Cheese7~Cheeseの刑~
委員会活動初日、わたし立川 華にとって悲惨な出来事が起こった。美化委員会の委員長、薄井 翔という、とてつもなく濃ゆい人と出会ってしまったこと。その人物に「チーズ同好会」という謎の活動に誘われてしまったのだが、あんな突拍子もない先輩にわざわざ会いに行く必要がどこにあるというのだろう。委員会が行われた翌日、わたしは放課後の教室で呆然としていた。
華「……」
閉まっていた教室の扉が開いたかと思うと、中に入ってきたのは玲だった。
玲「華! あれ、どうしたの? なんか元気ないみたいだけど」
華「――逃げよ」
玲「え?」
華「うん! 逃げるが勝ちだっ! 玲、帰ろう!?」
玲「あ、ごめん。あたしこれから柔道部いかなきゃ」
華「そっ、そっか……」
玲「ん〜」
玲はわたしの少し前を歩いて背伸びをしたかと思うと、すぐに向き直って微笑んだ。
玲「サボろっかな!」
華「えぇ!? でっ、でも……」
玲「なんだかよくわかんないけど華が困ってる時は助けないとね! 友達として!」
華「玲! ありがとう!! それじゃあ、今すぐ学校から出て帰ろう!?」
玲「待った! せっかく部活サボって帰るんだし、ちょっと寄り道してかない?」
華「寄り道?」
玲「そっ! 学校の近くにあるコーヒーカフェなんだけど、いい?」
華「うん!」
その頃、写真部室では薄井と野高が「チーズ同好会(仮)」の活動初日を迎えていた。
薄井「なぜだ!? なぜ花子は来ない!?」
野高「いい加減諦めろよ。それに、チーズ同好会に入りたいと思う人なんてこの世にいないんじゃないかな」
薄井「約束したんだぞ? 花子と!」
野高「それはお前が勝手に言ったことで約束したわけじゃ……」
薄井「――許さん」
野高「はい?」
薄井「この僕との約束をすっぽかしたあのボンボリ娘花子っ! 絶対に許すかぁぁぁぁぁ!!」
野高「だから約束はしてないと思うよ?」
薄井「見つけだして、あぶり出して、そして――Cheeseの刑だっ! いくぞっ!! メダカ!」
野高「行くって何処に?」
薄井「君もわかりきったことを聞くね? 逃亡者ボンボリ花子をとっ捕まえに行くのだよ」
野高「なっ、なんでそうなる!?」
薄井「いいから僕に続けぇぇ! メダカくん!」
そう言って、薄井翔は写真部室から飛び出していった。
野高「なんであんなに自分勝手なんだ??」
薄井先輩と野高先輩がわたしを探し回っているとは夢にも思わず、学校から出て玲とコーヒーカフェに訪れた。店の前に出ている看板には可愛らしいコーヒーとケーキの絵が描かれていて、お店自体は木造で隠れ家のような雰囲気を醸し出していた。
玲「ここ、ここ! 意外とオシャレなところでしょ?」
華「うんっ! すごくイイ感じ!」
玲「中も結構イケてるんだな〜♪ これが!」
お店の中に入ると、扉に付いていた小さな鐘の音が鳴った。お客さんが誰もいない代わりにカウンターには黒いエプロンに黒いバンダナを頭に巻き、耳にピアスをたくさん付けている赤茶色をした髪の男の人が1人立っていた。
バンダナの男「いらっしゃ〜い。かわいいお2人さん」
バンダナのお兄さんはにっこりと笑ってカウンター席においでと手招きをしていた。
玲「でた〜! お客にお世辞!」
玲にもカウンター席に座るよう促されて、わたしはアンティーク調の椅子に座った。玲も隣に座ったところでバンダナのお兄さんがコップに入った水を2つ置いてくれた。
バンダナの男「あはは、ノンお世辞だよ〜? 玲ちゃんは本当に可愛いって!」
玲「はいはい、嘘! 嘘!」
華「そんなことない! この人の言う通り、玲はすごく可愛いよ!」
バンダナの男「ハハ! だよねぇ? ん? 君、見ない顔だけどここに来るのは初めて?」
