衝撃の出会い
慎重に狙いを定め、部屋の奥まで届くように瓶を高く投げた。
ガラスの割れる音がした直後、二つの光源が揺れ動く。それぞれ青と緑に発光しているその球体は、潜伏している敵の所持するマジックに違いない。
魔法の発動により照らし出されれば、もしくは攻撃が当たった感触がなければ囮だと気付かれてしまう。その前の一瞬の隙を狙い、私も『ファイア』のマジックを前方へとかざす。球体の中で炎が燃え出し、私の周りもオレンジ色に照らし出される。
「アクア!」
「ウィンド!」
二名の詠唱が響き渡り、青と緑のマジックはその光をさらに増した。それにより敵の周囲も明るくなり、私は確実に攻撃を命中させることができる。
部屋の向こう側へと放たれた水と風の魔法の先、そこにあるのはガラスの破片のみで私はいない。敵が罠にかかったと気付いたかどうかというこのタイミングで、私はしっかりとターゲットへ照準を合わせ終わったそのマジックを発動させる。
「ファイア!」
私の詠唱の直後、マジックから炎が二度放たれ敵をそれぞれ焼く。瞬く間に敵は灼熱に包まれ、そして瞬時にその火は消え去る。再び漆黒の闇へと部屋が戻るその直前に、私の目にはその敵がいた場所が映った。そこには何事もなかったように灰すら一切残ってなどいない。
無事勝利したことに胸を撫で下ろすと、地面に何かが落ちるカツンという音が二つ鳴った。その場所まで歩み寄り、手探りでそれを見つけて拾い上げてみる。ハンターの能力によって鑑定した結果、それらは『アクア』と『ウィンド』だと確認ができた。念じてみると片方は球体の中に青く透き通った水が生じ、もう片方は薄緑の小さな竜巻が生じる。
私の初戦闘にして初収穫。一人前のハンターへの第一歩として、これ以上うれしいことはないはずよ。
……それなのに、なぜだか純粋に喜ぶことができない。どうしてかしら? 胸が張り裂けそうなくらい痛み出す。
どうして? 倒さなければ私が命を落としていたかもしれないのよ!? だから私は何も悪くないわ。
悪くないのに……どうしてこんなに胸が痛むの?
わからない……。きっと気のせいよ! 気にしないで早く先へ進まないと。そうよ、他のハンターに先を越されないためにも、悩んでいないで探索を続けないと。
今いる部屋の広さを測り、この城の大体の構造を思い描く。頂上までの最短ルートを推測し、なるべく敵へ遭遇しないように忍び足で進む。階段も這うようにして慎重に上り、常にナイフを構えて戦闘態勢を崩さないように気をつける。
順調に目的の部屋へ近づいているはずなのに、なぜだかとても気持ちが悪い。そうだわ、これはまるでさっき見た夢と同じよ。このまま最後の部屋へ向かって大丈夫なのか、急に不安になってくる。
でも、ここで逃げ出すようではマジックハンター失格だわ。危険だから何よ? そんなの最初っから知っていたわ。覚悟はもう決めたはずなんだから、もう後戻りはできない。
決心を固めながら一段ずつ階段を上ると、おそらく最上階であろうフロアへと着いた。窓から差し込む微かな光によって、目の前にある大きなドアが照らし出される。この先にマジックがあるに違いないわ。
ドアを静かに開け、部屋の様子を伺う。どうやら誰もいないみたいだし、今の内に……。
「待て」
不意に背後から呼びかけられた。その言葉とは相反し、穏やかで落ち着いた様子の声だわ。そして何より気がかりなのは、夢で聞いたのと同じ声だということ。それにより先程の顔が脳内に蘇り、どうしても意識から振り払うことができない。
「なぜここへ来た?」
「な、なぜですって? そんなの、あなたには関係ないわ!」
「ここに来れば死ぬことになると、わざわざ『ドリーム』を使って教えてやったというのに」
「そ、それどういうことよ!?」
さっきの夢はこの人が見せたものなの!? 一体何のために……?
「俺はこの城の周辺一帯へマジックを使用し、ある特定の夢を見せた。ここに誰もこないようにするためにな」
「それを聞いてわかったわ。他のハンターとの戦闘を避け、安全にこの城のマジックを手に入れようと思ったわけね?」
「……全く」
はっきり聞こえるように溜め息が漏らされた。私の発言に呆れているみたい。
「何かおかしいことを言ったかしら?」
「失礼。少々理解力に欠けるようでね……」
「何ですって!?」
「用件だけ言うからよく聞け。持っているマジックを全てここへ置いて帰れ。そうすれば、俺はお前に一切手出ししないと約束しよう」
何を言い出すかと思ったら……。大人しく渡せば襲わないなんて、そんな保証はどこにもないじゃない。そんなこと言っておいて、私から確実にマジックを奪おうと企んでいるに違いないわ。
そもそも、本当に約束を守るのだとしても、だからってなぜ言うことを聞く必要があるのよ? 私だって同じマジックハンターなんだから、ここは戦うしかないわ。
向こうが油断している今がチャンス!
「ファイア!」
取り出したマジックを後方へ向け、瞬時に詠唱する。燃え盛る炎が真っ直ぐに向かう先に、夢で見た男の姿が照らし出される。
上手く先制攻撃できたと、そう思った。しかし、男もその手に持ったマジックを発動させようとしている。
「ライトニング!」
男の詠唱の直後に白い雷が生じ、炎をなぎ払った。
「もう一度だけ言おう。今すぐここを立ち去れ」
「嫌よ! 何であなたの言うことを聞かなきゃならないの?」
「死んでも知らないぞ?」
「そっくりそのままあなたに返すわ! ファイア!」
今度こそ直撃したと思って喜んだのも束の間、その炎の先に男はいなかった。
そして、背後から口と右腕を押さえられた! しまったと気付いても、もう遅い。
「警告はしてやった。聞かなかったのはお前だ」
必死に抵抗しているのに、全く振り解けない。息苦しくて、段々意識が遠のいていく……。