三
「そいつさ。俺が消滅してやろうか」
軽く顎で示す。
「消滅すって――」
「そいつは弱すぎる。今は、俺が触れただけで消滅してしまうだろう。だから、話も出来なきゃ送ってやる事すら出来ない。……それぐらい、弱い魂なんだ」
眉間に皺を寄せた征志は、弱々しい光しか放てないこの魂に同情しているようだった。
「そんなに弱い魂なら、ほっといてもいいんじゃないか?」
相手を哀れんでいるらしい様子を見て、俺は何気に答えてみる。しかしゆっくりと細めた視線を俺の肩のあたりで止めた征志は、小さく左右に首を振った。
「他の奴が取り憑かれたんならね、しばらくそうしたかもしれない……。でも。――お前さぁ、体がすごく重くないか? 異常にだるいとか、しんどいとかさ……」
虚ろな目をして、征志が尋ねる。
「ああ。なんか教室に着いたあたりからだるくってさぁ。でも、熱は無いんだよなぁ」
額に手を当てながら言う。やはり冷たいままだ。
「そうだろうな。それ、生気吸い取られてる証拠だぞ。犯人は、お前の背中に隠れてる奴。――そいつ。弱々しいくせに、短時間に異様な程の生気を吸ってるんだ。このままだと、生気全部吸い取られて、死ぬぞ」
あっさりと言われて、俺は身震いした。時々、征志は恐ろしい事を平気で言う。征志の感覚が鈍いのか、俺が臆病すぎるのか……。
「だけど……消滅しちまうって事は、魂が無くなっちゃうんだろ?」
「そう。未来永劫、永遠に転生すら出来ない」
「じゃあ、かわいそうじゃねーか」
「だから。お前以外の奴ならしばらく様子を見て、話が出来るか、俺が触れても平気なぐらいに強くなったら、成仏させようと思ったんだ」
腹立たし気に言う征志の顔を、俺はまじまじと覗き込んだ。
「なんで。俺以外、なんだ?」
俺を見た征志の瞳が、責めるように眇められる。
「しょーもない質問をするな。お前、風邪気味だろう。違うか?」
段々と口調の荒くなる征志に、俺は大人しくそうだと頷いた。
「だからだよ。ただでさえ風邪で体力落ちてるのに、その勢いで生気を吸い取られてみろ。棺桶に全力疾走するようなもんだ」
両手でだるそうに前髪を上げて、征志がそのまま頭の後ろで指を組む。足を俺の机にかけると、教室の天井を見上げて深い溜め息を吐いた。
「でも、消滅はかわいそうだろう?」
遠慮気味に言う。
「…………そうだな」
体を起こした征志は、両手を頭から剥がし、組んだ足の膝へと持っていった。
「何で、お前に取り憑いたんだろうな」