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夜明け

 ファイと共に塔へと向かい、宙を歩いて真っ直ぐに目的の階を目指す。サーチがあるから、ある程度の見当はつけられるわ。


「いいか? 不意を狙わなければこちらが不利だ。着いたらすぐにファイアとライトニングで照らし、攻撃態勢に入る」

「わかったわ」


 最後の確認も済み、段々と近づいてくる塔を目にして鼓動が早くなる。これが最後の戦い……後少しがんばればこの悲劇を終わらせることができる。


「さあ、塔はもう目と鼻の先だ。突撃するぞ!」

「ええ、行きましょう!」


 ガラスを突き破り、塔の内部へと侵入する。そして息をつく間も与えずに、マジックを高くかざす。


「ファイア!」

「ライトニング!」


 照らし出された空間には、敵の姿は見えない。どこに潜んいるのか探ろうと辺りを見渡す。

 その時、視界に入ったファイの顔が不意に険しく変わった。


「危ない!」


 ファイは突然そう叫ぶと、私の前に立ちはだかった。


「ぐああ!」

「ファイ!?」


 私の目の前でファイは急に悲鳴を上げた。そして、その場へと力なく崩れ落ちる。


「どうしたの!? ねえ!」

「背中を……撃たれた!」

「何ですって!?」


 倒れ込んだファイの背には、一本の小さな矢が刺さっていた。


「敵から武器を奪え……。早く!」

「わ、わかったわ。ハイド!」


 マジックにより身を隠し、敵の位置を探る。幸いすぐに見付かり、緑色のマジックとボウガンを取り上げて気絶させた。

 そして急いでファイのそばへと戻ると、苦しそうに呻き声を上げていた。

 急いで矢を背中から外すと、矢尻には緑色の液体が塗られていた。マジックの鑑定をしてみると、その液体が何なのかがわかった。どうやら先程の敵は『ポイズン』のマジックを使用し、毒を矢に付着させていたらしい。


「どうしよう、毒が塗られていただなんて……。ファイ、大丈夫!?」

「よかった……君が無事で」

「何で!? 何でこんなことを!?」

「君は美しいから、こんなところで死んでほしくなかったんだ」

「だからってこんな……。待ってて、今すぐ回復するから!」


 私は『ヒール』のマジックを取り出し、強く念じた。球体の中に白い羽根が浮かび上がり、眩い光を放ち始める。


「お願い治って……。ヒール!」


 私は一生懸命祈った。ファイのことだけを、彼を苦しめている毒を取り除くことだけを必死で思い続けた。

 その結果、マジックの白い光はファイの傷を包み込み、そして完全に塞がった。


「治った……? 治ったのよね!?」

「ああ、おかげで少し楽になったが、毒は消せないようだ。体が少しずつ蝕まれるのを感じる……」

「そんな……。お願い死なないで! ヒール!」


 ファイが死ぬなんて絶対に嫌! 何としてでも治したくて、私は回復魔法をかけ続けた。


「もういいよ。気持ちだけ受け取っておくから」

「どうして……? どうしてよ!?」

「このままじゃ君の魔力は朝までもたない。俺はもう、死ぬ運命なんだ……」

「そんなこと言わないで! ねえ、嘘だと言ってよ……」

「残念ながら本当だ。それより、最後に俺の願いを聞いてくれ。マジックを全て集めれば、願いが一つだけ叶うらしいんだ。それを使って、マジックをこの世界から消してくれ」

「最後だなんて言わないで! 消した後に、あなたが生きていてくれないと、私……」

「ありがとう……」


 このままではファイが死んでしまう! 何か助ける方法はないの!?

 ……そういえば、ファイは今言ったわよね? 全てのマジックを集めれば、願いが叶うって。それならファイを助けることが……いいえ、全ての悲劇をなかったことにできるかもしれないわ。

 私は最後の奇跡に望みを託し、全てのマジックを同時に発動させた。


「お願い……。この世界を、マジックが存在しなかった世界にして。何もかも、マジックが一切関わらなかった世界に!」


 そう告げた途端、マジックは一斉に強く輝いた。

 あまりの眩しさに目を閉じていたけれど、やがてそれは収まった。そして、目を開けると一人の男性が横たわっていた。


「あ、あの、大丈夫ですか!?」

「うう……。ここは? 俺はどうしてここに? 君がここへ連れてきたのか?」

「……わからない。何も思い出せないの」

「そうか……。それで、君はどうして泣いているんだい?」

「わからないわ。わからないけど……何だかとても安心してる」

「……俺も、なぜかわからないけれど、とても幸せな気分だよ」


 その黒髪の男は、私の茶色いロングストレートの髪へと手を伸ばした。

 何も思い出せないけれど、今何かが終わり、新たに何かが始まったような気がする。

 外を見ると、穏やかな朝日が世界を美しく照らしていた。

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