1,願い星
世の中は本当に腐っています。
そこには、どこにでもありふれた家庭がありました。
父親はおらず、片親ながらも幸せな家庭。
おおらかで優しくて、でも怒るとちょっぴり怖いお母さん。
私が歩き疲れたというと、微笑みながらおんぶをしてくれる大きいお姉ちゃん。
普段は意地悪だけど、私が眠れないと言うと一緒に布団に入ってくれる小さいお姉ちゃん。
決して裕福とは言えませんでしたが、とても幸せな家庭でした。
しかし、それはとても脆く儚い幸せでもあったのです。
ある日唐突に壊れてしまいました。
私たちの家庭も、それどころか私たちの住む小さな村も丸ごと。
平和な、鈴虫の鳴く秋の夜。
村に一つの悲鳴が響き渡りました。
鎧を着た怖い人たちが、突如として村を襲ってきたのです。
逃げ惑う村のみんな。
その様子はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図でした。
鎧の人たちは若い村人を捕らえ、老人は次々に殺していきます。
私は訳も分からない中、大きいお姉ちゃんに抱えられ、怖い人たちから家族みんなで逃げていました。
しかしお母さんの横で走っていた小さいお姉ちゃんがこけてしまいました。
お母さんは急いで小さいお姉ちゃんを抱えようとするも、二人とも怖い人たちに捕まってしまいます。
「逃げなさい!とにかく逃げて!●●●、ミストを頼んだわよ!....」
振り返り、お母さんと小さいお姉ちゃんの名を叫ぶ大きいお姉ちゃん。
お母さんは、そんなお姉ちゃんに懇願するように叫びました。
お姉ちゃんはその言葉に口を紡ぐと、無言で泣きながら走りだしました。
私は捕らえられるお母さんと小さいお姉ちゃんを見ながら、必死に二人の名を叫んでいました。
ですが、逃げるのもそう簡単ではありません。
必死に走るお姉ちゃんの足に矢が刺さってっしまったのです。
私に怪我をさせまいと、私を庇いながら倒れるお姉ちゃん。
起き上がろうとしますが上手く立つことも出来ず、またその場に倒れてしまいます。
するとお姉ちゃんは私の頭を軽くなで、こう言いました。
「逃げて....ミストの秘密基地........森に、あるでしょ....そこなら....大、丈夫だから........ミストだけは....どうか....生きて........愛してるよ....」
そう言って私のおでこにキスをするお姉ちゃん。
私は涙ぐむ目を擦り、一目散に駆け出しました。
後ろは振り返りません。
私は言いつけを守る良い子だと、前にお姉ちゃんが褒めてくれました。
だからこそ私は、お姉ちゃんが褒めてくれた良い子であるために、お姉ちゃんやお母さんの気持ちを裏切らないために、泣き出したい気持ちも、ごねたい心も抑えて、一生懸命に走りました。
森の秘密基地、森の秘密基地。
お母さんとお姉ちゃん二人が、私のために魔法まで使って造ってくれた大切な場所。
逃げて、逃げて、とにかく逃げて。
逃げてどうなるの?....わからない。
逃げてどうするの?....わからない。
私は村の近くにある森に入りました。
そして秘密基地のある、美味しい木の実のなる木の根元まで。
その木の広いうろの中が私の秘密基地です。
魔法でうろの入り口は私と家族しか見えなくなっていて、その中で春に実る木の実を食べるのが毎年の楽しみでした。
私はうろに入ると、じっと息を殺しながら震えて身を縮めます。
すると外から声がしました。
『いたか?』
『いや見つからねぇ、あのガキ何処に行きやがった?』
『お前がしばらく追わないでおこう言ったから、ガキを見失ったんだ!』
『あぁ!?逃げ切れたという安心感を与えてから絶望する顔を見たほうが面白れぇんだよ!』
『はぁ....どうする?ガキは高値で売れるから、レンブルトン様に大目玉を食らうぞ!』
『仕方がねぇ、森に火を放つか?』
『止めろ。依頼は淫魔どもを捕縛し連れていくことだ。森を焼いていいという許可まで辺境伯からは貰っていない。それにここは国境付近だ。万が一、隣国にまで火の手が及んだらどうする?国際問題になるぞ?』
『....チッ、しゃあねぇ地道に探すしかねぇか』
『いや....時間だ。しょうがない諦めよう....ガキなんかいなかった。そういうことにしておけばいいさ。どうせガキ一人だ。どっかで飢えて死ぬだろうよ』
今までに聞いたことのない、低い響く声。
何を言っているかは分かりませんでしたが、見つかったら大変です。
私はお母さんがこの前話していた願い事を叶えてくれるお星さまに願うことしかできませんでした。
しばらくすると、声と足音は遠ざかっていきます。
私はそこでようやく安堵しました。
それと同時に溢れる涙。
この時の涙はいろいろな感情が混ざり合い、自分でもよくわからないものでした。
怖い人たちから逃げ切り、恐怖から一旦解放されたことによる安心感の涙。
お母さん、大きいお姉ちゃん、小さいお姉ちゃん....大好きな家族にもう会えないかもしれないという絶望感からくる涙。
大粒の涙を流し、歯を食いしばって散々泣きました。
そして暫く泣き。
幼い私は、泣き疲れと逃げ回ったことによる疲れから、その場で眠りに落ちました。
それからどれくらいの時間が過ぎたかはわかりません。
私は目を覚ましました。
真っ先に頭をよぎったのは家族のこと。
その他にも村のこと、怖い人たちのこと、気になること確かめたいことが沢山ありました。
外の様子を確認しようと、恐る恐る木のうろから顔を出します。
眠る前には遠くから聞こえていた誰かの悲鳴も、鈍く響く鉄の音も聞こえません。
いつもの、静かな森でした。
村や森を囲んでいる山のほとりからお日様が顔を出しています。
どうやら朝を迎えたようでした。
私は外の出て、おもむろに走り出しました。
向かうのは私たちが住んでいた村。
どうしても家族の安否が心配だったのです。
ですが、私は幼いながらも薄っすらとわかっていました。
家族が、どうなったのかを。
そして村に着いたとき―—————―――—―――――――――――
――――――――――――――私は絶望しました。
村は悉くなくなっていました。
壊れたお家。
原型を留めていない焼死体。
虚ろな目をし、下半身が欠損した死体。
鏖殺の限りでも尽くされたような風景が、そこには広がっていました。
何より私を絶望させたのは、一つの焼死体です。
大きいお姉ちゃんが足に矢を受け、倒れた場所にある焼死体。
私は膝から崩れ落ちました。
「あ、あぁ........あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
壊れてしまった。
何もかも。
幸せな日々もすべて。
私たちが何をしたというのか。
何で私たちがこんな目に遭わないといけないのか。
どうしてっ!?どうしてっ!!どうしてっ!!!!
しばらく叫んだあと。
私は糸が切れたように歩き出します。
無論、当てはありません。
ただ生きないといけません。
それがお姉ちゃんとの約束だから。
それ以外にはもう、私には何もありません。
そして当ても無く歩き、数日。
空腹と喉の渇きで私が倒れたとき—―――――――――――――-
—――――――――――――騎士様が、私を拾ってくださいました。
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