print(episode1[邂逅]);
ああ、こうして出会えたことに最大の感謝を。
幾年の月日を越えてようやく「あの事件」の真相について語る時がやってまいりました。
私、半ば諦めかけていましたの。
お時間は取らせませんので…と言いたいところですが、生憎容易く語り尽くせるものではありません。
そして、語り終えてそれが最善の道であるかどうかも存じ上げません。
貴方様がそれでもこの話に付き合って頂けるなら、その覚悟がおありなら…私に辿り着いたのなら既に聞くだけ無駄な気も致しますが…私、この身体に記し留めたあの時の仔細を詳らかにお話しさせて頂きますわ。
宜しいのですね、嬉しゅうございますわ。では、まず私の…ん?何か?
……「あの事件」とは?
野暮な事をお聞きになるのですね。
……「ほかにも事件は沢山あったから、どの事件かはっきりさせたい」、成程。
貴方様の追っているものに辿り着いた確証を得たい、と。
私がお話しいたしますのは、今から八年前に発生いたしまして現在に至るまで解決に至っていない、
「悪意ある意思のプログラム事件」にございます。如何です、「ジャストミート」でございましょう?
…まだ何か?「不届き者の悪戯の可能性を排除したい」
注文の多い…いえ、仕方ありませんわね。それでは詳細に事件の解説をさせて頂きますので、それでご満足いただけるかと。
八年前から現在に至るまで続く「悪意ある意思のプログラム事件」。突如一部のプログラムが自己意識を持ち、他のプログラムの妨害活動を開始した事件ですわ。始めは投稿サイトの意図しない投稿といった可愛いものでしたが次第に規模が大きくなり、航空機の管制や金融、果ては軍防衛システムにも侵入して暴れまわり、現実世界にも大きな障害が発生いたしました。各国軍のサイバー部隊が当初から駆除に当たっり、さらに現在は民間企業からも対悪意ある意思のプログラム用プログラムが提供されており大きな影響は抑えられてきたものの、発生源が特定できておらず根本的な解決には至っていません。
ここまではすでに公表されている部分ですわ。
「悪意ある意思のプログラム」は既存のプログラムに「悪意」を植え付けるプログラムが書き加えられ発生します。ただ悪事を働くだけなら駆除も容易いですが、中には自己のプログラムを書き換えて外部からの介入に対抗するモノもありました。それに対抗するには大規模な部隊を編制しなければいけない。対抗手段を結集している間にまた新しい強大な悪意プログラムが発生してしまう。これの繰り返しでしたわ。
それが、民間企業のプログラマーが「単体で防衛プログラム戦を行いつつ悪意プログラムの消去・元のプログラムへの修復を行うプログラム」を開発しました。それによって大規模戦闘は自動、小規模なものは人の手で行う形でしばらく行われていました。あまりこの事件が騒がれなくなった四、五年前あたりの頃ですわ。
しかし順調にいかないものですわ。このプログラムの開発者はそれを複製させようとせず、自分の元でしか運用させなかった。その恨み…もしくは妬みを買ってか、自分の研究室に監禁されそのまま死亡。唯一にて最大の対悪意プログラム用プログラムは運用できなくなり、未だ悪意ある意思のプログラムとの戦いは終わっていない、という話も御座いますの。おそらく行政機関により隠匿された部分ですわね。
如何でしょう、信用に値すると判断いただけるかしら?
あらやだ、驚いたお顔なさって。こんな話はまだ序の口ですわ。それにこの話が真実であると私、申し上げておりませんわよ。
……「真実は当事者に尋ねるしかない」、分かりましたわ。貴方様が私を信用してくだっさったからには、私は真実のみを語りますわ。
それでは、改めて。
私は、「対悪意ある意思のプログラム戦闘用プログラムプロトタイプ」、単体で防衛プログラム戦を行いつつ悪意プログラムの消去・元のプログラムへの修復を行うプログラム…便宜的に「イシス」と呼ばれておりましたわ。
次回投稿未定です