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王女の騎士は、賞金稼ぎ  作者: しろ組


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一〇、ネイル、最大の危機

一〇、ネイル、最大の危機(ピンチ)


 ダ・マーハの通告を受けて数刻後、ネイルは、ディールの付き()いにより、闘技場(コロッセオ)闘場(フィールド)の入場口まで連行された。そして、刑の執行まで、待たされて居た。

「ネイル殿、自分は、無実のあなたを連れて来た事を恥じております。ジェリア様に、顔向けが出来(でき)ません!」と、ディールが、恐縮(きょうしゅく)しながら、平謝りした。

「気にするなよ。別に、あんたが悪い訳じゃない。要は、ダ・マーハが、俺に戦わせたい化け物を倒せば済む事だろう?」と、ネイルは、何食わぬ顔で、落ち着き払って答えた。ディールを()める気など毛頭(もうとう)無いし、用意している化け物が、何であろうと、掛かって来いという気構えだからだ。

「ネイル殿は、相当、(きも)()わっていますなぁ。自分なら、ネイル殿のように、じっとして居られませんよ」と、ディールが、そわそわしながら、感心した。

「だろうな」と、ネイルは、微笑(ほほえ)みながら、相槌(あいづち)を打った。仕種(しぐさ)を見ていれば、想像(そうぞう)がつくからだ。

「ははは…」と、ディールが、照れ笑いを浮かべて、闘場の方を向くなり、「む! ネイル殿! いよいよですぞ! 向こうの落とし格子(ごうし)が、上がりました!」と、緊迫(きんぱく)した声で、告げた。

「そうか…」と、ネイルは、厳しい顔つきになった。来るべき時が、来たからだ。

 ディールが、向き直り、「ネイル殿、手枷(てかせ)を外しましょう」と、手枷を外した。

「おいおい。そんな事をして、大丈夫(だいじょうぶ)なのか? 俺に手枷を付けておいた方が、向こうにとっては、有利なんじゃないのか?」と、ネイルは、戸惑った。まさか、手枷を外して貰えるとは思いもしなかったからだ。

「手枷は、ここへ連れて来るまでの道具に過ぎません。短い距離と言っても、罪人を野放しで、連行という訳にもいかないもので…」

「確かに、民衆(みんしゅう)に示しがつかないな」と、ネイルも、頷いた。手枷の無い罪人を連れて歩くのは、城の騎士としての威厳(いげん)を落としかねないからだ。そして、「あのダ・マーハの絶対的な自信は、何なんだ?」と、小首を傾いだ。牢屋でのダ・マーハの態度が、化け物の勝利を確信したかのような感じだったからだ。

「そうですね。自分の知り()る限りですと、ネイル殿が、これから戦わされる化け物は、大して強い訳ではないのですが、触手(しょくしゅ)を切り落としても、身体(からだ)を切り()いても、すぐに元通りに、傷が治ってしまうのですよ。そして、疲れた所を()らえて、頭から食べられ、体内で消化(しょうか)される様まで見せ付けられるのですよ」と、ディールか、顔を(しか)めながら説明した。

(たち)の悪い見世物(みせもの)だな」と、ネイルも、おぞましい内容に、嫌悪(けんお)した。公開処刑と(しょう)した殺戮(さつりく)劇場(げきじょう)のようなものだからだ。

「ネイル殿、今からでも遅くありません。逃げても宜しいのですよ」

「いいや。俺は、逃げないぜ。俺が逃げても、他の奴が犠牲(ぎせい)になるだけだ。誰かが、こんな負の連鎖(れんさ)()たなければならないだろう。それに、俺が逃げると、次は、あんたが、その化け物と戦わされるのかも知れないぞ」と、ネイルは、(おど)しを(まじ)えて(こば)んだ。先の事は(わか)らないが、やれる事はやってみようと思ったからだ。

「分かりました。自分も、それなりの覚悟(かくご)を決めました。ネイル殿、思う存分(ぞんぶん)戦って下さい」

「ああ。そのつもりだ」と、ネイルは、力強く頷いた。言われるまでも無いからだ。

 ディールが、傍の落とし格子を上げる(くさり)を引っ張り始めた。その直後、数台の馬車が、並列(へいれつ)で通り抜けられるくらいの落とし格子が、ゆっくりと上がり始めた。しばらくして、立って潜り抜けられる位置で停止(ていし)させた。

