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王女の騎士は、賞金稼ぎ  作者: しろ組


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一三、崩落、危機一髪!

一三、崩落、危機一髪!


 ネイルは、魔物を警戒(けいかい)しながら、後ろ向きに移動していた。そして、壁の穴を辿って、幾つか潜り抜けた。

 突然、「賞金稼ぎ! 遅いぞ!」と、ターヤの苛立(いらだ)ち混じりの声が、聞こえて来た。

 ネイルは、足を止めて振り返り、「仕方無いだろ? 何が出て来るか、判らないんだからな」と、何食わぬ顔で、反論した。自分にも、言い分は、有るからだ。

「ごちゃごちゃうるせぇ! さっさと、ここから出るぞ!」と、ターヤが、夕闇の()える外観が(うかが)える穴の右脇に立ちながら、急かした。

「お前なあ。簡単(かんたん)に言うが、ここは、かなりの高さなんじゃないのか?」

「だったら、ここまで来い!」と、ターヤが、強気に、右手で手招(てまね)きした。

 その直後、ネイルは、速やかに、歩を進めた。そして、穴の際で立ち止まった。その刹那、見下ろした。次の瞬間、「なるほどな」と、瞬時に納得した。塔の最上階に居るにも係わらないのに、地面との距離が、観客席の二段目と同じ高さだと視認出来たからだ。そして、「このくらいの高さなら、飛び下りられるな」と、飛び下り可能だと判断した。この高さなら、ある程度(ていど)恐怖心(きょうふしん)抑制(よくせい)出来れば、行けるからだ。

「賞金稼ぎ、(たま)には、冗談を実行してみるもんだな」と、ターヤが、得意げに、言った。

 ネイルは、右を向くなり、「そうだな。冗談を真に受けるのも、悪くはないな」と、同調した。

 その直後、この上無い大揺れが来た。

 その瞬間、一同は、その場にしゃがみ込んだ。

「あ! 兄貴ぃ! 地面が、近付いて来ているぜぇ!」と、ポンクが、異変を知らせた。

「ああ?」と、ターヤが、面倒臭そうに返事をした。そして、「そんな筈は…」と、怪訝な顔で、外を見やった。次の瞬間、「(うそ)だろ!」と、驚嘆(きょうたん)した。

「どうした?」と、ネイルも、再度、穴を見やった。その刹那、「マジかよ…」と、愕然(がくぜん)とした。ポンクの言う通り、防護壁(フェンス)の上辺と同じ高さになっていたからだ。

「へ、もう少し待てば、今よりも、良い高さになるんじゃねぇのか?」と、ターヤが、楽観的に言った。

「兄貴ぃ、壁が、グラグラしているからぁ、これ以上待つのはぁ、やばそうだぜぇ」と、ポンクが、異を(とな)えた。

「確かに、次に、強い揺れが来たら、(くず)れてしまいそうだな。ここから、飛び下りるしかないな」と、ネイルも、苦々しく同調した。いつ崩落が起きても、おかしくないからだ。

「誰から先に、行くんだよ?」と、ターヤが、問い掛けた。

「お前から行けよ! 順番を決める時間も、惜しい!」と、ネイルは、急かした。呑気に順番を決められる余裕など無いからだ。

「そうじゃのう。ネイルの言うように、前に居る奴から行け!」と、ハリアも、同調した。

「負傷をしているムルンを、優先しなければならないんじゃないんですか?」と、ディールも、提言した。

「そうだな。話を総合(そうごう)すると、ブヒヒ三兄弟、王様、ディール、俺の順番で、脱出するとしよう」と、ネイルは、場を仕切った。このままでは、ややこしくなりそうだからだ。

「騎士さんよぉ。ムルンを、こっちに渡してくれ。俺が、ムルンと一緒に飛び下りるからさ」と、ターヤが、要求した。

「分かった」と、ディールが、ムルンと共に、ターヤの二歩手前まで歩み寄った。そして、「さあ、ムルン」と、移動を促した。

「うう…」と、ムルンが、(うめ)き声を発した。そして、覚束無(おぼつかな)い足取りで、ターヤの元へ向かった。間も無く、その胸元へ、体を(あず)けるように、倒れ込んだ。

 次の瞬間、「おっと!」と、ターヤが、肩を抱き止めた。そして、ポンクを見やり、「ポンク、先に行け!」と、指示した。

 その直後、「おう!」と、ポンクが、躊躇(ためら)いも無く、飛び下りた。

 少しして、「ムルン、傷に障るかもしれねぇが、我慢(がまん)してくれよ!」と、ターヤが、傷口を()けて、腰に両手を回して、持ち上げるなり、左肩へ、うつ伏せにして(かつ)いだ。そして、背を向けるなり、「賞金稼ぎ、お先にな!」と、告げた。その一瞬後、「やあ!」と、飛び下りた。

 少し間を置いて、「わしの番じゃな」と、ハリアが、満を持して、際に立った。そして、「ネイル、ディールよ。下で待って居るぞ」と、跳んで行った。

 ネイルは、振り返り、「ディール、今度は、あんたの番だぜ。さあ、行ってくれ」と、促した。

「ネ、ネイル殿から、先に行って下さい! じ、自分は、最後に行かせて貰いますから!」と、ディールが、表情を強張(こわば)らせながら、(ゆず)った。

「分かった。早く来いよ」と、ネイルは、すんなり承諾(しょうだく)して、背を向けた。ディールが、躊躇っているのを察したからだ。そして、身投げするように、飛び下りた。次の瞬間、眼下(がんか)には、ブヒヒ三兄弟とハリアの姿が見えた。一瞬後、盛り上がった石畳に、右肩から打ち付けるように着地をして、防護壁の方へ数回転がった。

