見える。


「そして、マジックが時計台に一番近づくのは中央広場上空。その直線上を辿れば、この男がどこへ着地するのかわかるじゃろう?」

「その先にあるのは平原……。着陸もしやすいから、間違いなくここへ来る!」

「つまり、この男が他のハンターを出し抜いてマジックを獲得すると予想するなら、あんたは一足先にここへ向かって待ち伏せしておけばいい」

「でも、私では勝つのは大変そう……」

「おかしなことを」


 真剣に悩む私を見て、老婆は笑い出した。

 私との戦いを見ていたのなら、ファイがどれ程強いかわかっているはずなのに。何がおかしいって言うのよ!?


「いいかい? あんたはマジックハンターじゃろう? 魔法使いである以前に、トレジャーハンターでもあるわけじゃ。それはつまり、盗賊や怪盗のたぐいということでもある」

「何が言いたいのよ?」

「道具を使えと言っておる。この男もハンググライダーを使おうと計画しているように、あんたも何か対抗できそうな道具を使いな」


 道具……? なるほど、その手があったわね。何もマジックハンターは魔法だけを武器としているわけじゃない。身体能力や探索能力、それに知恵や道具もしっかり使いこなしてこそ上手く戦える。

 マジックでは歯が立たないのなら、私は他の手でファイを超えればいい。

 早速準備をしないと……。


「ありがとう。ええと、情報量はいくらかしら?」

「いらないよ、そんなもの。あんたが楽しませてくれればそれで満足さ」

「そう。なら、面白いものを見せてあげるために、さっそく店で必要なものを揃えるわ。それじゃ」

「健闘を祈るよ……」


 笑い声の混じったような激励を受け、私は老婆の店を出た。

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