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はつゆきがつもるまで  作者: アーティ
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降り始めた白い雪(1)

いつものように学校に行く初雪を見送って、いつものように初雪を出迎えて、いつものように料理を作る。


何年も続いた生活は、すでに習慣と呼んでも差し支えのないものになっていた。

もちろん、私にも自分の生活がある。


ランは、あくまでもレイス――生霊としての私だ。私はすでにゴースト……生きていくことをあきらめた生者だけど、それでも生身は厳然として存在した。

生身の私はちゃんと存在しているし、そっちの方できちんとご飯を食べないといけない。


お日様の下を歩けない私は、狭い病室の中で過ごすしかないけれど、病室の中でも本を読んで知識をためたり、ネットや電話でいろいろと下準備もしている。やろうと思えば、たいていのことはどこでもできた。

「…………」


皮肉……なのだろう。

生きていたころよりも、ランとして――ゴーストとして生まれ変わってからの方が、必死に生きている――というのは。

その目的が復讐であることは、仕方のないことだけど。

「……初雪」


初雪というのは仮の名前だ。そして、ランというのも、うその名前。

私は血のつながらない……どころか、お互いに生身で会ったことさえなく、本当の名前で呼び合うこともない家族の名前を呟いた。

「……っ」

つぶやいてしまったのは、気のゆるみによるもの。


私は、変だ。復讐を誓いながら、その為の努力を惜しまず続けながら、それでもどこかで初雪のことを心配してる。できれば、この偽の家族関係が本物に……

「ううん!」

私は大きく首を振ると、浮かびかけた甘い考えを振り払った。

本当に、そうできたのならどれだけ素敵だろう?


けれど、無理だ。私は出会ってからずっと、初雪を裏切り続けているのだから。初雪が許すはずがない。

喩え許したとして、本当の家族になんてなれるはずがない!

「っ」

大きく首を振って視界に飛び込んできたのは、私と同じくらいの大きさの立て鏡だ。


そこには私のすべてが映し出されて――私は思わず顔をそむけた。

「……っ!」

復讐を忘れないためにそこに置いてある鏡には、醜くゆがんだ……ううん、歪んだというよりも、壊されてしまった私の顔がそこに映っていた。

見たくもない『それ』を見るたびに、こう思う。


――復讐を。

そのためになら、初雪を――大切な家族を、死者の世界へと誘い出す事も、厭ってはいけない。

ああ、けど、ゴーストになっても……私は初雪が大切なのだ。

もし、彼が望むのなら……誰かが、あるいはこの世界が、初雪を生者として生かそうとするのなら。

「……その時は、仕方がないよね」

どうあっても初雪一人では抜け出せないところに、ランの『死』で以て初雪を引きずりこむ。


私が初雪にする復讐への誘いはそこまで。

もう、『ラン』は初雪にとっては、かつて失った大切な人たちと同じ扱いになっている。

ランが居なくなれば、初雪は復讐を選ぶしかなくなる。

そのために、ゴーストチャイルドとして――私たちの王様として、いつしか自覚を持つだろう。


「初雪は、優しい子だもん」

きっと、それがいい方法じゃないとわかっていても、復讐を望むゴーストみんなと――そして失われた人たちのために、復讐を選ぶに違いない。

あの子は強くもないから、自分の為にも失われた大切な人たちに会いたいはずだろうし。

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