 その瞬間、ネイルは、潜り抜けるなり、四方を大男でも、越えられない高さの観衆席と闘場を仕切る防護壁(フェンス)に囲まれている灰色い煉瓦の()き詰められた闘場へ進入した。

 その刹那、心無い観衆達が、防護壁の上から、罵声(ばせい)野次(やじ)()いた小瓶(こびん)を投げ込んで来た。

 ネイルは、完全な敵地(アウェイ)喧騒(けんそう)な雰囲気を気にする風も無く、中央まで歩を進めた。そして、剣を抜いて、中段に構えた。

 少しして、向かい側の入場口から、歓声が起こった。

 その直後、(あか)い四枚の花弁(かべん)に、薄い白濁色(はくだくしょく)の細い胴体(ボディ)と手足のような無数の触手を(うごめ)かしながら、直立歩行で、入場して来る植物のような化け物が、現れた。

「あれが、モヤシーダとか言う奴か…。何とも、気持ちの悪い奴だ」と、ネイルは、顰めっ面で、化け物を見据えながら、嫌悪した。この世の物とは思えないくらい異形(いぎょう)だからだ。

 その間に、モヤシーダが、前に来るなり、「フシュルルル!」と、(いなな)いた。そして、間髪容れずに、左右の触手を、一斉(いっせい)に突き出した。

 その瞬間、ネイルは、咄嗟に跳びすさって、

間一髪の差でかわした。そして、「挨拶って訳か…」と、気を引き締めた。今の一撃で、気を抜くと、命取りになりかねないと察したからだ。

「フシュー!」と、モヤシーダが、右の触手を振り下ろした。

「何の!」と、ネイルは、返す(やいば)で、その触手を、いとも簡単に切り落とした。その一瞬後、(ふところ)に踏み込んで、胴体(どうたい)を切り裂いた。そして、素早く離れて、距離を取った。

 次の瞬間、有ろう事か、モヤシーダの触手が、見る見るうちに、切り落とした部分から新たに生え変わった。それと同時に、切り裂いた箇所も、瞬く間に、(ふさ)がって行った。

 ネイルは、その様を目の当たりにし、「そう言う事か…」と、愕然(がくぜん)とした。再生力と回復力の追い()ちを掛ける間も無いくらいの速度を、まざまざと見せ付けられたからだ。

「フシュルルル!」と、モヤシーダが、再度、触手を伸ばした。

「くっ!」と、ネイルは、歯噛みをしながら、受け流すしか無かった。攻略法(こうりゃくほう)が、見出だせないからだ。

 その後、モヤシーダが、次々に、触手を振るって、攻め立てながら、距離を詰めて来た。

 ネイルは、猛攻(もうこう)(しの)ぎながら、じりじりと後退した。しばらくして、気が付けば、防護壁を背にしていた。そして、活路(かつろ)を開こうと、()りかかって行こうとした。

 その瞬間、モヤシーダの花弁の中央が開くなり、黄色い花粉のような物を吐き掛けられた。

 その直後、ネイルは、間の悪い事に、かおからまともに()びてしまった。次の瞬間、「むっ!」と、咄嗟に左手で、口を覆った。だか、少し()ってしまった。その刹那、全身に力が入らなくなり、剣を落として、その場に突っ伏した。しかし、不思議と意識ははっきりしており、どういう状況か、把握(はあく)出来た。自分が、餌になろうとしている寸前だからだ。

