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銀の薔薇に祈る  作者: 新田 葉月
お茶の時間
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第二十話 お礼は甘いお菓子


 鍵がしっかりとかかったことを確認してからずるずると床に座り込んだ。

 顔から火が出るほど恥ずかしい。フィルラインの台詞で気が付いたが、フィルラインがティーリアを運んでくれたということは、つまりティーリアの体重を直に感じたというわけで―――


「ううー……」


 キシや精霊によく抱えられるから、慣れて失念していた。軽いといってくれたが軽いわけがない。しかも、眠っていたティーリアに付き合わせて長居させてしまった上に、燭台まで借りてしまった。なんとお礼を言ったらいいか分からない。


「……寝よう」


 現実から目を背けて呟く。ぽすんとベットに倒れこんだ。

 先ほどより明るいとは言え薄暗い部屋。苦手な一人の時間。

 だがそれよりも羞恥が勝ってしまっている。有難いような、有難くないような絶妙な気分だ。


「お礼、考えなきゃ」


 ここまで迷惑をかけたフィルラインにまさか何もしないわけにはいかない。何を渡そうか、考えながらゆったりと訪れる眠気に身を任せた。




 朝の弱いティーリアにしては珍しく早く目を覚ました。目覚めも悪くない。

 窓辺に訪れる小鳥に餌をやりつつ、昨夜の考え事を再開させる。

 フィルラインの好きなものと言えばお菓子だ。だが、彼は甘味と限定すればかなり鋭い味覚の持ち主だ。お礼にもっていったお菓子のせいでティーリアがティリーとバレたら困る。後宮の管理も任されていると聞いたし、見逃してはくれないだろう。

 せっかくならフィルラインが一番喜んでくれる物をあげたいのだが……。


「外には買いに行けないしなぁ……」


 そう悩んでいると不意に頭のもやが消えた。結界がとけたのだ。そう分かったので、足に力を入れて衝撃に備える。


『ひめさあ!』

「わっ」


 姫様! と呼ぶ声、同時に背後から衝撃が襲った。備えていたからそれほどでも無いが、備えていなかったら多分倒れてしまっていたと思う。そんなことには事には気が付かない精霊がぎゅうぎゅうとティーリアを抱きしめる。


『姫様、ご無事でしたか!?』

『こあかったねー』

『だいじょぶ?』

『よちよち』


 精霊達が次々と声をかけてきてくれた。

 特に光の精霊達は昨日途中で消えてしまったから心配してくれたのだろう。滅多に姿を現さない光の上位精霊のニオミルまでやってきてくれている。

 精霊達はくるくるとティーリアの周りを心配げに回る。小さな精霊は顔に貼りつく勢いだ。怖かったね、大丈夫? よしよし、と口にしているので慰めてくれているのは分かるが、息がしづらい。


「ありがとう。大丈夫だったよ」

『しかし、姫様は暗闇が……』

「この首飾りが光ってくれてあまり怖くなかったよ。それに燭台も貸してもらったし」


 レディアがくれたこの首飾りがティーリアを助けてくれた。いつもいつもそうだ。レディアはいつだってティーリアを助けてくれる。

 フィルラインにも助けられたが、もしこの首飾りが光ってくれなければ、外に出て見つけてもらうことすらできなかった。過呼吸を起こして倒れてしまっていたかもしれない。


「それなら良かったんだけど、悪かったねぇ姫さん」

「ニオミルは悪くないよ。忘れちゃってたのは私だし」

「いや、あたしも悪いんだ。儀式があるのは覚えちゃいたんだよ。ただ最近姫さんの夜更かしがひどいからちょっと暗くしてお灸を据えてやろうかと思ってね」

「えっ! ひどい……! ほ、本当に怖ったのに」

『におみるのおに!』

『いじわる』

『きちく』


 ティーリアがどれほど暗闇が苦手か知っているはずなのに。あんまりだ。涙目で見上げると、小さな光精霊たちも援護してくれた。


「だから悪いって言ってるだろう。本当はすぐに姿を現す予定だったんだよ。軽い結界くらいすり抜けられるからって慢心してた。入れないのは予想外だったね。今回の儀式、相当の実力者が担当してたみたいで弾かれちまったよ」


