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「頼れそうだと思ったんじゃねぇ? そうだよなぁ。俺って、よく人から頼られるタイプだからよ」

 冗談ぽく言って、冷たい征志の視線にぶつかる。俺がにっこり笑うと、征志は唇の端を上げて皮肉げな笑みを浮かべた。

「お前、そんな真っ赤な嘘ついて心が痛まないか? それとも、熱が出てきたのか?」

 本当に額に手をあてかねない征志を無視して、俺は自分の背中に手をまわした。

「とにかく、しばらくこのまま様子を見てみよう。風邪気味だって言っても、俺の体力は並みじゃねーし大丈夫だろ」

「本当にか?」

 真っ直ぐに俺を見据える征志に、自信満々に頷く。

「ああ。あたりまえだ」

 まだ心配そうに俺を見る征志の胸を、コツンと小突いてやる。

「マジ。大丈夫だって!」

 微笑んだ俺に、やっと征志もそうだなと笑顔を見せた。

 これでやっとゆっくり出来ると、再び机にうつ伏せた俺に、征志が頭上から声をかけた。

「なあ、鏑木(かぶらぎ)。昼飯はもう食べたのか?」

「いいや」

 軽く答えた俺に、征志の予想以上に驚いた声が返ってくる。

「何故!」

 強く訊かれて、俺は顔を上げた。

「なぜって……腹が空かねぇから……」

 相手の予想外の反応に、俺はたじろぎながら、それでも素直な答えを返した。

「だめだ!」

 きつく言い放って、征志は俺の右肩を掴んで立たせようとする。

 瞬間、俺は反射的に征志の手を振り払って後ずさっていた。慌てて、背中に手をまわす。

 俺に押されて少しよろめいた征志は、驚いたように俺を見たが、すぐに理解したように笑った。

「大丈夫だ、鏑木。後ろの奴には触っていないから」

「そう……か。悪い」

 気が抜けてふらつく俺の腕を掴むと、征志は俺を引っ張って教室を出た。

「いいか。しんどくてだるいのは解るが、飯はちゃんと食べろ。でないと、しつこいようだが本当に死ぬんだぞ。……ったく! よくそんなんで、大丈夫とか言えたよな」

 怒りの為か、心配するあまりなのか、腕を掴む征志の指が震えているのが伝わってくる。

「わかった。これからは気をつけるよ」

 素直に謝る俺に眉をそびやかした征志は、溜め息混じりに言った。

「何故、こんなに大変な目にあってまで奴を庇うんだ?」

 その質問に、俺はニヤけた目を征志に向けた。

「なぁ。こいつの姿は判んなくても、性別くらいは判るか?」

「……なんとなくはな」

「女だろ」

 フフンと自慢げに言ってやる。真っ直ぐ前を見ていた征志の目が、驚きと共に俺に向けられた。

「何故、判ったんだ?」

「会ったからだよ。――うん、悪くない。あの娘ならいっか。かわいい感じだったし」

 1人で納得する俺におかしな視線を向ける。

「まあ、その話は食堂に着いてから、ゆっくりと聞かせてもらうよ」

 再び前を見た征志は、数歩歩いてクスクスと笑いだした。

「なるほど。だからか」

 言って、チラリと俺を見る。

「ああ?」

「お前らしいな。モテないというのも、大変なものだ。涙ぐましいものがあるよな」

「ぬかせ!」

 声を殺して笑う征志に冷たい一瞥をくれると、俺は力を込めて背中を叩いてやった。

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