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はつゆきがつもるまで  作者: アーティ
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救えない魂(1)

妖精が舞うように、あずま夜がローラースケートでダンスを踊る。

『……きれい』

ふとこぼれた言葉は本心だ。


流石はフィギュアスケートで注目を集めるだけあって、陸に上がろうとも美しく踊る。


まるで妖精のように美しく。

けれどどこか寂しさを浮かべ。

それ以上の力強さを瞳に込めて。

何かを捧げるように、ダンスを踊る。


『……あ、まさか』

そこに至って、ようやく私は我に返り、その目的に気づいた。


ゴーストの発生を封じる、結界を張るつもりだ。

初雪も気づいたらしく、声を張り上げるけど、あずま夜は頑としてやめる様子はない。


――このダンスは、もういなくなってしまった桜と、今ここにいる初雪の2人に捧げられたもの。


2人は何かしらを叫びあう。


きっと、あずま夜は自分の想いのために。

初雪は、自分の祈りと願いのために。


お互いの声を夜に響かせる。


間もなく、結界は完成した。

その様子を私は、口惜しげに見つめるしかない。


ゴーストを発生させていた空気が抑え込まれていく。

「ああああああああああああ」

「ああああああああああああ」


まるでバケツの水をひっくり返したかのように、そこらじゅうにあふれかえっていたゴーストたちは、あふれた水がバケツの中にひとりでに帰っていくように初雪の周囲だけに存在するのみとなった。

そんな初雪の前に、コノハサクヤが飛び出した。


『初雪を、討つつもり……?』

そんなことをすれば、初雪の友人たちが黙っていないだろう。

だから、不思議に思ったのだ。


どうして彼らの前に、初雪を討つはずの彼女がいるのか、と。

『それとも、初雪の中のゴーストだけを、みんな討つつもり……?』

それでも、初雪は救えない。


100のゴーストを身に宿して久しい彼の身も心も、もはやゴーストと切り離しがたくなっている。

……初雪は、ゴーストに身をゆだねすぎた。


復讐のために、そう差し向けたのは私たちだけど。

けれどもし、初雪が私たちよりも、学園での生活や友達との時間に心をゆだねていたのなら。


きっと、初雪は救われていた。


もう、遅い。


『……2年前にはもう、初雪には私しかいなかった。だから、あの時にはもう、こうなる流れを止められなかった』

初雪にとって、現実にある拠り所のほとんどは、ゴーストとかかわりのあるものだった。


その時点で、もう決まっていたのだ。

『初雪が救われることはなかった』


ゴーストの依り代として生まれている初雪が、自分の依り所をゴーストに見出すしかなかった時点で、もうこうなることは決まっていたんだ。


だからもう、やり遂げるしか道はない。

そうすることでしか、初雪は救われない。


けれど、初雪の前に出たコノハサクヤは、初雪と何か言葉を交わして、何かを語り始めていた。

その内容は、分からない。

今この場で語りかけるからには、何かしら意味のあるものなのだろう。


初雪もその話に耳を傾けている。

――けれど。

どれだけそれが大切なことでも。


『……もう、遅い』

私は、胸が締め付けられる思いで、届かない祈りをつぶやくように――振り絞るように小さく声を紡いだ。


……どれだけの時間が経っていたのだろう?

コノハサクヤの話は終わり、東雲希の伸ばそうとした手を一瞥して振り切り、初雪は再びゴーストを呼び出した。


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