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王女の騎士は、賞金稼ぎ  作者: しろ組


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12/21

一一、見たこと無い!

一一、見た事無い!


 ネイル達は、大蝙蝠(ジャイアントバット)の群れを蹴散(けち)らしながら、上の階を目指(めざ)して、進撃をした。そして、三階に到達(とうたつ)した。すると、大蝙蝠の姿が、ぱったりと無くなった。

「おい、蝙蝠(こうもり)野郎(やろう)(ども)が、居なくなったぜ! ようやく、すっきりしたぜ!」と、先頭を行く、ターヤが、精々(せいせい)したと言うように、(にく)まれ(ぐち)(たた)いた。

「んだんだ」と、その左隣で、ポンクも、相槌を打った。

そうみたいだな」と、ネイルも、すんなり同調した。確かに、先刻まで、わらわらと出て来た大蝙蝠の姿が、一匹も見当たらない事で、視界が良好となったからだ。

 突然、「ネイル殿、あれを!」と、右隣を歩くディールが、右手に持つ長剣(ロングソード)の切っ先を、前方に向けながら、知らせた。

「ん?」と、ネイルは、すぐさま視線をやり、すぐに、理解した。壁に()め込まれたほんのりと白く光る照光石が、通路沿いに並んだ先から、灰色にくすんだ刀身の剣と鈍く銀色に光る小型の(まる)(たて)を装備した蜥蜴戦士(リザードマン)達が、(した)をチロチロ出しながら、足音一つ立てずに迫っているのを、視認したからだ。

「へ、蝙蝠の次は、蜥蜴(とかげ)かよ! 上等(じょうとう)だぜ!」と、ターヤが、意気込んだ。

「ネ、ネイル殿、こ、今度の相手は、手強(てごわ)そうですね~」と、ディールが、()()づいた。

「ディール! (たみ)(まも)らねばならん騎士(きし)が、そのような弱腰で、どうする! しゃきっとせんか!」と、ハリアが、(げき)を飛ばした。

 その直後、「は、はい! 王様!」と、ディールが、臆病風(おくびょうかぜ)を跳ね()けるかのように、背筋(せすじ)を伸ばした。

「王様は、下がっていて下さい。あのような連中は、俺達だけで、何とかなりそうですから」と、ネイルは、蜥蜴戦士を見据えたままでつげた。これくらいの相手ならば、ハリアの手を(わずら)わせる事も無いだろうからだ。

「うむ。ここは、そなた達に任せるとしよう。わしも、久々に、(つる)を多く引いたので、少々、右腕が疲れて来たからのう。頼んだぞ」と、ハリアが、すんなり了承(りょうしょう)した。

「ムルン、お前も、そこのバニ族のオヤジと居ろ。俺とポンクが、奴らを一歩たりとも通しはしないからな!」と、ターヤも、負けじと、張り合うように、指示した。

「ターヤ兄貴、分かったよ。兄貴達も、さっさと連中を伸しちゃってよ」と、ムルンも、返答した。

「あっと言う間にぃ、片付けてやるよぉ! 何たってぇ、おでと兄貴はぁ、最強だぁ!」と、ポンクも、意気揚々に、告げた。

「お前達、無駄話は、ここまでだ! 行くぞ!」と、ネイルは、ターヤ達へ声を掛けた。その直後、正面の蜥蜴戦士へ、真っ先に()りかかった。そして、「はっ!」と、剣を振り下ろした。

 しかし、蜥蜴戦士が、その斬撃(ざんげき)を盾で受け止めた。

 そこへ、「(すき)有り!」と、ディールが、間隙(かんげき)を突いた。そして、蜥蜴戦士の左腹部に、剣を突き立てた。

 次の瞬間、蜥蜴戦士が、声を発する事無く、仰向(あおむ)けに倒れるなり、(またた)く間に、砂塵(さじん)と化した。

 ネイルは、その様を見届けるなり、「こ、これは…」と、目を見張りながら、言葉を詰まらせた。このような現象を目の当たりにしたのは、初めてだからだ。

「ネイル殿、自分も、このような現象は、初めてですよ! 魔物が、砂に変わるんですからね!」と、ディールも、動揺しながら、語り掛けた。

 そこへ、「おいおい、お前達! まだまだ、敵は残って居るんだぞ! ぼさっと突っ立って居ないで、次の奴の相手をしろよ!」と、ターヤの怒号が、聞こえた。

 その瞬間、ネイルは、我に返り、「ディール、考えるのは後にして、連中に、集中しようぜ」と、声を掛けた。その刹那、左斜め前の蜥蜴戦士へ、斬りかかった。今は、考える事よりも、蜥蜴戦士達を殲滅(せんめつ)する事が、最優先だからだ。