 突然、観衆達の声が、歓声からざわつきに変わった。

 一瞬後、「ネイル殿をやらせるものか!」と、ディールの声と駆け寄る足音が、聞こえた。

「フシュルルル!」と、モヤシーダが、邪魔をするなと言うように、嘶いた。

 少しして、戦闘音が、聞こえ始めた。

「この! 離れろ!」

「フシュー!」

 不意に、「ぐわぁ!」と、ディールの悲鳴が、聞こえた。少し間を置いて、ひしゃげるような甲高い金属音が、響いた。

 その金属音に呼応(こおう)するように、観衆達の悲鳴と歓声と喚声(かんせい)が、大合唱のように、入り雑じった。

 ネイルは、場の雰囲気からして、ディールが、返り討ちにされたのだと察したからだ。そして、今度こそ、自分の番かと覚悟した。

 しかし、モヤシーダが、触手を伸ばして、掴み掛かって来なかった。

 その代わりに、「てめぇの相手は、俺達だ!」と、何処かで聞いた覚えの有る粗野(そや)な男の声が、場内に響いた。

兄貴(あにき)ぃ、どうして、こんな奴を助けるんだぁ?」と、間延(まの)びした男の声が、問い掛けた。

「そ、そりゃあ、こいつを倒すのは、俺様達だからな。化け物なんかに、()らせる訳にはいかないって事よ!」と、粗野な男の声が、戸惑い気味に答えた。

「そうだなぁ。二回も、こいつにやられているんだからなぁ。今更、他の奴に殺らせちゃあ、二度と仕返しが出来なくなっちゃうからなぁ」

「そう言う事だ」

「ターヤ兄貴、ポンク兄貴。ここじゃあ、例のやつが出来ないから、少し広い場所へ移動させようよ」と、子供っぽい声が、提言した。

 ネイルは、子供っぽい声で、場内に現れたのが、ブヒヒ三兄弟だと判った。

「ようし! ポンク、このデカブツを、賞金稼ぎから離してやるぞ!」

「兄貴ぃ、おいらが(おとり)になるから、その(すき)に、頼むよ」

「分かった!」

「おう、ムルン! (まか)せとけぇ!」

 その瞬間、「フシュルルル!」と、モヤシーダの、嘶いた。

 その直後、「ほうれ、こっちこっち!」と、ムルンが、モヤシーダの気を()くように、手拍子(てびょうし)を加えながら、挑発を始めた。

「フシュー! フシュー!」と、モヤシーダが、身体を引き()る音を立てながら、動き出した。

 少しして、「ポンク、やるぞ!」と、ターヤが、声を掛けた。

「良いぜぇ、兄貴ぃ!」と、ポンクも、すぐさま応えた。

 その刹那、「のろま、こっちだ! 早く来いよ!」と、ターヤも、挑発に加わった。

「フシュルルー!」と、モヤシーダが、吠えた。

 ネイルは、ブヒヒ三兄弟とモヤシーダが、次第に離れて行く気配を耳で感じた。やがて、観衆のざわめく声しか入らなくなった。しばらくして、入れ代わるように、何者かが歩み寄って来るたどたどしい足取りの音が、聞こえた。少しして、傍でしなくなった。

「ネイル殿、生きてますか…?」

 少し後れて、「あ、ああ…」と、ネイルは、うつ伏せのままで、声を(しぼ)り出した。

「ブヒヒ族の者達が現れなければ、自分達は、間違いなくやられてましたね…」

「そう…だな…」

「自分も…、ブヒヒ族の者達の加勢を…してやりたいのですが…、奴の一撃を…まともに受けてしまったもので…。今は…、ここまで…歩いて来るのが…やっとですよ…」と、ディールが、もどかしそうに、語った。

「その…よう…だな…」と、ネイルは、相槌を打った。足音からして、かなりの打撃(ダメージ)を受けたと考えられるからだ。

「ネイル殿…。あいつは…、自分達には…手に余る化け物です…。魔法を使える者でも…居れば…」と、ディールが、剣では倒せないと言うように、弱音(よわね)を吐いた。

「しかし、俺達だけで、やるしかないだろう!」と、ネイルは、自らを(ふる)い立たせて、顔を上げた。そして、ブヒヒ三兄弟とモヤシーダが、移動した先に、視線を向けた。すると、ブヒヒ三兄弟とモヤシーダが、ほぼ中央の位置で戦闘を繰り広げているのを視認した。次の瞬間、それを()の当たりにし、「まさか…、命を(うば)おうとした…奴らに…、命を…(すく)われるとはな…」と、自嘲(じちょう)した。運命の皮肉さを思い知らされたからだ。そして、「くぬぬ…! はあ!」と、歯を食い縛りながら、仰向(あおむ)けになった。

「ネイル殿、あまり、無理をなされては…」

「ここで…無理をしないで…、どうするんだ…! それに、感覚も、戻って来たし…、次は、奴の風上(かざかみ)に立って…、花粉さえ浴びなければ…、何とかなりそうだ…」と、ネイルは、自らを鼓舞(こぶ)しながら、起き上がった。次第に、身が軽くなって来ており、視聴覚以外の感覚も、回復して来たからだ。

