俺はもう春に至れなくていい(1)
三年生――最後の学校生活は、去年、一昨年とはあまり変わらず――けれどどこか違って、過ぎていく。
一昨年にはまだ、私がいた。コノハサクヤが来るまでは。
そして冬にランが討たれ、初雪はよりどころを失った。去年の最後に、よりどころを手に入れた。
復讐を決めた初雪は、ランがいないこの町で、やはり怖がられながら生活していた。
「……ケッ」
『!?』
携帯を覗いた初雪が、不機嫌そうに舌打ちをする。
それだけで周りはそこがライオンの巣のそばだと思いだしたウサギのような怯えようで、彼を凝視した。
「……ちっ」
その視線が気に入らなかったのだろう。
初雪はそのまま教室を出ていき、教室にはどこか安堵の空気が広がった。
『ったくあいつは、なんで学校に来てやがるんだ?』
『どうせ卒業とか無理だろ?』
『というか、あいつがいると怖くて勉強に手がつかなくて、こっちが卒業あぶねえよ』
『言えてる! ……教師もさっさ退学させりゃいいのに!』
『どうせ教師の弱みでも握ってんだろ』
『うわ、サイテー!』
……初雪がいなくなった途端、彼の悪口が一時の風のように教室を満たした。
当然、初雪はそんな悪口を聞いていない。
聞いていたとしても、さして気に留めなかっただろう。
気に留めずに、ただ一人で――居場所がないことを傷つくだけだ。
『……また、来栖先生のところみたいですね』
その初雪はというと、生徒指導係の教師がいる方へと向かっていた。
去年のバレンタインで、学校を救うために暴力をふるった結果、学校内での立場は危ぶまれ、退学免除の代わりに生徒指導係の小間使いをさせられているからだ。
春が過ぎ、夏を超え、秋を楽しむこともなく――初雪は学校生活最後の年を過ごしていた。