「は、はい!」と、ディールも、すぐに、返事をした。

「ポンク! 俺達も、後れるんじゃねぇ! 賞金稼ぎ達よりも、多く倒すぞ!」と、ターヤが、対抗心(たいこうしん)()き出しにした。

「おう!」と、ポンクが、すぐさま(こた)えた。

 その瞬間、ネイル達は、攻勢に転じた。そして、経験(けいけん)連携(コンビネーション)で、数の差を物ともせずに、一体ずつ確実(かくじつ)仕留(しと)めた。しばらくして、最後の一体までに減らした。

「ポンク、最後は、俺達で、倒すぞ!」と、ターヤが、息巻いた。

「おう!」と、ポンクも、即答(そくとう)した。

「ポンク、行け!」

「おう! 兄貴!」と、ポンクが、右肩から、体当たりを敢行(かんこう)した。

 その間に、蜥蜴戦士も、即座(そくざ)に反応して、盾を前面に構えた。

「そんな事をしてもぉ、無駄だぁ!」と、ポンクが、気にせずに、ぶつかった。次の瞬間、重い衝撃音が、生じた。

 その直後、蜥蜴戦士が、盾を()()ばされて、仰け反った。

「兄貴ぃ! 今だぁ!」と、ポンクが、間髪容れずに、声を掛けた。

「おう! (まか)せろ!」と、ターヤが、(すみ)やかに駆け出した。そして、瞬く間に、距離を詰めるなり、「へ、遅いぜ!」と、蜥蜴戦士の眉間(みけん)に、手斧(ておの)を打ち込んだ。その刹那、先刻の蜥蜴戦士と同様に、あっと言う間に、砂塵と化した。

「ネイル殿、ようやく、片付きましたね」と、ディールが、安堵の笑みを浮かべながら、声を掛けた。

「そうだな」と、ネイルも、一息()きながら、頷いた。勝利する事が出来たからだ。

「お前達、気を抜くでないぞ。ここは、敵地(てきち)()只中(ただなか)なんじゃからな」と、ハリアが、気持ちを締め直せと言うように、声を掛けた。

「王様の仰られる通りだな。ディール、安心するのは、ここを出てからだな」と、ネイルは、気持ちを()め直した。こういう時にこそ、気を抜いてはいけないからだ。

「そうですね」と、ディールも、表情を引き締めながら、同調した。

「へ、そんなに緊張(きんちょう)していると、肝心(かんじん)な所で、動けなくなるぜ」と、ターヤに、からかわれた。

「んだんだ」と、ポンクも、相槌を打った。

「くっ!」と、ディールが、歯噛みした。

「先を急ごうぜ。ぼやぼやしていると、夜中になっちまうからな」と、ターヤが、すたすたと、奥へ歩き始めた。

「あ、兄貴ぃ、待ってくれよぉ」と、ポンクも、すかさず追い掛けた。

 少しして、二人の姿が、通路の奥へ消えて行った。

「ネイル殿、我々も!」

「慌てる事は無いさ。あいつらが先に行って、敵を片付けてくれるのなら、(らく)が出来て良いじゃないか」と、ネイルは、あっけらかんと答えた。ターヤ達と(きそ)ってまで戦わずとも、戦闘の場に出くわした時だけ戦えば良いだけの事だからだ。

「なるほど。行き着く先は、同じ所ですからね」と、ディールも、納得した。

「じゃあ、兄貴達に露払(つゆはら)いさせておいて、のんびり行こうって言うのかい?」と、ムルンが、不満げに、問い掛けた。

 ネイルは、振り返り、「まあ、今のところは、そうなるな。しかし、あいつらが疲れて来たら、俺とディールが、露払いの役を代わるだけだ」と、さらりと答えた。体力を温存(おんぞん)して進むには、この方法しか無いからだ。

「ネイルの考え方が、合理的じゃな。皆が同時に戦っていては、動ける者が、誰も居なくなってしまうからのう」と、ハリアも、賛同した。

「わ、分かったよ。まあ、兄貴達が疲れるのは、だいぶ先の事だろうけど。早く追い付こうよ」と、ムルンが、出発を()かした。

「そうだな。この先にも、何が(ひそ)んで居るのか(わか)らないからな」と、ネイルは、頷いた。そして、進行方向に向き直った。先行した二人が、取り囲まれている事も、考えられるからだ。

