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異界境界線  作者: 十二月
異界探索者
9/17

守護者討伐隊~伍~


 駆け続け、描き続けた術式を辿り着いた鎖盾へと引き継ぐ。俺の魔力は魔術式を展開し続けたことで枯渇寸前。身を包む魔装具には綻びが生まれ始めている。俺の仕事はここまでだ。


「うおぉぉぉぉ!」


 大地が震えるほどの咆哮を吐き出しながら、鎖盾は俺の描いた魔術式に総仕上げとばかりに魔力を注入。長大な魔術式を発動させた。

 顕現したのは大柄な鎖盾よりも更に二回りは巨大な鎖で象られた槍。鎖盾は飛び上がり、稲妻が表面でばりばりと燻る雷槍をゴーレムに向けて突き出した。

 直撃した雷槍の先からは一筋の閃光が迸り、防御しようと身体の前で交差されたゴーレムの太い大樹の様な腕を打ち貫き、ゴーレムの胸部を貫くと、その先の地平の彼方まで伸びていった。

 ややあって遅れてやってきた豪雷の音が周囲に轟き渡るとゴーレムの身体は端から砂塵となって自壊していく。

 討伐隊も第二界位に取り残されていた者達も皆が手と手を取り合い、肩を抱きあって歓喜した。

 俺達は勝ったのだ。



***



 あれから三日が経った。ゴーレム討伐の後、異界管理局の技術者が異界境界線の修理に入り、数時間で作業を終え、討伐隊を含む第二界位に閉じ込められた異界探索者達は無事、全員地球に帰る事ができた。

 修理を待つ間、俺と鎖盾は魔力欠乏により魔装具の形状を保てず、ほぼ半裸状態だったのだが、討伐成功を喜び合う異界探索者達はお祭り騒ぎで、誰も俺達の半裸姿など気にも留めていない様子だった。

 第二界位脱出後は異界管理局近隣の居酒屋で打ち上げが行われた。ちなみに綾芽は女性の意地からか、魔力がほぼ枯渇しているにもかかわらず第二界位を抜けだすまで、魔装具の形状を保ち続けていた。さすがである。

 今回のゴーレム襲撃事件により百二名の異界探索者が命を落とし、討伐隊からも三名の死者がでるという悲惨な結果になり、重軽症者を合わせるとその数は数え切れず、今回の事件の被害者は多い。こんな悲劇は二度と繰り返されてはならない。

 今後は異界管理局職員が各異界守護者を常に監視することが決定した。さらには緊急避難経路として、各異世界にもう一つ非常用異界境界線が順次設置されることになるそうだ。

 三日経った今日。討伐隊に参加した異界探索者達は東京にある会場へと招かれた。

 討伐隊の隊長を務めた鎖盾――本名は芝木孝次郎しばきこうじろうと副隊長を務めた綾芽が今回の事件を解決した立役者として、総理大臣から直接、表彰を受けるための式典だ。その式典に出席した俺も討伐報酬として異界管理局から貰った報酬三百万で懐を存分に温める事ができた。式典の最中、芝木に無理矢理壇上にあげられた時はさすがに焦ったが、たまにはこういうのも良いと柄にもなく思った。

 今は式典も終わり、討伐隊の仲間達と最期の別れを惜しんでいる。芝木や綾芽はこれから二次会に行くらしいが、田舎から出てきた俺は今日帰る予定にしており、新幹線の時間があるのでここでお別れだ。


「それじゃあ、俺はこれで。また異世界の何処かで会いましょう」


 外に出て、タクシーを待っていると、綾芽が後を追ってきた。

 黒いイブニングドレスに身を固めた綾芽は妖艶な美しさを纏っている。式典中、纏められた髪によって露わになった綾芽のうなじに男性探索者の視線が集まっていたのを覚えている。まるで世界の美を集約したような美しさ。魔装具を身に着けている時も凛々しく美しいが、ドレス姿も思わず顔を赤らめてしまうような大人の美しさがある。


「表彰されたのは私だが、今回の立役者はやはり君だ」

「違いますよ。綾芽が術式を構築、最適化し、芝木さんが発動した。僕がやったのはただ術式を展開しただけです」


 連続して術式を展開するとなれば、俺の固有技能である高速術式展開が必要になるが、魔術において重要なのは術式の構築と発動。俺がしたのは二人のサポートに過ぎない。

 一瞬、不満げに顔を歪めた綾芽であったが「そういう事にしておこう」と最後には笑みを浮かべてくれた。


「これを渡しておこう。私の連絡先だ。鏑木、私の所属しているレギオンに来い。君なら私達と共に異世界の深淵まで辿り着ける」

「過大評価ですよ。今回の討伐隊で自分の無力さがはっきりとわかりました。俺は綾芽と芝木さんにはまだまだ遠く及ばない。――でも考えておきます」


 レギオンとは異界探索者グループの事である。安全に、かつ効率よく異界探索を行おうと思えば、パーティーを組むのが一番だ。討伐隊を編成するのと同じで、規模は小さくなるが役割分担すれば、余計な危険を最小限にできるのは当然のことだろう。

 ただ俺はこれまで友人とパーティーを組む事はあれど、合探のようなイレギュラーな場面だけで本気の探索はすべて一人で行ってきた。自分の実力に自信がなく、自分より明らかに実力で劣る者としかパーティーを組んでこなかったのだ。

 パーティーを組むというのは己の背を他者に預け、他者の背を預かることになる。それが恐ろしい。預けるのも預かるのも恐ろしいのだ。

 勿論危険の少ない低界位や大規模になる討伐隊ではその恐怖は緩和されるので平気だが、俺にとって三人から五人で構成されることの多い探索パーティーはやはり恐怖の対象だった。

 タクシーの車窓から外を見る。道端では大学生と思われる集団が大騒ぎし、仕事に疲れたサラリーマンは下を向いて歩く。異世界と繋がる前とそう変わらぬ光景。三年以上前では、こんな光景が世界の全てだったのだと思うと何だか感慨深い。

 今回の戦いは血沸き肉躍った。化物を相手に何度も心が折れそうになりながら、人類の力の源泉たる知恵を振り絞り、強い味方と共に肩を並べ戦い、打倒する。あの快感は麻薬だ。あの戦いをまた出来るかも知れないと思うとレギオンに入ってみるのは良いと思う。

 綾芽から貰った名刺に目を落とす。椿の花模様で艶やかに飾られた何とも綾芽らしい名刺。レギオン名は桜花乱舞。国内でも有数の有名レギオンの一つだ。

 今は自分の力に自信がもてないが、いつの日かもう少し強くなることができたら、俺は桜花乱舞の門を叩こうと心に決めた。







今話は短めになってしまいましたが、これにて第一章完結となります。

書き溜め期間を頂き、第二章の更新を行っていきたいと思います。

お付き合い頂き、ありがとうございました。

今後ともご愛読の程よろしくお願いします。

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