 驚いた。ニオミルは上位の中でも古参、かなり力の強い精霊だ。精霊語ではなく大陸語も操れるし、退魔の結界が張られているルロニアにも出入りしていた。ニオミルが弾かれるなんて。そんな人がいるのか、とさえ思ってしまう。精霊を倒せるキシとどちらが強いのだろう。


「すごい人なんだね」

「ああ、気に入ったからちょっと話しかけてみようかねぇ」

「迷惑はかけちゃ駄目だよ?」

「分かってるさ」


 ニオミルは鷹揚に頷くが本当に分かっているのかは怪しい。


『ともかく。ニオミルの行いも問題ですが、姫様も反省なさってくださいね』


 ニオミルとの会話が終わったのを見計らってミヤナが話しかけてきた。


『ニオミルが言ったように最近の姫様の夜更かしは、目に余るものがあります。忠告しても聞いて下さりませんでしたね?』

「うう、ごめんなさい。でも小説の続きが気になってしまって朝まで待てないんだもん」


 イレーネという本に造詣が深い友人ができたおかげで、ティーリアの読書量は増えた。彼女が推薦する本はどれも面白いのだ。ついつい止め時を失ってしまっている。


『次夜更かしをするようなことがあれば、本を貸さないようにイレーネに言いますよ』

「はぁい。時間を守って読みます……」


 本を取り上げられるのは困る。読むのも楽しいが読んだ後、イレーネとお茶会をして感想を語り合うのも楽しいのだ。二つも楽しみが減ってしまう。

 宣言すると、ミヤナはよろしい、と頷いてくれた。真面目な彼女なら、本当に実行に移してしまうとわかるので気を付けなくては。


「あ、そういえば相談があるんだけど……」


 そう切り出すと、精霊たちがティーリアの周りを取り囲んだ。……こんなに大人数で話すものでもないのだが。

 期待させるようなことはないよ、と前置きして昨日あったことを話した。


「それで、フィルライン様にお礼がしたいんだけど、どうすればいいかな?」

『決まっていますわ! 姫様! プレゼントはわ・た「馬鹿なこと言ってんじゃないよ」


 何かを言いかけた水精霊をニオミルが小突いた。


「綿?」

『なんでもありませんわ』

『姫様はお気になさらないで』


 ほほほと精霊たちが笑う。何か言いかけた水精霊を他の精霊たちが連れ去り、ニオミルと水の中位精霊のユエだけが残った。


「姫さまぁー。ユエはー、生菓子にしたら良いんじゃないかと思いますわぁー」

「それいい! 焼き菓子と生菓子はだいぶ違うものね! それにティリーでは作る機会もないだろうし」


 流石、センスのいい水精霊だ。ゼリーならまだ持ち運びが可能だしある程度は保つから作れるが、クリームをたっぷり使った物は多分無理だ。

(よし、クリームたっぷり使ったケーキにしよう)

 あまり日持ちしないフルーツをふんだんに使うのもいいかもしれない。ティリーとして作るときは日持ちする事を念頭に置いて作るが今回は味と見た目重視だ。

 飴細工などで飾ってもいいかもしれない。最近は作ってなかったから上手くできるかは心配だが。

 思い浮かんだことをさっとメモにとって完成の予想図をかいた。


「せっかくだからラッピングも凝った可愛いものがいいよね」

「ラッピングでしたらぁ、ユエもお手伝いしますわ」

「わぁ、本当? ユエはセンスがいいから助かるわ」


 しかし、そう考えると割と出費がかさむ。お菓子作りやその他の趣味は支給されるお金からしているから限りがあるのだ。

(……これは出費を抑えなきゃいけないなぁ)

 本当は使っている色で、切れそうなものがあるからそれも買いたいのだが、しばらくは我慢しなくては。

 新たにお金が支給されるまでのやりくりを頭の中で計算しつつ、今まで自分が如何にお金を使っていたかを実感してつい溜息が出た。


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