復讐の雪が積もりだす
初雪がぐれた。
私の――ランの死をきっかけに、初雪の生活はまるでひっくり返した鞄の中のように、混沌としてあわただしくなっていた。そして同時に、冷たくなっていた。
「……ちっ」
ゴーストチャイルド――ゴーストの王様として初雪が目覚めるまで、初雪はあの家――ホテル・ホッシェンプロッツには帰れない。
もともとそういう手順ではあったけれど、私たちの思い出の場所であるあそこに初雪が居ないというのは、やはり少しさみしかった。
いくらみすぼらしい、荒れた廃ホテルだとはいえ、あそこには初雪の半生の思い出が詰まっている。
あの子が事故――襲撃にあう以前の話を、あの子から聞いたことはない。もしかすると、あまりの恐怖と絶望に、記憶を閉ざしているのかもしれない。そうだとしたら、あの廃ホテルには一生分の思い出が詰まっていることになる。
『……初雪』
反魂香に満ち始めたこの町には、ゴーストがあふれかえっている。
私も、ゴーストとして生身を持たない身で、時折初雪のことを眺めていた。
ゴーストたちが監視しているとはいえ、やはり自分でも見ておきたい。これは、初雪のことを見守るためと、ゴーストチャイルドになる手助けをする時のためだ。
「てやんでぇ……俺がなんだってんだ! どいつもこいつも……っ」
帰る場所をなくした初雪は、お酒も飲んだし、喧嘩もした。
いや、それは以前からしていたのだけど、癒える場所がないというか、傷ついたまま、その傷を忘れるために新しい傷を作っていくような惨状だった。
『……ごめんね』
私には初雪を助けることはできない。
それは私の、ゴーストとして生まれ変わった私のすべてを否定する行いだからだ。
私にできるのは、初雪をゴーストチャイルドにすることだけ。
そうすれば、初雪はあのホテルに帰れる。
そこにランはいないけど、ゴーストたちが配下となって彼を守る。
……初雪をゴーストチャイルドにするための拠点となる場所は、すでに用意してある。
――人形喫茶・カンテラ。
あとは、どうやってそこに案内をするかだけれど。
『……反魂香をばらまいてくれたあいつらには、一応感謝しないとね』
この反魂香のおかげで、そのめども立っていた。