プロローグ
「銀の光につつまれて」の改稿版となります。お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
ごうごうと、火が燃え盛る音が聞こえる。
「ティー、魔法をかけてあげる。とっておきの魔法だよ」
姉は震える少女を抱きしめるのをやめ身を離した。そっと手が少女の頬にふれ、淡く光り、不思議な感覚が身体に走る。
「おねえ、ちゃん……?」
「ごめんね。怖い思いをさせる。けどきっとその首飾りがきっと貴方を守ってくれるから」
困惑する少女に微笑み、姉は扉へ手をかけた。そこで初めて少女は銀製の冷たい感覚が首筋にあることに気がついた。飾りに部分に触れると、薔薇の形をしていることが分かる。
……それは、姉の首にかけられていたものだ。どうしてそれがここに……?
思考を遮るようにガシャリと鍵のかかる音がした。中は暗闇に支配される。
「幸せになるのよ、ティー」
扉ごしに大好きな姉の声がする。
立ち上がって追いかけようとするのに、足が固まったように動かない。
「やぁっ、いか、ないで……!」
嗚咽をこらえ少女は必死に言葉を口にした。訳も分からなくただ怖くて、不安だった。
「…………私は、いつだってティーのそばにいるよ。だから少しだけ待っていて。すぐに戻るよ」
長い沈黙のあと、姉はそう答えてくれた。
「っぅ、く。……や、やくそく、だよ」
「うん。やくそく」
少女はその言葉に安心して、すこし落ち着いた。足音が離れる。
「だいじょうぶ」
不安に押し殺されそうな心に言い聞かせる。
「……だいじょうぶ、だもん」
姉が今までに約束を破ったことはない。だからきっと今度もそうだ。
けれど。いつまでたっても姉は帰ってこなかった。