 突然、「な、何だぁぁぁ!」と、ターヤの驚きとも、悲鳴とも判別し(がた)い叫び声が、響いて来た。

 少し遅れて、「あ、兄貴ぃ、引き返しましょう!」と、ポンクの(わめ)き声も、聞こえた。

 その瞬間、「ネイル殿!」と、ディールが、緊迫(きんぱく)した声を発した。

「ああ」と、ネイルも、奥を見据えながら、頷いた。(こわ)い物知らずと思われた二人が、叫び出すくらいだから、とてつもない何かに出くわしたと想像がつくからだ。

 間も無く、ターヤ達の尋常(じんじょう)でない速度の足音が、近付いて来た。そして、面食らった顔で、慌てふためきながら、(ころ)がるように戻った。

「お前達、何が有った?」と、ネイルは、即座に問うた。何が起きたのか、知りたいからだ。

 その刹那、ターヤが、(ふる)える右腕で、奥を指し示した。そして、「あ、あんなどでかい奴なんて、見た事ねぇぞ!」と、必死の形相(ぎょうそう)で、(うった)えた。

「んだんだ」と、ポンクも、大きく頷いて、同調した。

「お前達が引き返して来るという事は、かなりの大きさだと考えるべきだろうな」と、ネイルは、(けわ)しい表情をした。二人の言動から、この奥に、とてつもない何かが居ると、容易(ようい)に、判断出来るからだ。

「ネ、ネイル殿、ひ、引き返しますか?」と、ディールが、声を震わせながら指示を伺った。

 ネイルは、ディールを見やり、「今は、引き返す時間も()しいくらいだ。やれるだけやろうじゃないか。どうせ、何が起きようが、何が出て来ようが、おかしくないからな」と、強気に返答した。先へ進むしか、活路(かつろ)は無いからだ。

「ネイルの申す通りじゃ。ここは、我らが力を合わせて、蹴散(けち)らせてやろうじゃないか!」と、ハリアも、口添(くちぞ)えした。

「兄貴達、せっかく、ここまで来られたのだから、頑張(がんば)ろうよ。簡単(かんたん)に進めるなんて思っている方が、(あま)いんだと思うよ」と、ムルンが、言い聞かせるように、やんわりと進言した。

「そうだな。たかが、でかい魔物一匹じゃねぇか! よくよく考えてみると、大した事なんて、無いじゃねぇか!」と、ターヤが、落ち着きを取り戻して、(ふる)い立った。

「おで達はぁ、最強なんだぁ! 今からぁ、仕返しをしようぜぇ!」と、ポンクも、気を取り直して、闘志(とうし)を回復させた。

「よし、行くぜ!」と、ターヤが、再度、奥へ行こうとした。

「待てよ!」と、ネイルは、咄嗟(とっさ)に、呼び止めた。同じ事の繰り返しになるのは、予測(よそく)がつくからだ。そして、「今度は、全員で一緒に行くとしよう。お前達が、臆病風に吹かれて、戦力にならなくなっても、困るからな」と、言葉を続けた。

「へ、見くびるんじゃねぇ! さ、さっきは、驚いただけだ!」と、ターヤが、息巻いて、返答した。

「んだんだ!」と、ポンクも、荒々しく相槌を打った。

「その様子(ようす)なら、心配無さそうだな」と、ネイルは、安堵した。二人の強気な言動から、心は折れてないと察したからだ。

「ネ、ネイル殿! ど、どうやら、向こうの方から来たようですよ~」と、ディールが、弱々しく知らせた。

「ん?」と、ネイルは、奥へ視線を移した。そして、目を()らした。すると、天井(てんじょう)すれすれの高い位置で、上下に動き回る二つの(あか)怪光(かいこう)が、確認出来た。それと同時に、何かを引き()るような音も、次第(しだい)に、はっきりと聞こえた。

