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初潜入! 廃墟の城

 玄関へ向かい、ドアを微かに開けてその隙間から外を伺う。ここは滅多に人が訪れない静かな湖の側だけれど、念入りに確かめておかないと。もし誰かに見られていたら、私はこの国中の人間から追われる身となってしまうから。

 どうやら誰もいないみたいだし、心配なさそうね。外に出てしっかりと鍵をかけ、夕闇に沈み始める中で木々に隠れながら移動する。足音を立てずに走っていることに加え、この薄暗さなら誰かに気付かれることはないはずよ。

 湖の側に生い茂る木々の間を駆け抜け、少し離れた場所にある城を目指して急ぐ。その城は廃墟と化しているそうなのだけれど、噂ではそこにマジックが眠っているらしい。どうしてそんな場所にあるのか、そしてその情報はどこから湧いて出たのかわからない。何者かがそこへ置いたのか、自然とそこへ現れたのか、それを見た者がいるのか、何者かの誘いなのか……。謎だらけで怪しい話だけれども、そこにマジックがあると言われればマジックハンターとしては行かざるを得ないわ。

 とは言いつつ、マジックハンターとしての初仕事は少し緊張する。先程の夢では何度も建物へ侵入した気分になっていたけれど、実際は今日が初めてなのだから不安と好奇心が大きく渦巻く。

 高鳴る鼓動を抑えつつしばらく走り続け、ようやく目的地へと着いた。すでに空は濃紺に染まり、星々が瞬いている。それを背景にそびえ立つ城は、その真っ白な色が際立ち一層不気味に感じる。

 これからここへ忍び込むわけだけど、私と同じようにマジックを狙う人が待ち伏せている可能性があるわね。幸い、ここまで来る間に他のハンターと遭遇せずに済んだ。けれど、ここから先は戦闘も覚悟しておかなければならない。もし負けるようなことがあれば、所持しているマジックを奪われるどころか命の危険も考えられるわ。充分に気をつけて進まないと……。

 周りに誰もいないことを確かめ、入り口の前へと立つ。熟練のハンターなら二階や三階の窓から潜入することも可能でしょうけれど、道具も身体能力もない私は正面から入るしかない。その分危険性も増すのだけれど、他に方法がないから仕方ないわ。

 敵が待ち伏せていても対応できるように、左手に『ファイア』を、右手にナイフを握り締めながらドアを勢いよく開ける。そして瞬時に両手の武器を構えたのだけれど、どうやら入り口付近には誰もいなかったようね。内部は真っ暗だけど、入り口付近はドアを開けたことによりある程度照らし出されている。そこには人影は存在しない。

 敵がいないということは、今が忍び込むチャンス。誰にも見付からない内に素早く城の中へと入り、ドアも静かに、なおかつ急いで閉める。そして即座にその場からなるべく遠ざかった。ドアを開けたことにより外の光が入り込み、それにより気付かれたかもしれないから。

 感覚を研ぎ澄ませ、こちらへ向かってくる気配や足音がないか探る。静まり返った空間は、凍り付いたように何者の存在も感じられない。

 恐る恐る手探りで壁伝いに移動し、同時に脳裏に構造を焼き付ける。外観から大体の広さは察することができたので、後は各部屋の配分がわかれば暗くても探索は可能ね。そうしている間にも部屋の隅まで辿り着き、この部屋の広さは把握することができた。奥の二隅の位置がわかれば、入り口からの距離により縦と横の幅はそれぞれ逆算できるわ。その結果、私が今いる部屋は一階のおよそ十分の一程しかないとわかった。

 きっとこの先に大きな部屋があって、もしかしたらそこには敵が潜んでいるかもしれない。マジックハンターならば慎重に行動するということは心得も同然。だからこそ、迂闊に他の階や部屋へ向かわずに様子を伺っている可能性が高い。その際に拠点として構えるとしたら、広い部屋が望ましい。その方が、後から来た敵に位置を悟られにくく、一方的に攻めることができるから。

 不用意に進むのは危険だわ。こちらも何か策を講じる必要があるわね。

 敵の注意を一瞬でも逸らすことができれば、その隙を突くことができるかもしれないのだけれど……。そういえば、空になった薬瓶を持っていたんだったわ。これを遠くに投げて部屋の向こう側で音を出せば、そちらに敵がいると思い込ませることができるかも。瓶が敵にぶつかる心配は要らないわ。だって、通路から武器を投げつけられるのを警戒して、直線上に立つことは避けているはずだから。

 後は覚悟を決めるだけ。深呼吸をして、気持ちを落ち着かせて……。

 これで心の準備はできたわ。さあ、戦闘開始よ!

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