河野初雪と少女たち(3)
後日、反魂香――花の焼けたような香りのするお香――の匂いがする生徒がいると言う連絡を、初雪から受けた。
「なんですか。あまりこの電話は使わないようにしてくださいね」
カンテラの黒電話からの連絡に、私が最初に伝えた言葉はそれだった。
この電話を頻繁に利用すれば、カスガの者たちに無用な警戒をさせてしまいかねないからだ。
……それに、なにより、私自身が『私』の声で、初雪と会話をすることを、どうにも受け入れきれないでいたからだ。
だが、それも初雪の電話をかけてきた理由ですぐに切り替えた。
『反魂香をつけてるいる奴がいる』
「……あなたではなくて?」
初雪はゴーストたちを率いるために、その憑代となるために、常に反魂の香りを身に着けている。
反魂香は、人間にとって――いや、生者にとっての毒だ。会えなくなった人に会える、甘い毒。
生と死の境界をあいまいにさせ、一時死者の世界を見る。それも過ぎれば、死者の世界の住人となる。
『俺じゃない。うちの学園にいる、一般生徒だ』
「…………。そうですか。回収してください」
『簡単に言いやがるな……』
確かに簡単に言いすぎているが、白咲学園のことなら全部を初雪に任せた方がうまくいくはずだ。
それに、こちらはこちらで今は手が離せない。
……ああ、ついでに伝えておこう。
「そうだ。ついでに1つ、頼まれていただけますか」
『あ?』
怪訝そうな初雪の声。その怪訝――あるいは不審は、見事に的を射ている。
「近々この店に新入りが入ります」
『新入りだ? お前また……おかしなことをしてるんじゃないだろうな?』
また、という言葉に胸が裂かれる。
去年彼がこの店に来た時に、彼のもとにこの電話で、さまざまな事を伝えたのはほかならぬ私だ。
けれど、今回は違う――少しだけ。
「いやいや、去年とは違います。おかしなことといえばおかしなことに違いないですが、あなたが気にするようなことではありません。とにかく、その子のこと、くれぐれもよろしくお願いします」
――今回は私が網を張ったのではなく、勝手にあちらが私の籠の中に入ってきたのだ。
それを伝えるわけにもいかず、嘘をついてもおかしいことはすぐにわかるので嘘も言わず、お茶を濁して用件だけを伝える。
『よろしくって何だよ』
「しっかりと働けるよう、面倒を見てくれればいいのです」
『お――』
電話を切った。
言う必要のあることはもうない。
「……ふぅ」
『彼女』をあそこへ送る手はずも、もうすぐに整う。
『彼女』は、居てくれれば利用できるが、居なくてもやることには変わらない。
「……あちらはどう動くでしょう?」
彼女は……あの『お姫様』は、カスガにとって――カスガを利用する者たちにとって――は重要なはず。
そんな彼女がなぜ彼らの手を離れたのかは知らないが、理由があってのことだろう。
「これを機に、よりうまく事が運べるといいですけど……」
もし内部分裂でも起きているのだとしたら、私たちの目的の『障害』が脆くなっていることになる。
やすやすと彼女を手放す理由はなかった。