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前篇

ゆっくりと意識が戻ってくる。


ぽこぽこと耳に響く水の音、目を開けると目の前に若い男が立っていた。

生暖かい液体が自分の周りからどんどん減っていく、くるりと見回す、ガラスの円筒の容器に自分は入っていたらしい。

足下の排水用の孔にすべての液体が消えて、低い音と共にガラスの円筒も床に沈み込んでいく。

どうしていいか分からず、そのまま立っていた。

目の前の男は優しそうに笑うと、手元にもっていた大きなタオルを開いた。

こっちにおいでと言うように頷いてくれる、恐る恐る足を踏みだして近付いた。


横から暖かい風が噴出してくる、ふわっとタオルに包み込まれ、優しい手が水分を拭ってくれる。

男は長い金色の髪は後ろで一つに結び、身体はほっそりとして奇麗な色の服を着ていた。

タオルを拭くために手を動かすたびに、手首に付けた金色のブレスレットがしゃらしゃらと音を立てる。


「私のことが分かる?」

頭の中に答えが浮かんでくる、間違っているのが怖くて、少し小さな声で答えた。

「マ、マスター?」

「そう、私があなたの持ち主だけど、マスターはいいわ、カミュと呼んで、」

「はい、カミュ様ですね。」

「カミュだけでいいよ、」

「はい、」

自分は人間に奉仕するために出来たアンドロイドだ、ご主人様を呼び捨てにしていいのだろうか、そんな疑問も浮かぶが、ご主人様の言うことは絶対だった。

でも、どこかで、、誰か、、、同じ言葉を、、、

「これを着なさい、」

アリアに服を手渡してから、近くの操作盤の前に立っていた男の方へ向かう、

「支払いはカードでいいか?」

「ええ、もちろんです、次のメンテもうちでお願いします。」

愛想よく笑う男にカードを手渡すのを見ながら、うまく動かない手で渡された服を着込んだ。

膝までのワンピースはシンプルでかわいい、うまく結べないリボンをご主人様が結んでくれた。

「やっぱり思った通りよく似合う、デザインしたかいがあった。さ、帰ろう、自分の名前を覚えてるか?」

自分の中に名前を探すように目を閉じる、アリア、自分の名前を呼ぶ誰かの声が聞こえた。

「アリア、、」

「そう、お前の名前はアリア、」

ご主人様のカミュが頷いた、うれしくてにっこり笑う。

「はい、私の名前はアリアです。」

ご主人様はその笑顔を見て笑ってくれた、アリアの心も暖かくなる。


ご主人の家は、繁華街から少し離れた静かな場所にあった、庭は広く2階建ての家、仕事に使うアトリエは町の中に別にあり、この家には自分の他にアンドロイドもロボットもいない。

人間と同じ有機物で出来たアンドロイドは、人間より時間は短いが休息を必要とする。

アリアは夜眠り、起きてご主人様のために食事を作る、コーヒーを入れ初めて、手を止めた。

違う、違う、ご主人様は紅茶だった。

カップに注がれたコーヒーを見つめる、どうして、私は、、

飲む者のいないコーヒーを流しに捨てようとして手が震える、涙が滲んできた、私は壊れているのかもしれない。


「ありがとう、美味い、」

入れ直した紅茶をご主人様は褒めてくれた、アンドロイドの自分にも、理不尽なことなどせず優しく接してくれる。

他の買主にはひどい人がいることは、テレビや何かで知識として知っていた、自分は幸せだと思う。

なのに、、どうして胸が苦しいのだろう、暗い部屋の中を手探りで歩くようなもどかしさはどこから来ているのだろう。


仕事に出るご主人様を見送って、食器を洗い、部屋の掃除をする、庭の手入れをして夕食の準備が済んだころには帰ってくる。

一緒に食事をして、別々に眠る毎日それの繰り返しだった。



大昔書いた小説の焼き直しです。てっきり消えてると思ったら見つかったので、名前等を変えて出してみました。

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