第一話
冒険者ギルドは、いつも活気に満ちている。
受付嬢と話し込んでいる冒険者、情報交換をしている冒険者、併設された食堂で食事を楽しむ冒険者、クエストが貼り出された掲示板の前で作戦会議をはじめる冒険者……皆、めいめいに盛り上がっていて騒がしい。
「ちょっとごめんなさいねー。新しいクエストですー」
冒険者ギルドの受付嬢が掲示板に新しい貼り紙を追加すると、冒険者たちがどよめき、次々と集まってきた。
『隠者の迷宮の強敵討伐』──クエスト名にはそう書いてある。
「『隠者の迷宮』って、すごく人気のあるダンジョンだよね? 年がら年中、挑戦者が並んでるじゃん。今さら新しいクエストとかあんの?」
「二階層に手強いモンスターが現れるようになったらしいんですよー。これを討伐するっていう依頼ですー」
受付嬢は間延びした声でそう答えると、開閉式のテーブルを上げて、自分の持ち場に帰って行った。
冒険者たちの反応はさまざまだ。貼り紙の推奨ランクを見て落胆する者もいれば、考え込む者もいる。
とんがり帽子をかぶった女魔法使いが、パーティメンバーの戦士の腕を引っ張った。
「ねぇねぇ、推奨ランクもちょうどいいし、行ってみない?」
「『隠者の迷宮』なぁ……。あそこ、ちょっと面倒くさいんだよな。出てくるモンスターの属性が変わるじゃん? なんでいつも、こっちの弱点属性に変化すんの? 準備するの大変じゃん」
「レベル上がるよ! 鍛錬だと思って!」
戦士はうんざりしたように頬を指でかいてから「しゃーねーな」と、腰にぶら下げた剣の柄をなでた。まんざらでもなさそうだ。
少し離れたテーブルで、大きなリュックをごそごそしていた商人が「行くんですか?」とたずねる。でっぷりとしたお腹がぽよんと動いた。
「行くよ」
「まだ回復薬とか仕入れてないので、ちょっと時間がかかっちゃいそうですね」
「大丈夫。どうせ申請したって順番待ちで、すぐにはダンジョンに入れないんだから。弓兵は……あいつ、どこ行ったんだ?」
「弓の調整しに行くって言ってたよ」
女魔法使いの言葉に戦士は苦笑いして「あいつ、慎重なんだよな。あとで伝えといて」と、手をひらひらさせた。
***
約六年前、『隠者の迷宮』が発見されたとき、冒険者たちはゴールドラッシュに沸いた。
ダンジョン内は広く複雑で、出現するモンスターは多岐にわたり、さまざまな財宝がある。ギルドに併設された食堂では、日々『隠者の迷宮』の噂が飛びかい、冒険者たちはこぞってこのダンジョンに飛びついた。
モンスターというのは大半が属性を持っている。スライムならば水属性だから木属性に弱い。サラマンダーなら火属性だから水属性に弱い。
大抵の冒険者たちはダンジョン攻略のために、モンスターの属性にあわせた攻撃手段や防御手段を用意する。攻撃魔法や火矢、薬品、防具などだ。
しかし『隠者の迷宮』に出現するモンスターは、冒険者の属性に合わせて変化する。
冒険者たちが木属性の対策として火属性の攻撃手段や鉄でできたアーマーなどを装備していくと、火属性のモンスターが現れるといった具合だ。火属性のモンスターに火属性の攻撃は効きにくいし、鉄でできたアーマーはすぐに熱くなってしまう。
つまり、攻略準備のできないダンジョンである。
「あそこ、準備して行っても無駄なんだよな」
「そうですね。だから今回は回復薬を多めに用意します」
戦士のぼやきに、商人は快活な笑い声をあげ、そろばんをはじいた。
「まあ、珍しい財宝はありますからね」
「売れば、元はとれそうか?」
「てんこ盛りでおつりがきますな」
「……慣れたダンジョンとは言え、油断は禁物だろう」
きらりと目を光らせた商人の横で、女性弓兵が弦のはり具合を確かめながらいさめた。
「そうだよ。まだ『隠者の迷宮』はクリアした人がいないんだから!」
女魔法使いが唇をとがらせて弓兵に同意する。戦士は「へいへい」とあくび混じりに、盾の持ち手の強度を確認した。
約六年、何人もの冒険者が挑んできたが、結局『隠者の迷宮』は踏破されていない。