「自分も、ここで突っ立っている訳にもいきませんね。ネイル殿、自分も、力の限り、お(とも)します!」

 その間に、ネイルは、右手を伸ばして、剣を掴んだ。そして、立ち上がりながら、右側に立つディールを見やり、「気持ちは(うれ)しいが、あんたは、もう少し休んだ方が良いんじゃないのか?」と、気遣った。甲冑の胸元が、かなり陥没(かんぼつ)しているからだ。

「ネイル殿、お気遣いは、無用です。このように(へこ)んでいますけど、自分の身体の傷などは、大した事はありませんよ」と、ディールが、気丈に、返答した。

「そうか。だが、無理はするなよ。奴は、無理をして勝てる相手じゃないからな」

「ええ」と、ディールも、真剣な顔つきで、頷いた。

 ネイルは、ターヤ達へ、再び視線を向けた。そして、加勢をしようと、右足を踏み出した。その直後、背後から来た橙色(だいだいいろ)の光が、頭上を通り越して行った。次の瞬間、その光が、モヤシーダの胴体を射抜いた。その刹那、一気に燃え上がった。

 モヤシーダが、瞬く間に炎に包まれて、火柱となった。

 その瞬間、観衆も、火の勢いに合わせるように、一斉に、驚嘆(きょうたん)の声を発した。

 少しして、「フシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー!」と、モヤシーダが、断末魔で、身悶(みもだ)えした。

 ネイルは、その様を目の当たりにしながら、その場に固まった。突然の出来事に、混乱(こんらん)したからだ。

 しばらくして、モヤシーダが、燃え尽きて、消し炭となった。

 不意に、「ふう、紅蓮(ぐれん)の弓を取りに行くのに、時間が掛かってしまったわい」と、背後から聞き覚えの有る男の声が、聞こえて来た。

 ネイルは、何気に、後ろを見やった。すると、ハリアが、力強く燃える炎を(かたど)った真紅(しんく)の弓を、左手に持ちながら、防護壁の(ふち)の上に立っていた。

 突然、「ネ、ネイル殿、跪いて下さい! 王様の御前ですよ!」と、ディールが、跪きながら、慌てて声を掛けた。

「ディールよ、そのような事をしなくとも良い。堅苦(かたくる)しい挨拶は抜きじゃ。それよりも、ダ・マーハとネデ・リムシーは、何処じゃ? 早くせぬと、ジェリアの身が危うい!」

「奴らは、城側の観衆席の中段の特設席で、観ている(はず)です!」と、ディールが、畏まって、即答した。

「ここからじゃと、丁度(ちょうど)、向かいの席に当たるかのう」と、ハリアが、右手を(かざ)しながら、目を細めて、その方へ視線を向けた。次の瞬間、「ん! 奴らめ! あのような場所に、浮かんで居るではないか! ジェリアをどうするつもりか!」と、語気を荒げた。

 ネイルも、つられるように、ハリアの

視線の先を見やった。すると、観衆席の最上段よりも、まだ高い位置に浮いているダ・マーハとネデ・リムシーに、両脇を固められたジェリアの姿が、視界に入った。

「くっ…! 紅蓮の弓も、射られんのう…。ジェリアまで巻き込んでしまう…」と、ハリアが、歯噛みした。

「王様…、御気持ち…御察しします…」と、ディールが、しんみりした表情で、同情した。

 ネイルも、成す(すべ)も無く、歯痒(はがゆ)い思いで、見上げるしかなかった。ここからでは、どうにもならない場所に居るからだ。

 しばらく()たない内に、三人の姿が、その場所から、一瞬で消失した。

 その直後、地響きと共に、施設全体が、大きく上下に揺れだした。

「うわ!」と、ネイルは、激しい揺れに、些か体勢を崩した。

「な、何事じゃ!」と、ハリアも、狼狽した。

 突然、「王様! ネイル殿! あ、あれを! 地面から何か、突き上げて来ますよ!」と、ディールが、右手で、闘場の中央を指した。

 ネイルも、その方へ視線を向けた。すると、モヤシーダの燃えカスの下から、深緑色の円錐形(えんすいけい)の物体が、石畳を突き破っているのを視認した。

 その直後、その物体が、見る見るうちに、天へ向かって、ニョキニョキと勢い良く伸びて行った。しばらくして、モヤシーダの死骸(しがい)の有った場所を中心に、場内の約半分の面積を()める塔となった。それと同時に、揺れが治まった。その直後、最下層の両開きの鉄扉(てっぴ)が開くなり、黒い(かたまり)が、わらわらと、飛び出て来た。そして、瞬く間に、観客席へと拡散(かくさん)した。間も無く、観客席が、瞬く間に、黒く覆われた。