 少しして、その怪光と音の主の正体が、判明した。それは、通路を完全に封鎖(ふうさ)してしまう大きさの大蛇(だいじゃ)だった。

「確かに、こいつは、引き返すしかないな」と、ネイルは、納得した。ターヤ達が、慌てるのも無理は無いからだ。

紅蓮(ぐれん)の弓も、通用せぬかも知れんな…」と、ハリアが、弱音を()いた。

 ネイルは、振り返り、「王様、戦う前から、そのような弱気では、士気(しき)が下がります…」と、苦言(くげん)(てい)した。そして、「奴だって、無敵じゃないでしょう。(みな)で力を合わせれば、必ず倒せる筈です!」と、言葉を続けた。戦っていれば、攻略法は見えて来るものだからだ。

「賞金稼ぎ、簡単に言ってくれるけど、あのデカ(ぶつ)を叩き殺すなんて、不可能だぜ」と、ターヤが、苦々しく言った。

「ネイル殿、勝算が有るのですか?」と、ディールも、不安げに、問い掛けた。

「無い…」と、ネイルは、頭を振って、あっさりと答えた。このような巨体を相手にするのは、生まれて初めてなので、算段が立たないからだ。

「だろうな」と、ターヤが、予想通りと言うように、含み笑いを浮かべた。

 その直後、「ターヤ兄貴! 危ない!」と、ムルンが、叫んだ。

 次の瞬間、大蛇が、頭を突き下ろした。

「おおっと!」と、ターヤが、驚きの声を発して、寸前の所でかわした。そして、「この野郎っ!」と、間髪容れずに、手斧で、大蛇の顔面を殴り付けた。しかし、びくともしないで、鈍い音だけが、(むな)しく響いた。

「あ、兄貴の攻撃を受けてもぉ、びくともしていないぜぇ!」と、ポンクが、信じられない面持ちで、驚きの声を発した。

「おい! 力任せでは勝てないぞ!」と、ディールが、忠告するように、語気を荒げた。

「騎士さんよ、言われなくたって、そんな事は、分かってるって! 今のは、ほんの挨拶()わりってもんよ!」と、ターヤが、(くや)しさを(にじ)ませながらも、気丈(きじょう)に振る舞った。

 ネイルは、再度、振り返り、「王様、身の危険を感じましたら、迷わず引き返して下さい…。奴の足止めなら、何とかしてみますので…」と、自信無さげに、弱々しく進言した。モヤシーダ以上に、剣の通じそうにも無い相手だと判断したからだ。

「ネイルよ、気持ちはありがたい。だが、わしも、お前達を見捨ててまで、おめおめと引き返す気は無い!」と、ハリアが、()らん気を(つか)うなと言うように、きっぱりと(ことわ)った。そして、「お前が、先ほど申していたように、やれるだけやってからでも遅くは無かろう」と、言葉を続けた。

「分かりました。では、最善(さいぜん)()くします!」と、ネイルは、一礼した。ハリアの毅然(きぜん)とした態度に、勇気付けられたからだ。そして、すぐさま反転し、「おりゃあぁぁぁっ!」と、雄叫びを上げながら、大蛇へ向かって斬りかかった。その直後、勢いそのままに、所構わず切り付けた。だが、表皮に切り傷を1つも付けられないで、あっさりと(はじ)き返された。

 少し(おく)れて、三人も、大蛇の胴体(どうたい)へ、攻撃を敢行した。しかし、打撃(ダメージ)を与えられなかった。

 その間に、大蛇も、頭を持ち上げて、体勢を直した。そして、再び、「シャアァァァ!」と、大口を開けながら、突っ込んで来た。

「うわっと!」と、ネイルは、間一髪の差で、右へ()けた。そして、「おい! 一先ず、王様の所まで、退却(たいきゃく)だ!」と、すぐさま提言した。武器による効果が見られないからだ。

 その刹那、四人は、速やかに、階段の手前まで後退した。

「ネイル殿、モヤシーダ以上の強敵ですぞ!」

「そうだな。しかし、図体(ずうたい)がでかいだけで、モヤシーダに比べれば、ましな方じゃないかな? 花粉を吐き出さないだけな」と、ネイルは、皮肉混じりに、見解を述べた。

「そうですね。でも、攻撃が全く通用していない所が、難点(なんてん)ですね…」と、ディールが、苦々しく言った。

「確かに…」と、ネイルも、渋い顔で頷いた。モヤシーダと同様に、紅蓮の弓のような魔力の宿った武器(マジック・ウェポン)じゃなければ、傷を付ける事は(かな)わないと実感したからだ。

