昼休み
昼休み。
理香は約束の時間にサーキットに着いた。
八王子は小さい箒を手にして、すでに待っていた。
「おう、昨日はお疲れさん。さっそくだが中に入ろう。」
八王子が門を開け中に入り、観客席の下を通り抜けるとピットまで来た。
「ここがピットと呼ばれる、メンテやセッティングをする場所だ。まぁ、箒だからパソコンでセッティングするのが主になるかな。バイクだと色々とやらなければならない場所は結構あるのだがな。鴨居は、ここを使ってくれ。必要な物品は一通りあるはずだ。」
と、ピット出口付近の場所を貸してもらえた。
「時間がもったいないから、サーキットを行こう。」
八王子は率先して、ピットロードを歩きサーキットに入った。
「うわーーーっ、広ーーーい。」
合流地点から眺めは、左手にメインストレート、目の前は緩やか1コーナーから下りになり、直角の2コーナーが見えた。
「初めてのサーキットは感動するだろ?全長520m、このメインストレートは180m、富士スピードウェイをモチーフに初代の理事長がデザインしたんだ。だから、2コーナーから先はテクニカルゾーンになっている。まぁ、右ではなく左回りなんだが。」
と、笑みを浮かべながら言った。
「へぇー。」
理香は知らなかったので、そう返事するしかなかった。
「パッシングポイントは2コーナーだな。1コーナーが緩やかでストレートのスピードがほとんど落ちないのに、そのまま下りになって落ちたスピードがすぐに戻り、ただでさえ止まりにくい下りなのにトップスピードからフルブレーキしなければならない。技術も度胸も必要なコーナーだ。」
「怖いですね。私に出来るのかな・・・。」
「そこはそんなに心配しなくて良いと思う。遅れたが、こいつが鴨居の相棒になる箒だ。」
手に持った箒を理香に渡した。
「軽い・・・。」
長さは1mくらい、重さは1kgもないと思われた。
「その軽さこそ、このレースの肝になる。レースでは軽さは最大の武器だ。止まる距離、加速のするどさ、コーナリングスピード、すべてにおいて有利に働く。当日、輪のNSRに合わせて馬力を調整する。って言っても、販売当時7.2psだったから、そうなるだろうな。だから練習ではそうセッティングしてくれ。」
「わかりました。けど、まだ初心者だし、サーキットは初めてで全然わからないんですが、どう練習していけばよいのですか?」
「そうだな・・・。」
少し首を捻りアゴに手をやり、考えるそぶりをみせた。
「まず、今日は今この時間を使ってサーキットをくまなく歩いてくれ。まずは体でサーキットを感じるんだ。肝心のテクニックだが、それは橋本先生に任せるから訊いてくれ。俺は箒に関しては素人だからな。あと練習にはコツがある。って言ってもレースだけではなく何でもそうだと思うのだが。」
「さっきも言ったが時間がもったいない。歩きながら説明しよう。」
そのまま1コーナーに向かって歩き出した。