 少しして、ハリアが、歩み寄り、「ネイルよ。どうして、お主が、ディールよりも先なんじゃ?」と、眉間(みけん)(しわ)を寄せながら、問い掛けた。

 ネイルは、上体を起こすなり、すぐさま左手で、上の方を指した。そして、「あそこで、躊躇ってます…」と、(うやうや)しく答えた。ディールが、まだ、そこに居る筈だからだ。

 その直後、「何じゃと?」と、ハリアが、見上げた。そして、「ふむ。確かに、あそこで、まごまごしておるのう。もうじき崩れるというのに、早く飛び下りんかっ!」と、やきもきしながら、ぼやいた。

 ネイルは、(おもむろ)に立ち上がり、「王様、我々は、出来るだけ離れましょう。この位置では、崩落に巻き込まれてしまうかも知れませんから。そこで、ディールを待ちましょう」と、進言した。この場から離れておいた方が、少しは、安全だろうからだ。そして、右斜め後ろを見やり、「おい! お前達も、行くぞ!」と、ブヒヒ三兄弟に、声を掛けた。

「おうよ!」と、ターヤが、代表で、即答(そくとう)した。

 少しして、ネイル達は、城側(しろがわ)の入場口の前へと、速やかに移動した。

 突然、塔が、無情(むじょう)にも、大崩落を始めた。そして、瞬く間に、土煙の中に消えて行った。やがて、視界が()かなくなった。

 その瞬間、「ディールゥゥゥ!」と、ハリアが、絶叫(ぜっきょう)した。

「王様…」と、ネイルは、言葉を詰まらせた。ディールを先に行かせていれば、このような事にはならなかったという自責の念にかられたからだ。

「賞金稼ぎ、騎士さんは、びびって飛べなかったんだから、仕方が無いんだろうぜ。(つめ)たい言い方だが、崩れる前に飛べなかった奴が悪いんだ…」と、ターヤが、背後から、淡々と言った。

「そうだな。あいつを待って居たら、俺も、間違い無く、下敷きになっていたかも知れないな」と、ネイルも、同調した。ターヤの言う事も、正しいからだ。そして、「王様、ディールの死を無駄にしない為にも、ダ・マーハとネデ・リムシーから、ジェリア様を救出しましょう!」と、元気付けるように、声を掛けた。ハリアに気落ちされても、士気が下がるだけだからだ。

「ネイルよ、すまぬ…」と、ハリアが、弱々しく答えた。

「賞金稼ぎ、今は、そっとしておいてやれよ。頭の中がこんがらがって、気持ちの整理(せいり)がつかないんだからな」と、ターヤが、助言した。

「そうだな」と、ネイルも、すんなりと聞き入れた。ハリアが、憔悴(しょうすい)して、まともな判断が出来ないのは、一目瞭然(いちもくりょうぜん)だからだ。

「ディ、ディール…」と、ハリアが、うわ言のように、口にし始めた。

「王様、騎士さんの幻に、呼び掛けているんじゃないのか? 頭がおかしくなったとしか、言いようが無いぜ」と、ターヤが、心配した。そして、「賞金稼ぎ、早いとこ正気(しょうき)に戻さねぇと、ヤバいぞ!」と、言葉を続けた。

 ネイルは、手探(てさぐ)りで、ハリアを(さが)し当てるなり、右手で、肩を掴んだ。そして、「王様! 御気を確かに!」と、些か、強い調子で、現実に呼び戻そうと、呼び掛けた。ディールは、もう、この世には居ないからだ。

 間も無く、土煙が治まって来た。そして、視界が、次第に、良くなった。

 その途端、「ディール! おお! ディール!」と、ハリアが、その場に(ひざ)を着きながら、しっかりとした口調で、呼び掛けていた。

 少しして、「ん?」と、ネイルは、変化に気が付いた。先刻の弱々しい物言いから一変して、ディールが、目の前に居るようなはっきりした声になっていたからだ。そして、ハリアの視線の先を見やり、「あ!」と、驚きの声を発した。ディールの姿が、有ったからだ。その瞬間、右手を離した。

 ディールが、土埃(つちぼこり)(まみ)れで、左足を引き摺りながら、歩み寄って来ていた。

 ハリアは、すっくと立ち上がり、「ディ、ディール! よくぞ、生きていてくれた!」と、出迎えるように、歩き始めた。

 少し後れて、ネイルも、後に続いた。

 間も無く、ディールとハリアが、向かい合った。

「王様、遅くなって、申し訳ありません…」と、ディールが、開口一番に、詫びの言葉を発した。

「良いんじゃ…。お前が、こうして、生きていてくれた事が、嬉しいんじゃから…。もう…、何も申さんでも良い…」と、ハリアが、頭を振りながら、(ねぎら)った。

「あ…ありがとう…ございます…」と、ディールが、礼を述べた。その直後、気が抜けたのか、前のめりに、体勢を崩した。

 ネイルは、素早く、ハリアの前に進み出るなり、「よっ!」と、ディールの右脇から、右肩を入れて、体を(ささ)えた。

「ネイル殿、かたじけない…」と、ディールが、弱々しく礼を告げた。

「気にするな。この土煙が晴れるまでは、支えてやるからさ」と、ネイルは、照れ笑いを浮かべた。間近(まぢか)で、礼を言われると、妙に照れ臭いからだ。

 しばらくの間、ネイル達は、土煙が、完全に治まるまで、(たたず)むのだった。

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