一五、真夜中の船出
一五、真夜中の船出
深夜の刻となり、ネイル、ディール、ターヤは、房の奥の隠し部屋に在る地下通路からローナ郊外の井戸へ出ると、その足で、湖畔の桟橋まで歩を進めた。しばらくして、到着した。
その瞬間、「皆様、お待ちして居りました」と、陽気な男の声がして来た。
「何者だ!」と、ディールが、身構えながら、問い掛けた。
「私です。門番のバルーブです」と、その者が、名乗った。その直後、ほんのりとした緑の光が、現れた。
ネイルは、照らし出されたバルーブの顔を見るなり、「ああ!」と、驚きの声を発した。城を去ろうとした際に、呼び止められた茶髪の若い衛兵だからだ。
「お前、船を扱えるのかよ?」と、ターヤが、胡散臭そうに、問い掛けた。
「ええ。あんたよりは、この湖の事には詳しいものでね」と、バルーブが、物怖じせずに、さらりと答えた。そして、「まあ、庭みたいなもんだから、暗闇でも、目的地へは辿り着けますよ」と、得意顔で、告げた。
「大した自信だな」と、ディールが、感心した。
「休日は、この湖で、よく釣りをしていますからね。穴場へ行くのに、船は欠かせませんからね」と、バルーブが、笑みを浮かべながら、理由を語った。
「お前の釣り好きは、分かった。しかし、何故、お前が、我々を浮き島まで運ぶ役に、抜擢されたんだ?」と、ディールが、腑に落ちないと言うように、尋ねた。
「あまり、言いたくないのですが…。自分と王様とは、釣り友達でして…、自分が、休日の時には、王様も城を抜け出して、穴場へと繰り出して居るんですよ…」と、バルーブが、苦々しく関係を説明した。
「なるほど。時々、王様が、仮病で抜けた後、夕方まで人払いするのは、そういう事だったのか…」と、ディールが、思い当たる節が有ると言うように、納得した。そして、「それで、王様は、お前を寄越したという訳か…。王様の道楽も、役に立つ事も有るものだな…」と、溜め息混じりに、言葉を続けた。
「そう言う事だ。世の中、何が幸いするか、分からないからな」と、ネイルも、同調した。今回の件で、どうでも良い事が、役に立つ事を思い知らされているからだ。
「ささ、船へお乗り下さい。使い古してますが、三人が乗っても、大丈夫ですよ」と、バルーブが、乗船を勧めた。
少しして、ターヤを先頭に、ネイル、ディールの順に、乗った。
「では、係留の縄を解きましたら、発光石をしまいますので、そしたら、出発です」と、バルーブが、手順を告げた。
ネイルは、振り返り、「分かった」と、返答した。そして、ターヤに向き直り、「着いたら、お前の鼻が頼りだからな」と、一声掛けた。上陸後は、ターヤの鼻が頼りだからだ。
「おう! 賞金稼ぎも、安心して、俺様の肩にでも、手を置いておきな!」と、ターヤも、力強く返事をした。
「ああ。そうさせて貰うよ」と、ネイルは、ターヤの左肩に、左手を置いた。
その直後、「自分も、ネイル殿の肩の上に、置かさせて貰います」と、ディールが、両肩に、手を乗せてきた。
しばらくして、「では、出発します」と、バルーブの声と共に、周囲が、真っ暗になった。
間も無く、船が出発するのだった。




