Cheese4~保健室~
鈴木くんと玲が喧嘩をしたその日の放課後、わたし立川 華は保健室に向かっていた。2人の怪我が心配で様子を見に行こうと思ったからだ。
華(2人とも大丈夫かな)
保健室の扉の前まで来た。すると、中から話し声が聞こえてきた。
男の声「イタタタタ……」
女の声「えーっと、2年A組の野高優くんね。確か昨日もお腹壊して保健室に来たわよねぇ?」
野高「はい。すいません。迷惑かけます、田中せんせっ……イタタタッ」
聞こえてくる話し声から、鈴木くんと玲の声は聞こえなかった。
華(どうしよう。誰か別の人が保健室にいるみたいだし、中に入りづらいな)
田中先生「まったく。顔はいいくせに身体は弱いのねぇー」
野高「は、はは。牛乳飲んだらお腹の具合がいつも悪くなるんですよ」
田中先生「なら飲まなきゃいいのに。で、どうするの? 薬飲んで少し休む?」
野高「はい、そのつもりで来ましたから。そうじゃなかったらすぐに帰ってますよ。田中先生」
田中先生「あぁ、もう放課後だしねぇ」
野高「俺よりマイペースですね。先生」
田中先生「そう?」
これじゃあまるで盗み聞きをしているみたいに思えてきたので、わたしは意を決して保健室の扉をゆっくり開けた。
華「しっ、失礼しますっ!」
田中先生「あら、どうしたの? あなたも腹痛?」
華「いっ、いえっ、わたしはそのっ」
野高「先生、決め付けるのはどうかと……」
田中先生「あら、ごめんなさいねぇ」
華「あのっ、ここに伊藤さんと鈴木くんっていう人が怪我をして来たと思うんですけど、居ますか?」
田中先生「あ〜、鈴木くんならそこのベッドで寝てるわよ?」
保健室の田中先生は部屋の奥にある右側のベッドの方角を指差して言った。
華「伊藤さんは?」
田中先生「伊藤さんは学年主任の寺島先生に呼ばれて出て行ったわよ」
華「怒られてるんですか?」
田中先生「いいえ〜? 寺島先生ったら伊藤さんのこと褒めてたわ。女のくせにてぇ〜したもんだ! ですって」
華「寺島先生って一体??」
野高「せ、せんせい……薬をくだっ……さい……」
側にいた先輩が苦しそうに手を伸ばして訴えていた。この人をどこかで見た気がするけど、どこだったっけ。
田中先生「あらやだっ! 野高くんの存在忘れてたわよ〜。あなた、もっと自分の存在をアピールしなさいよ」
野高「……」
華(なんだかあの先輩がとてつもなく可哀相に見えるのは気のせいだろうか)
その後、保健室を出ようと扉に手を掛けた時、奥にあるベッドのカーテンがゆっくりと開き、起き上がる鈴木くんの姿が見えた。
龍「立川」
華「ハイッ」
急に声を掛けられたことに驚き、姿勢を正してしまった。
龍「悪かったな。伊藤のこと傷つけちまって」
華「どうしてわたしに謝るの? 玲に謝ったほうが――」
龍「ばか。なんであいつにボコられた俺が謝んなきゃなんねぇーんだよ」
華「ご、ごめんなさい」
龍「おまえ、あいつの友達なんだろ? ダチ傷つけて悪かったって言ってんだよ」
華「鈴木くん……」
龍「用はそんだけだから、もう帰れば?」
華「うん。じゃあ、また明日」
今度こそ保健室から出ようとしたとき、さっきまで苦しんでいた先輩が鈴木くんの隣にある左側のベッドに腰をかけて、にっこりと微笑んでいた。
野高「鈴木くんって、結構優しいんだね」
龍「はぁ!!?? しらねぇ奴にそんなこと言われる筋合いはねぇっ!」
野高「あ、ご、ごめん」
華「………」
不良系(?)の鈴木くんとほんの少しだけ会話をした後、わたしは保健室を出た。そして、まっすぐ教室へ向かった。自分の鞄とそれから――玲の鞄を持って。
そして気がつくと走っていた。玲に会って話がしたかった。走って走って、やっとの思いで玲をみつけた。わたしは嬉しくて無我夢中で玲に駆け寄った。
あの時、わたしが玲に言いたかった言葉はたくさんあって、一言で表せないほどたくさんあって……
――だから、
玲「華?」
華「一緒に帰ろう」
帰り道、2人並んでみた夕日は、まぶしいほど綺麗だった。
〜保健室〜 完