「やれやれ。わしの出番かのう」と、ハリアが、溜め息混じりに、勿体(もったい)()った。そして、前へ進み出るなり、弓を構えた。間も無く、弦を引いた。その一瞬後、橙色(だいだいいろ)の矢が出現した。次の瞬間、弦を離した。その刹那、燈色の矢が、一筋(ひとすじ)の流れ星のような火線(かせん)(えが)いて、大蛇へ向かって行った。少しして、喉元(のどもと)に命中した。その瞬間、表皮(ひょうひ)()がす程度で、すぐに消滅(しょうめつ)した。だか、モヤシーダと同様に、火傷(やけど)が、瞬時に、元通りに回復した。

「く…! 剣も駄目、紅蓮の弓も通じないとは…」と、ネイルは、あらゆる攻撃が効かない事に、歯噛みした。成す術が無いとは、まさに、この事だからだ。

「まさに、動く堅牢(けんろう)(とりで)要塞(ようさい)を相手にしているようなものですな…」と、ディールが、苦々しく、建造物(けんぞうぶつ)に例えた。

「それだ!」と、ネイルは、はっと(ひらめ)いた。大蛇を攻略する打開策(だかいさく)の手掛かりになりそうだからだ。そして、「奴の腹の中は、案外、(もろ)いかも知れないな…」と、笑みを浮かべながら、(つぶや)いた。堅牢な建造物は、外部からの攻撃には強いが、内部を破壊されると、案外、脆いという事を、昔話で聞いた事が有ったので、大蛇にも当てはまるような気がするからだ。

「おいおい、賞金稼ぎ! 奴の腹の中に入るという事は、食われろって事だろ?」と、ターヤに、問われた。

「ははは。どうして、あいつに、わざわざ食われてやらなければならないんだよ?」と、ネイルは、一笑に付した。愚問(ぐもん)にしか聞こえないからだ。そして、「炎の矢をご馳走(ちそう)してやれば良いと思っているんだがな」と、考えを述べた。

「確かに、ネイル殿の考えは、名案ですが、我々の力では、あの口を開く事は、不可能でしょうねぇ」と、ディールが、表情を曇らせながら、否定した。

「ち! 確かに、騎士さんの言う通り、賞金稼ぎの言っている事には、無理が有るな」と、ターヤも、溜め息を吐いて、同調した。

 突然、「兄貴達、ここは、おいらに任せてくれよ」と、ムルンが、申し出た。

「ム、ムルン! な、何を言っているんだ! お前なんか、余裕(よゆう)で丸飲みにされちまうぜ!」と、ターヤが、狼狽(うろた)えた。

「おでも反対だぁ! おで達がぁ、不甲斐(ふがい)ないからぁ、お前がぁ、そんな事を言い出すんだぁ!」と、ポンクも、猛反対した。

「兄貴達が、不甲斐ないからじゃないよ。この役は、おいらにしか出来ないし、あんな奴に食われる気なんて無いよ」

「しかし…」と、ターヤが、言葉を詰まらせた。

「やらせてやりな! 食べられそうになったら、お前が、奴の顔面をぶん殴ってやりゃあ良いんだからよ!」と、ネイルは、剣を構えて、大蛇を警戒しながら、口を挟んだ。ムルンの心意気を酌んでやりたいからだ。

「そうだな。ムルンを食べさせる訳にはいかねぇ! 顔を近付けて来やがったら、賞金稼ぎの言うように、駆け付けて、容赦(ようしゃ)無く野郎の顔面をぶん殴ってやるからよ! 安心しな!」と、ターヤが、承諾した。

「おでも、ムルンには、近付けさせねぇ!」

「兄貴達、あいつの口を開かせるには、おいらが引き付けないといけないんだよ。殴ったりすると、逆に怒らせて、口を開けなくなってしまうかも知れないよ」

「へ、分かったよ。(ただ)し、ヤバくなったら、逃げて来いよ」

「うん、分かったよ」と、ムルンが、了承した。その直後、(おく)した風も無く堂々とした足運びで、右隣を擦り抜けて、入れ代わるように、ハリアの前へ進み出た。そして、数歩の間合いを取って、短剣(ナイフ)を構えながら、対峙(たいじ)した。