 その一瞬後、観衆が、席を立つなり、逃げ惑いながら、悲鳴や怒号が飛び()って、恐慌(パニック)(おちい)った。そして、一部が、迫った。

 ネイルは、それらを凝視(ぎょうし)した。少しして、密集した漆黒(しっこく)の体色の大蝙蝠(ジャイアントバット)だと認識した。そして、「まさか、蝙蝠(こうもり)を飼っているとはな…」と、眼前まで飛来した大蝙蝠を切り落としながら、皮肉った。

「この闘技場は、隠れ(みの)じゃったと言う事か!」と、ハリアが、真相を知って、憤慨(ふんがい)した。そして、燈色の光を放った。その一瞬後、塔の方向へ、射線上の大蝙蝠を焼き払いながら、飛んで行った。

道理(どうり)で、ダ・マーハ達が、完成まで、王様の御視察を拒んだ訳ですよ」と、ディールも、()ぎ払いながら、思い当たる事を述べた。

 ネイルは、二人に振り向くなり、「あれが、地下から出て来るという事は、連中の封印(ふういん)役が、王都(ローナ)を離れたからだろうな」と、推論を述べた。ダ・マーハ達が居なくなった事で、封印が()かれたと考えるべきだからだ。

 突然、「ネイル殿、危ない!」と、ディールが、叫んだ。

「え?」と、ネイルは、咄嗟に、塔の方へ向き直った。その直後、「うわっ!」と、驚きの声を発した。攻撃も、防御も出来ない距離まで、大蝙蝠が、(つばさ)を大きく広げながら、詰めていたからだ。だが、間一髪の所で、(たた)き落とされた。

 次の瞬間、「賞金稼ぎ! 余所(よそ)見してるんじゃねぇ!」と、ターヤが、得意顔で立って居た。

「ネイルよ、この者は、何者じゃ?」

「ちょっとした訳有りの関係の者です」と、ネイルは、ターヤを見据えながら、言葉を(にご)した。ジェリア達を襲撃した山賊達の親分とは、言えないからだ。

「見た感じ、確かに、訳有りじゃのう。今は、その者の身分を問うても、意味が無い。この場を切り抜けるには、一人でも、協力が必要じゃからな」

「何でぇ! この(えら)そうなバニ族のオヤジは?」と、ターヤが、横柄(おうへい)な態度で、尋ねた。

「貴様! 王様に向かって、何と言う暴言!」と、ディールが、いきり立った。

「ディール! 今は、非常事態じゃ! 些細(ささい)な事で、腹を立てるでない!」と、ハリアが、一喝した。

「は、はい…」と、ディールが、(しか)られた子供のように、萎縮(いしゅく)した。

「おい、そう言う事だから、お前達にも手伝って貰うぜ」

「へ! 言われなくても、分かってらぁ! ポンクとムルンが、あの塔の入口で頑張って居るんだ! 早く付いて来な!」と、ターヤが、任せろと言うように、不敵な笑みを浮かべながら、右手の親指で、背後の塔を指した。

「分かった。ここに突っ立って居ても、何の進展も無いからな」と、ネイルは、承知した。そして、「それに、どうやら、中へ入らない事には、この事態は、収拾がつかないだろうな」と、言葉を続けた。塔の中へ進入しなければならない気がしたからだ。

「ネイル殿の仰られる通りかも知れませんね。混乱は広がるばかりでしょうね」

「そうじゃのう。あのような物を、このまま野放しにして置く訳にもいかん。ブヒヒ族の者よ、案内せい」

「へ、付いて来な!」と、ターヤが、踵を返した。

 ネイル達も、すぐさま続いた。少しして、正面付近で奮戦(ふんせん)するポンクとムルンと合流した。そして、大蝙蝠を撃退(げきたい)しながら、扉を通り抜けるのだった。


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