魔女との決戦
怒りを抑えきれない私を見て、老婆はいつにも増して不敵に笑う。邪悪に、不気味に、ただただ笑い続けている……。
「お前さんのような若い子を利用して、一気にマジックを手にしようと思ったのに……」
そう言い放ちながら老婆はマジックを取り出し、こちらへ向かってかざした。
まさか、老婆も攻撃用のマジックを!?
「ブリザード!」
老婆の詠唱によりマジックは青く輝き、次の瞬間こちらへ向かって無数の氷を放ってきた!
かわすだけでは避けきれない。こっちもマジックで対抗しなければ!
「ファイア!」
私の詠唱に応じ、炎が氷を溶かしてゆく。
向こうが氷なのに対してこちらは炎、これは勝てるかもしれない。
「属性の優位性で勝てると、そう思っているであろう?」
「なっ!? それがわかっていて、なぜそんなに余裕でいられるの!?」
「それはこれを見ればわかることさ」
老婆はさらに二つのマジックを取り出し、こちらへとかざした。まだ隠し持っていたなんて!
「ダークネス!」
前方から禍々しい闇が迫ってくる。この攻撃をまともに受けるのは危険だわ。
「ファイア!」
生じさせた炎が闇を払う。何とか対応することができた。
「隙あり! ストーン!」
「えっ……?」
「危ない!」
突如入ってきたファイが、勢いよく私を突き飛ばす。そして次の瞬間、ファイの足を大きな岩が直撃した!
「ぐああ!」
「そんな!? ファイ、大丈夫!?」
どうしよう、私を庇ってファイが大怪我をするなんて……!
「命がけで乙女を守るとは、美しい光景だねえ」
「許さない……」
「何だい? 怒ったのかい?」
「あなたは絶対に許さない!」
「許してほしいなんて思ってないよ。どうせお前も死ぬんだから」
もう無理……。理性を保つことができない!
目の前の悪を、この醜く歪んだ魔物を消し去らなければ!
「ファイ、これ借りるわよ!」
「おい……待て……!」
転がり落ちている『ライトニング』を拾い、老婆に向かって攻撃用のマジックを全てかざす。
「ファイア! ウィンド! アクア! ライトニング!」
発動させた魔法たちは重なり合い、大きな嵐となって老婆へと向かう。
「何じゃと!? そんな魔力が一体どこに!? ぎゃああ!」
響き渡る断末魔を耳にし、ようやく私は落ち着いた。それと同時に、また人を殺めたという罪悪感が襲いかかる。
「……やった、のか?」
「ファイ……今その傷を回復するわ」
ファイの差し出した『ヒール』を受け取り、強く念じる。
「ヒール!」
詠唱の直後、ファイを温かな光が包み込んだ。それと同時に顔色も段々よくなっていく……。
「ありがとう。おかげでもう痛くない」
「そんな、私の方こそファイがいてくれなかったら……」
「気にするな。さて、老婆の周りに散らばるマジックを回収しないとな。……うん? どうした? なぜ泣いている?」
「私……約束したのに! もう人を殺さないって、ファイと約束したのに!」
これでは私も魔物と一緒だわ。人を平気で傷つけるなんて、人間のすることじゃないもの……。
ファイも私を見放すに違いないわ。
「……君のせいじゃない。君はちゃんと心を痛めているだろう? だから、魔物なんかじゃない」
ファイは私の頭をそっと撫でてくれた。優しく、とても優しく……。
「さあ、わかったら次へ進まないと。いつまでも泣いてばかりじゃ再び悲劇が起こるのを阻止できない」
「そうよね……。ごめんなさい、もう大丈夫よ」
無理にでも笑顔を見せ、ファイを安心させた。それを見てファイはマジックを回収しだす。そして、それらを握り締め、目を閉じた。
「サーチ! クレイボイエンス!」
詠唱の直後、二つのマジックが白く輝く。そして、ガラスの破片を取り出し、そこへ映像を映し出す。けれど、どういうわけか真っ暗で何も見えない。
「この王宮のすぐそばに塔があるのを見ただろう? サーチによって、残り一つのマジックがそこにあることがわかった。そして、何者かによって所持されているという情報も与えてくれた」
「この映像は……その塔の内部?」
「ああ。これでは敵の様子を探ることもできないな。ここからは俺に任せろと言いたいところだが、どうせ言うことを聞く気はないのだろう?」
「よくわかってるじゃない。そういうわけで、私も最後まで戦うわ。この罪を償うためにも……」
「そうか……。なら、気を引き締めろ。これが最後の戦いになるだろう」
ファイはとても厳しい表情を見せた。それは、早くこの惨劇に終止符を打ちたいから。そのためにこうしてずっと戦ってきたんだわ。
私も……ファイと同じ思いで、最後の戦いをがんばらないと!




