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「それで、その彼女とやらに会ったのはいつだ?」

 俺の前にカレーの皿を置きながら、征志は俺の向かいの席に座った。自分の前には、紙コップに入ったコーヒーを持ってきている。

「サンキュ。悪いな」

 征志が買ってきてくれるのを大人しく待っていた俺は、嫌々スプーンに手をのばした。

「吐いてもいいから、食べろよ」

 ドロドロのゲロのようなカレーを見下ろして、俺は口に手をあてた。

「お前のせーで、食う前に吐きそうだぜ」

 恨めしい目を征志に向ける。それを、肩を竦めてかわした征志は、俺がゆるゆるとカレーを口に押し込むのを見ながら、コーヒーを口元へと持っていった。

「今朝か?」

 コーヒーの紙コップを弄びながら、俺に探るような視線を向ける。

「ああ」

 軽く頷いて、水に手をのばす。ここのカレーは辛くない上に粉っぽい舌ざわりなので、あまり好きではなかった。

 まあ、せっかく征志が買ってきてくれたから、無理矢理にでも食うが……。

「今日学校来る途中でさぁ、窓から俺を見てる()と目が会ったんだ。なんか、か弱いって感じの娘でさぁ。窓から出てこようとすんだよな」

 俺が話に夢中になっているからか、ツイと眉間にしわを寄せた征志が、指でスプーンを動かすように指図する。俺は機械的にスプーンをカレーに埋めて口へと持っていき、水で胃に流し込んだ。

「ちゃんと噛め。――それで?」

 厳しく言った征志をチラリと上目遣いで見て、仕方なくモグモグと口を動かす。

「だって、美味くねぇんだからよぉ」

 ひとこと恨みごとを言ってから、話を続ける。

「そしたら、急にきつい風が吹いて、俺が一瞬目を閉じてる間に、その娘いなくなってたんだよ。だから、きっと――」

「いなくなった?」

 声をあげて俺の言葉を遮った征志は、右手で顔を覆った。

「なんて馬鹿な事を……! 俺には、理解出来ない!」

 吐き捨てるように言った征志は、悲痛な顔を上げて俺の肩を見つめた。

「他にも、方法ならいくらでもあるだろうに」

 苦々しく言って、首を振る。

「征志?」

 俺が顔を覗き込むと、征志は自嘲的な笑いを浮かべて、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。自分を落ち着かせるように、深い息を吐く。

 一瞬、まるで縋るように俺を見た征志は、唇の端を上げて引きつった笑みを浮かべた。

 両肘をテーブルに付いて、指を組み合わせる。

「鏑木。俺も、その娘の事知ってるよ」

 コーヒーを見下ろしながら、征志が呟く。

「え?」

 訊き返す俺に、征志は顔を上げた。

「知ってる。その娘……。お前の家から五分ぐらい歩いた路地の先にある、三階建ての家だろ? ……その娘を見たっていう家は」

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