町の噂
私は死ぬのかしら? こんなにあっさりと……。
「いい加減に起きろ!」
「わっ! な、何!?」
「いつまで寝てるんだよ……」
飛び起きてみると、私がいるのは城の外だった。すでに日が昇っていて、周囲の様子を確認できる程明るい。そして、目の前には先程のハンターがいる!
「あ、あなた一体どういうつもりよ!?」
「大声を出すな。人が来る」
しまった! 夜が明けていることに加え、ここは屋外だわ。
誰かに見られていないか、慌てて確認する。……どうやら他に人はいないようね。
「これでわかっただろう? お前にマジックハンターは無理だ」
「そんなのあなたに言われる筋合いないわ! 私のことは私で決め……」
そう言いかけた時、男は私の顔へと手を伸ばしてきた。そして、顔を男の方へと引き寄せられる。
突然の出来事に、私はどうしたらいいのかわからなくなり、心臓が早鐘のように打つのが頭に鳴り響いていた。
「いいから言うことを聞け。見逃してやったんだからな」
「見逃すって、私のマジックを奪っておいてよくも……! あれ?」
ポケットの中にマジックが入ったままだ。この男は私のマジックを奪っていない!?
そのチャンスはいくらでもあったはずなのに、一体なぜ?
「家までの安全も保障しよう」
男は白い球体を取り出した。マジックのようだけれども、敵意を感じない。
「ディスガイズ!」
男の詠唱によりマジックは白い光を放ち、私を包み込んだ。けれど、それがどのような効果があるのかはわからない。感覚的には特に何も影響がないようだけれど……。
「私に何をしたの!?」
「心配ない。ただ見た目を変えただけだ」
「見た目ですって?」
「これで確認しろ」
そう言って男は鏡の破片を手渡してきた。
「さっき拾ったものだ。割れているが、その大きさなら充分だろう」
「確認って、何をどうしろって言うのよ?」
「見ればわかる」
全く、何なのかしら? 鏡を見たって、そこには私の顔が映るだけに決まって……。
な、何よこれ!? 別人の顔が映っている!? 赤いポニーテール、鋭い目つき、イヤリングまで……。
それに、今気付いたけれど身長も伸びてる。先程はこの男の方が明らかに背が高かったけれど、今はその顔が私と同じ高さにある。
「その姿なら安心して帰ることができるだろう。効果は一時間続くから、町外れに住んでいても問題ないはずだ」
「……意味わからない。こんなことしてあなたに何の得があるの?」
「さあな。さて、それじゃ俺は失礼する」
「あ、ちょっと待って!」
歩み去ろうとするその男を慌てて引き止めると、振り返りはしないものの立ち止まってはくれた。
「……どうした? やはり一人で帰るのは心細いか?」
「な!? 違うわよ!」
「なら何だ?」
「……名前くらい、名前くらい教えなさい!」
その問いに男はしばらく無言になり、流れる沈黙に気まずくなる。
答える気がなさそうな反応だったけれど、やがて男は溜め息を吐いてから振り向いた。
「ファイと呼べ。それが俺のハンターネームだ」
「あ、ちょっと!」
名乗った直後、ファイはすぐ側の森へと姿を眩ませた。
マジックを私から奪わないし、無事に帰そうだなんてよくわからない人だったわ。まあ、何が目的なのか知らないけど、気にしない方がいいわね。
さて、このまま帰るよりも、せっかくだからこの変装の効果を利用してやるわよ。一時間もあれば護身用のアイテムを買う時間も、情報を収集する時間も充分にあるわ。迂闊だったわね、ファイ。この効果によって、私をより一層ハンターとして活躍させることになろうとは思わなかったのでしょうね。
さあ、そうと決まれば早速町へと向かわなきゃ。この城の周辺にいたことを隠すために森を駆け抜け、誰にも会わないように町を目指す。
そうして十分程で町へと辿り着いた私は、早速マジックに関することを聞いてみた。そんなに簡単に情報が得られるとは思っていなかったけれど、その予想に反して多くの人が噂を耳にしていたようだ。中でも驚いたのは、昨夜のファイと私の戦いがすでに広まっているということ。こんなに早く正確な情報が流れるなんて、何だか妙な気がする。
その発信源が気になった私は、そのことについても聞いて回った。すると、ある奇妙な話が存在することを私は知った。どうやらこの町のどこかに魔女が住んでいて、町に噂を流しているのだそう。
もしそれが本当なら、その魔女に会うことでいち早くより正確な情報を得られるかもしれない。今は変装のマジックによって私の素顔もハンターの顔も知られることはないし、思い切って調べてみましょうか。