第二十四話 王宮会議※
あけましておめでとうございます。遅くなってしまい、申し訳ありません。
明日と明後日も投稿予定です!
三人称フィルライン視点です。
「遅い」
不機嫌を隠そうとしないハロルドが入った瞬間声をかけてきた。パシェは心なし眠そうだ。
「すまん」
「昨日の報告は?」
「侵入者の形跡はなく、異常も見あたらなかった。昨晩帰れなかったのは暗闇で怯えていた令嬢を発見して、……色々あってつい眠ってしまったからだ」
「…………一応聞くが、その令嬢。イレーネじゃないだろうな?」
「当たり前だ」
顔をしかめて尋ねてくるハロルドを一蹴した。もし、イレーネだったらハロルドを呼ぶに決まっている。
「ねぇねぇ、その令嬢って誰だったのー?」
「ティーリア・ダウスだ」
二人が同時に目を見開いた。
何故か距離を詰めてくるハロルドの瞳には好奇の色を浮かんでいる。
「ほう、件の噂の絶えない美貌の令嬢と夜に、ねぇ。どうだった?」
「ああ。彼女自身には害はない事がわかった」
「ええー? フィル、嘘でしょ?」
「……お前はそういう奴だったな」
あからさまに呆れられる。そんな態度をされる理由が分からず眉を上げた。
「まぁ、いい。にしても……しくじったな。フィルの方が何もないとなるとアーレンの目的は俺と二人になることだったと考えた方がいいな」
「なにかあったのか?」
「悪い。鎌かけられたみたいだ。……後宮に大切な人がいるということに気が付かれた」
「なん、だと」
ゾワッと全身の毛が逆立ち、汗が吹き出てきた。ようやくハロルドが立ち直りかけてきたというのに。また大切な人を失ってしまったら、ハロルドは今度こそ立ち直れないだろう。
パシェがそんなフィルラインの背中を軽くたたいた。鎧を付けているため、がしゃんと音が鳴る。
「鎌かけてきたってことはまだイレーネとはわかったわけじゃなさそうだね」
「あぁ。だが安心は出来ない。……イレーネはなんとしても守り抜く」
動揺したフィルラインとは対照的にハロルドは強気に笑う。これなら大丈夫そうだ。安堵が胸に広がる。
「それで?」
今日こんな早くに呼び出したのはただの報告の為じゃないだろう、と意味を視線に込めた。
「パシェが会議の前に話しておきたいことがあるそうだ」
「うん。昨日アーレンと接して私が気が付いたこと、今後の対策について話すね」
「頼む」
頷くとパシェは話し出した。
「私は強大な魔力を感じて儀式の場にやってきたんだ」
確かにパシェには儀式の日付を遅れて伝えさせた。
誰かに聞いたのではなくて自ら気が付いたのだということなら納得できる。そもそも対策は取っていたものの端からパシェに気が付かれず儀式が終わることはないだろうと覚悟はしていたのだ。
まさか当日のあの瞬間まで気が付かれないとは思っていなかったから期待してしまっていたが。
「最初は強大すぎる魔力に魔眼が反応仕切れなくてどこが発生源かは分からなかった。けれど……魔術師の一人が、まあアーレンだけど、全身に魔力を纏ったんだよね。私が魔眼持ちと知っていたから警戒されていたみたい。視ることに関しては自信あったのになぁ。全然視えなかった」
大陸でも有数の、視覚に特化した魔眼持ちのパシェにこうまで言わせるとは、余程の脅威だ。
しかし、パシェは「でもそれってさ」と言葉を区切ってにんまり微笑む。
「彼になんらかの隠したい事情があるって事だよね?」
「……なるほど。それが分かれば取引ができるな」
ハロルドも腕を組み、黒い笑みを浮かべる。
「警戒されっぱなしじゃどうしようもないなと思って、怒らせる様な事を言ってみたり、倒れたフリをして油断させようと思ったんだけど、普段の行いのせいで止められちゃったね!」
あれは作戦だったのか。流石に空気が読めなさすぎるとは感じていた。
「理解してやれなくて悪かった」
「いいって。私も魔力に気圧されててね、サインとか送れなかったし。普段の行いのせいでもあるしさ」
パチッと器用に片目を閉じる。普段は道化のような振舞いをするが、仕事に私情を挟まない人間なのでこういう場面では頼りになる。
「で、それを考えての対策ね。先ず今日は私が話し相手になる。ま、疲れているからそんな機会もないかもしれないけど」
「あぁ、迷惑をかけるが頼む」
「儀式魔術について語りたいしね!!」
理知的な光を宿していた瞳が爛々と輝き始めたのを見て苦笑を零す。
「明日は城の案内。私とフィルで行こう」
「俺もか?」
「うん。私、城でもまだ迷うし」
「……そうだったな」
パシェは地図も読めないド酷い方向音痴だ。城で過ごした時間の方が長いというのにたまに迷って、部下が探しまわっているのだ。城案内などできるはずもなかった。
「方向感覚を正す魔道具でも開発するべきだな」
「おっ、いいこと言うね! 実は今製作途中なんだよまずは本人の魔力を認識させることから始まったんだけどこれがどうにも上手くいかなくていや王族しか使えない扉にかかる魔術の原理を利用したらすぐ出来るかと思ったんだけどね家族とかがいると混じ」
「説明はいらん」
「えー。まだ話足りないのにぃ」
「ともかく明日だな。午後なら空いている」
「じゃあ、私とフィルは明日の事について話し合おう。あと、ハロルド。疲れているようだからイレーネと疲れを癒してきてねー。目の下の隈ひどいぞ!」
パシェはぐっと親指をたてる。その気遣いにハロルドは口の端に笑みを浮かべた。
……ん?
よく見るとハロルドの右頬に引っ掻き傷がある。
「ハロルド。それ、どうしたんだ?」
「…………なんでもねぇよ」
目に見えてハロルドが不機嫌になった。この質問は地雷らしい。
「あー、それねー、イレーネにされたんだよ」
「……何をしたんだ」
「何もしてねぇよ!」
「ハロルドったら送り狼は駄目だよっていったのにねぇ?」
「お前は話をややこしくするな!」
ハロルドが声を荒げる。ふぅっと息をつくと不服そうな目でフィルラインを見た。
「本当に何もしてねぇからな」
どうやら、誤解を解くために話してくれるらしい。
「昨日帰る途中でイレーネに会ったっつっただろ? パシェの治癒魔術をみて目をキラキラさせたイレーネ……すげー可愛かったんだよ」
「……」
無言の抗議に気づいたのかハロルドは目をそらした。
「それで、後宮まで送ってく途中で魔術をみせてやったんだよ。そしたら、予想以上に大きかったらしく驚いて俺にしがみついたんだ。まぁ、必然的に距離は近くなるわな、それで―――」
「近い! ってひっぱたかれたんだよー」
確かにハロルドは悪くないような気がする。
「勿論、我に返ったら謝ったからな」
何故か偉そうにハロルドがふんっと鼻をならした。そして悪い顔でにやりと笑う。
「でも、代償は貰わなきゃな?」
(逃げろ。イレーネ・ミラー)
楽しそうなハロルドは何をするつもりなのか。うっかり同情してしまった。




