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銀の薔薇に祈る  作者: 新田 葉月
お茶の時間
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第五話 出会い

 キシとゆっくりお茶の時間をすごし、早速絵に取りかかる。

 このまえ印をつけておいた場所に座り、画材道具を取り出す。キシが特殊な魔道具を使って隠しておいてくれているのでわざわざ持ってくる必要がなく、色を塗るときは楽だ。

 ティーリアは大抵描き直し可能な油絵が好きなのだがこの絵は水彩画にする予定だ。自分で、空を広くとっているときは水彩画にすると決めている。空を描く場合は澄みきった印象を与える水彩画が好きで山をメインに描くときは壮大さがでるので油絵が好きだ。いろんな画法を使って描くのも醍醐味である。

 

「できたっ!」


 出来上がった絵を眺める。狙い通りに綺麗な空が描けている。


「おや、姫さん。上手く出来てるじゃないか」

「ニオミル?」

 上位精霊のニオミルに話しかけられて驚いた。彼女はティーリアと《契約》を結んでいる。しかし、なにか用事があるとき以外は滅多に姿を現さない。

「珍しいね。どうしたの?」

「たまには愛しの姫に会いに来ようかと思ってね。でももう行くよ」

 ニオミルの喋り方は人間と同じで他の精霊のように頭に直接響くような声ではない。

 一声かけてすぐにニオミルは行ってしまった。

「せっかく来たんだからもっと話したかったのに……」

 ニオミルは力の強い精霊で昔は精霊のほとんどいないルロニアにもやってきていた。幼い頃のレディアを知る人物なのでもっと話したかったのだが……残念だ。

 

『姫様、わたしが、話すする!!』

「わっ」

 元気いっぱいといった感じで精霊が後ろから抱きついてきた。他の精霊たちもティーリアを取り囲む。

『それ違うの! 話すなの! 話すするじゃないの』

 生まれて間もない下位の精霊に正しい言葉を教えるのは上のものの務めだ。さっそく他の精霊から訂正が入る。

『どうちがう?』

『それは、えっと……』

 口をはさんだ精霊は分からなかったのか視線でティーリアに助けを求める。

「今度教えてあげるね」

『このの、いつ?』

 下位の精霊がまわらない舌で必死に聞いてくる。

「そうね」

 ティーリアは柔らかく微笑みながら視線を上に動かし、その瞬間凍りついた。 


「なんで、ここに人が……」


 視界の端に貴族の格好をした人物を認識し、一瞬で軽いパニックに陥った。慌てて立ち上がり、礼の姿勢をとる。

「も、申し訳ございません!」

 礼をとるのが遅れてしまった。じわりと汗が滲む。ロードニスはあまり下の身分の人を大切にしないものが多い。礼の姿勢が遅れただけでも鞭打たれることもある。ティーリアが侍女だったらまだしも今は女中の格好だ。 

 精霊達はティーリアの怯えを敏感に感じ取り、警戒するようにティーリアの前に立ちふさがった。

『彼女になにをするつもりだ』

 精霊が威圧を込めて睨みつける。

(ありがとう。でもいいの。大丈夫だから)

 気付かなかった自分が悪いのだ。自分でしたことは自分でけじめをつけなくてはならない。そういうと精霊は不服そうに消えた。


「……なぜ、謝る」

「へ?」

 聞こえてきた予想外の声に思わず顔を上げた。

(太陽……)

 心の中で呟く。

 そんな言葉が似合うような青年がそこにはいた。背が高く、男らしく端正な顔立ちをしている。太陽の光で薄い茶髪が透けた。濃い緑の瞳が疑問の光を浮かべている。一瞬見とれていたティーリアは慌てて頭を下げて答える。

「礼をとるのが遅れてしまい大変不快な思いをさせてしまったので」

「……なるほど」

 青年は納得して頷いた。

(あれ……、この声最近どこかで)

「気にしなくて良い」

 淡々とした様子だったが怒ってはいないのだろう。少しだけ緊張が解けた。青年は辺りを見回す。

「甘い匂いがするな」

「も、申し訳ございません。不快でしたか」

 甘い物が苦手で匂いすらも駄目という男性は多い。

「いや、良い匂いだ」

 ふっと柔らかな笑みをみせたのでティーリアは驚いた。甘いものが好きなのだろうか。珍しい。

「えっと、もしよろしければ……」

 ちょうど今日はラッピングを施したお菓子があったのでそれを差し出す。青年は無言になってジッと見つめた。

(違ったのかな? ……あっ!)

 ティーリアは気付いてまたも焦る。

「あ、ぁあのっ! 毒は入っていません! ではなくて、申し訳ありません! 食べませんよねこんなの!」

「――くっ」

 慌てて戻そうとしたらなぜか笑われた。 

「謝ってばかりだな」

「は、はい! 申し訳ございません」

 さらに、くくくっと楽しそうに笑われてなんとなく恥ずかしくなる。

「もらっていいか」

「こんなものでよろしければどうぞ」

 差し出すと鍛えられた堅い手が一瞬だけふれた。


「ここで何を?」

「絵を描いていました」

 青年の視線がキャンパスに向く。

「……上手い絵だな」

「も、もったいないお言葉をありがとうございます」

 青年はこくりと頷きそのまま立ち去っていった。


「……女中をほめるなんて。変わった方」


 一番変わっているのは王国の公爵令嬢でありながら女中の格好をし、完全に女中の気分でいるティーリアなのだが、本人は気付いていない。



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