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異界境界線  作者: 十二月
異界探索者
3/17

合同探索~壱~

 先に慶太と待ち合わせ、二人で女の子達との待ち合わせ場所に向かう。男女四対四の合探。男性陣の他二名は現地で合流するということだ。待ち合わせ場所は勿論、異界監理局。

 左右を刈り上げ、茶髪に染めた垢抜けた髪型をした慶太。つい半年位前までは俺と同じ黒髪だったのに、今やずっと昔からこの髪型をしています、と言わんばかりだ。180センチの身長と細身でありながら筋肉質な身体。目鼻立ちの整った容姿は大学でもさぞモテることだろう。


「おっ。あれだあれだ」


 異界管理局前に到着すると今回の合探参加者を見つけたのか、言いながら慶太が遠くへ向かって大きく手を振り近寄っていく。すでにメンバーは全員集まっているようだった。

 簡単な自己紹介を終え、異界監理局の中へと入る。慶太以外初対面で、人見知りの激しい俺は吃りながら自分の名前を発した以降言葉を使ってない。

 一階総合受付区画のロビーでソファーに腰掛けて、今日の合探に関しての打ち合わせを行う。周囲には俺達と同じように合探をしていると思われるグループや仕事帰りであろうスーツ姿の者達が多く見られた。

 ディープダイバーは人でごった返すことが多いこの時間帯の一階に来ることはほとんどない。19時から22時はゴールデンタイムと呼ばれ、合探や仕事帰りにアルバイト感覚で異世界に潜る異界探索者が増えるからだ。リア充を非リア充が避けるようなものだろう。

 まずは女の子達のグリモア内に必要最低限のアプリがインストールされているかの確認。

 当初の予定は変更になり、俺は自分の探索者レベルは明かさない。今日の男性参加者の内一人がレベル2の異界探索者らしく、そいつを立てる為にそうした方がいいだろうと慶太が言うので、俺は従う。自分のレベルをひけらかす趣味はないし、大学に通いながらにしてレベル2は実際大したものだ。

 女の子達のグリモアの確認と異界探索における注意事項の説明はそのレベル2の探索者である根建ねだちが担当する。

 案の定女の子達は誰一人として異界探索用のアプリをインストールしていなかった。異世界に潜る気がないならグリモアではなく普通の携帯端末で良いだろうと感じてしまうのは、俺がディープダイバーだからか。

 異世界と通じたことにより、人類は魔術を得た。大気の魔力濃度が薄い地球であってもグリモアを介せば簡単な魔術を行使する事は可能だ。魔術で人を傷つけた場合は重い刑罰を課せられるが、例えば煙草に火を点ける程度の魔術行使であれば認められている。今では異世界に潜らない者であっても携帯端末としてグリモアを所持するのは当たり前になっていた。

 根建が予め端末にインストールしておいた初心者用異世界探索アプリのデータを女性陣に配布する。初心者用異世界探索アプリとはネット上で出回っている必要最低限の術式が組み込まれたソフトだ。魔装具の調整など、まだわからない初心者はまずはこれを使って異界探索に慣れる。根建は合探慣れしているのか、用意が良いことだ。

 根建からの一通りの説明が終わり、地下へと降りる。今日潜るのは当然入界難度Fの第一界位。男性陣と女性陣は一度二手に分かれ、男女異なる異界境界線を潜り、異世界へと潜った。



 ***



 第一界位は見渡す限り草原の異世界。美しい野花が咲き乱れ、どこまでも続く地平線と茜色の空。太陽に似た星が東の地平に佇み続け、昼も夜も存在しない永遠の夕暮れ時。涼しく穏やかな気候は心に清々しさ与えてくれる。

 出現する魔物も弱く、合探に利用されるだけでなく恋人達のデートスポットとしても人気を博している異色の異世界。異界境界線を潜ってすぐの場所であれば、多く訪れる異界探索者に魔物は狩り尽くされ、魔物に襲われる心配もほとんどない。

 合探は魔物との戦闘行為で得られる多少のスリルが必要な為、俺達は根建の先導に従い、先へと進む。東西南北見渡す限りの地平線だが、今回の目的地は草原の守護者であるリザードマンの住み処。

 各異世界にはその界位に出現する魔物とは一線を画す実力を持った主が存在する。守護者やレイド、ボスキャラなど様々な呼び方をされるそいつは高純度の魔石を体内に宿している。