 大蛇も、鎌首(かまくび)を上げたままで、時折、舌をちろちろ出し入れする以外に、動きが無かった。

 ネイルは、ムルンの動きを注視した。いかにして、大蛇の口を開かせるかが、勝利の(かき)だからだ。

「奴め、ムルンが動かないから、逆に、警戒しているのかも知れないな」と、ターヤが、見据えたままで、呟いた。

「どう言う意味だ?」と、ディールが、尋ねた。

 ターヤが、振り返り、「つまり、奴は、目が見えてない上に、ムルンが、身動きしないので、生きているのか、死んでいるのかを品定めしている最中だという事だろうな」と、眉間に(しわ)を寄せながら、低い声で、見解を述べた。

「なるほど。ムルンが、動かなければ、奴も動かないという事だな」と、ディールも、納得した。

「そう言う事だか、ムルンが、何を考えているのか、分からねぇ」と、ターヤが、()れったそうに、吐露(とろ)した。

「今後の展開は、あいつら次第という事だな」と、ネイルは、溜め息を吐いた。これ程動きが無いのも、退屈としか言いようが無いからだ。

 突然、「ネイルよ! 溜め息を吐くでない!」と、ハリアに、注意された。

 その直後、「は、はい!」と、ネイルは、返事をした。そして、気を引き締め直し、再び、ムルンと大蛇の駆け引きを注目した。

 しばらくして、大蛇が、動きを見せた。そして、ムルン目掛けて、頭を突き下ろしながら、丸飲みしようと、大口を開けた。

 ムルンが、その場を動かずに、寸前まで引き付けた。そして、「今だよ!」と、合図の声を発した。その瞬間、左へ跳んだ。

 その刹那、「よし来たっ!」と、ハリアが、呼応(こおう)した。そして、間髪容れずに、炎の矢を放った。少しして、大蛇の大きく開かれた口の中へと入って行った。

 次の瞬間、大蛇が、口を閉じて、動きを止めた。その一瞬後、上体を()()らし、鼻孔(びこう)から炎を噴出(ふんしゅつ)し始めた。そして、瞬く間に、頭から全身へ燃え広がり、巨大な炎の(かたまり)となった。間も無く、「シャシャシャアアアアアアッ!」と、絶叫(ぜっきょう)しながら、荒れ狂うように、のたうち回った。

 その刹那、周囲が、激しく揺れた。

 その途端、「う、うわわわっ!」と、ターヤが、よろけた。

「こ、これだけ暴れられると、ゆ、床が抜けそうですね」と、ディールが、右膝(みぎひざ)を着きながら、塔内の強度を心配した。

「へ、だったら、あの巨体が来た時点で、抜けてるぜ!」と、ターヤが、指摘した。

「た、確かに…」と、ディールも、すんなり納得した。

「どうやら、炎の矢のご馳走は、お気に()さなかったようだな」と、ネイルは、体勢を保ちながら皮肉った。目論見(もくろみ)(どお)りに、事が運んだからだ。

 しばらくして、大蛇が、身動きしなくなった。それと同時に、揺れも治まって、静かになった。やがて、炎も鎮火(ちんか)した。そして、大量の灰塵(かいじん)が、残された。

「いやあ、王様とムルンが、あのような連携(れんけい)を見せるとは…。しかし、いつの間に、打ち合わせていたのでしょうかね?」と、ディールが、感心した。

「ふん。見ておれば、何をすべきかくらいは、分かるじゃろう。お前は、天然(てんねん)か?」と、ハリアが、淡々と言った。

「た、確かに…」と、ディールが、苦笑した。

 その間に、ターヤが、ムルンに歩み寄るなり、「ムルン、よくやった!」と、その頭を左脇で抱えながら、()(たた)えた。

「痛いよ! ターヤ兄貴!」

「おいおい。気持ちは、分かるが、先を急ごう。邪魔が入らない内にな」と、ネイルは、提言した。次の邪魔者が来ない内に、先を急いだ方が、良いからだ。

「そうじゃのう。こうしている間にも、外では、化け物共が暴れておるからのう」と、ハリアも、険しい表情で、同調した。

 ターヤが、振り返り、「そうだったな…。ムルンが、大物(おおもの)を倒す事に貢献(こうけん)したもんだから、つい、(うれ)しくなっちまったんだ! すまねぇ…」と、にやけながら、上機嫌で素直に()びた。

「ターヤ兄貴、そろそろ放してくれよ」と、ムルンが、照れ臭いと言うように、解放を要請した。

「おお! すまん、すまん!」と、ターヤが、すんなりと解放した。

 少しして、ネイル達は、遅れを取り戻すかのように、歩調を速めた。そして、大蛇の灰塵を踏み越えて、通路を進むのだった。

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