カウンター越しからまじまじと見つめられ、頬が熱くなっていくのを感じた。わたしをコップを手に持ち、水を一口飲んでから言葉を発した。
華「はっ、ハイッ!! 初めて来ました!!」
玲「華、気をつけて〜? この人、来た子全員を口説こうとするナンパ師だから」
バンダナの男「こらこら、変なこと言わないように! あ、はじめまして。俺、ここでバイトしてる山田拓っていーます」
華「は、はじめまして。立川と申します!」
山田「プッ、武将っぺぇ〜!! 立川さん、面白いね。あ、俺のことは山さんって呼んで! みんなそう呼ぶし」
華「……や、山さん」
玲「そういえば山さん、今日マスター来てないんですか?」
山田「佐藤さん? 残念! 今日はお休みで〜す」
華「玲、佐藤さんって?」
玲「ここのマスターですんごい美人! 今日紹介できればって思って連れて来たんだけどなー。ホント残念!」
山田「なんだぁー。その子、俺に紹介するために連れて来たんじゃないの?」
玲「そんなわけないじゃないですか! 山さんだけだって分かってたらわざわざここに来ませんよ~」
山田「信用ねぇ~」
扉が開く音と共に鈴の音が鳴り響いた。お店に誰か来たんだと思い、気にせず玲に話しかけることにした。
華「マスターって女の人なんだ?」
玲「うん。びっくりするくらい超美人なの。でも最近婚約したって聞いたから色々忙しいのかもね」
華「へぇ〜! いいなぁ! 結婚するんだぁ」
突然、わたしのすぐ後方から吐息がかかった。
??「……なら僕と結婚でもするかい?」
びっくりしてすぐさま後ろを振り向くと、信じられない光景を目の当たりにしてしまった。薄井先輩と野高先輩が2人揃って立っていた。2人とも背が高くてまるで巨人のようです。
華「なななななっ!?」
薄井「みぃ〜つけたぁ〜!」
華「なっ、なんでここにーーー!?」
薄井「君を探し回りすぎて疲れたからここで休もうとしたら君がここに☆ まさに運命だな♪」
華(運命って!? そんなのヤダーーー!)
薄井「ま、無事に見つかったことだし、一先ず罰を受けいっ!!」
華「罰って……なんですかっ!?」
薄井「必殺ッッ――」
薄井先輩が肩に提げた鞄の中に手を突っ込み、妙な構えを決めている。嫌な予感しかしない。
野高「危ないッ!? 立川さん、よけて!!」
次の瞬間、わたしは野高先輩に押され、よろけたところを玲が受け止めてくれた。薄井先輩は鞄から何かを取り出したかと思うと、わたしの立っていた場所目掛けて猛突進していた。
薄井「Cheeseバズーカァァァァァーー!!」
野高「もげっ!?」
薄井先輩は手に持った何かを野高先輩の口の中へすっぽり入れてしまい、攻撃を受けた野高先輩は転倒した。謎の物体をよく見ると、チーズだった。しかも異様なほど大きい。
玲「うわっ」
山田「――悲惨」
華「野高先輩!? 大丈夫ですかーーー!?」
薄井「なぜメダカが罰を受けたのだ?」
野高「ぎもぢわるっ……い……」
野高先輩が白目を向いている。先輩が盾になってくれたおかげでわたしは助かったのだが、こんなことをわたしに対してやろうとしてたなんて、常識の域を越えている。知り合ったばかりの後輩にここまでしようと誰が考えるのか。身も凍る出来事だ。
薄井「花子ッ」
華「うわっはぁいっ!?」
薄井「チーズ同好会に入らなければ――君もメダカと同じめに遭うぞ?」
華「入ります! 入りますから許してくださいっっ!?」
薄井「フッ、最初からそう素直に言えばよいのだよ♪」
玲「チーズ同好会って、なんなの?」
山田「さぁ?」
わたし立川 華、本日「チーズ同好会」に強制入部させられてしまいました。そしていよいよこれから、チーズを巡る波瀾の学園生活の幕開けとなるのです。
〜Cheeseの刑〜 完