 現在は第四界位までの守護者が確認されているが、討伐実績があるのは第三界位まで。第四界位の守護者が発見されたのはごく最近であり、まだ討伐隊の編成は行われていない。

 何故なら第四界位まで潜れるほどの実力を持った探索者の数が少なく、守護者が保有する魔石の純度が高いといっても討伐に手間がかかりすぎる割に大勢で儲けを折半する守護者討伐は実入りが少ない。

 もうひとつ第四界位の討伐隊が中々編成されない理由には第三界位の守護者を討伐する際に起こったある事件が深く起因していた。

 第三界位守護者討伐隊は人望厚い一人の男によって、編成された。討伐隊は苦戦しつつも第三界位の守護者討伐に成功したのだが、魔石の儲けを山分けしようという段になって問題が発生した。主催した者が守護者から手に入れた魔石と共に消えたのだ。

 ニュース番組で連日放送される事となったその異世界討伐詐欺事件は主催者が警察に逮捕されて幕を下ろした。しかし、事件自体が解決しても探索者達の間に広がった疑心暗鬼は払拭できなかった。

 政府が安全対策を講じているといっても、年間数百人の死者が出ているとされる異界探索。命を懸けて戦っても儲けがゼロでは堪ったものではない。特に前衛を任されることの多い具象化系魔術師は討伐隊への参加に難色を示し始めた。強力な攻撃を繰り出す守護者に対して、前衛なしでは戦えない。そんな事情があって、第四界位の守護者討伐隊はおろか、討伐隊そのものがその事件以降編成されなくなってしまった。

 今回の合探で危険極まる第一界位の守護者の元に行くのは討伐目的ではなく、ただの観光だ。リザードマンは草原に穿たれた大穴の奥に棲んでおり、一定以上接近しなければ襲ってくる事はない。討伐隊が編成される事もなくなった現在、常にそこに存在し、襲ってくる心配のない第一界位の守護者は観賞用としての地位を確立しているのだ。

 俺達八人は草原を疾駆する。人の多い異界境界線付近を離れ、かなりの距離を駆けてきた。魔術で強化された身体は自動車並みの速度で走ろうとも息一つ切れる事はない。初めて感じられた魔術の恩恵に女性陣は感激しているようで、黄色い歓声を上げている。

 地表の隆起を飛び越え、目的地へ向けてひた走る。第一界位の魔物は常に枯渇気味で、遭遇する事は稀だ。俺達ディープダイバーにとって稼ぐ事のできない第一界位は入界する価値のない場所で、俺自身第一界位に来たのは久しぶりだった。


「服。格好良いね」


 俺に並走してきたウェーブがかった茶髪をした女の子が言った。名前は櫻木さくらぎと言ったか。白い肌に垂れ目がちな瞳、幼い顔立ちに似合わない豊満な身体と鼻にかかった甘い声音は男好きのするタイプだろう。正直俺の苦手なタイプだ。

 現在の俺の魔装具は長期滞在タイプ。灰色の外套と茶色のレザーメイルといった出で立ち。多少細かなデザインにこだわりを持ってはいるが、特に目立って格好良いというわけでもないと思う。煌びやかなシルバーメイルに身を包む根建の魔装具の方が一般的には格好良いと思われるのではないだろうか。

 思わず根建に視線を向けてしまったからか、櫻木が言った。


「派手すぎて、逆に弱そうだよね。格好良いと思ってるのかな」


 噴き出しそうになるのを堪える。他者の魔装具を笑うのは重大なマナー違反だ。

 ファンタジー染みたこの世界において、見た目が性能を決めるわけではない魔装具のデザインは個々人によって様々だ。着物の様な魔装具を身に着けた異界探索者を目にした事もある。

 具象化系魔術だけでなく、すべての魔術を行使する際にその威力を決定づける重要な要素として、イメージの力がある。他にも魔術式、注入魔力量、グリモアの数値調整等、魔術の威力を決定づける様々な要素があるが、このイメージ力が最も重要であるとされている。魔装具に関して言えば、自分で強そうと心から思えるデザインにしなければ設定した数値以上のポテンシャルを引き出す事ができないという事だ。

 根建はあのデザインを本当に格好良いと思って設定しているのだから、絶対に笑ってはいけない。


「魔装具のデザインの良し悪しは本人が決めるものだ。そういう言い方は失礼だよ」


 俺が諭すように言うと、櫻木は露骨につまらなそうな表情で俺を見やると何も言わずに離れていった。やはり俺の苦手なタイプである。

 そうこうしている間に、付近を見渡せば他の異界探索者の人影はなくなり、俺達一行は第一界位に潜って初めて魔物にエンカウントした。




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