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車椅子盲目の姉と不死の妹  作者: ももんが
3/4

はじまりはいつ?3

「モグラじゃない!神様なの!」

祠の中から現れた十五センチほどのモグラは、必死に否定する。


「モグラじゃん!絶対絶対モグラじゃん!かわいい〜!きゃー!めっちゃかわいい!」

桃子はキャッキャと笑いながら、その生き物を抱き上げた。


「うわ……もふもふしてる……かわいい……愛おしい……」

「やーーーめーーーろーーー!う、敬わないと本当に呪っちゃうぞ!」

「桃子、落ち着いて!とりあえず私にも!もふもふさせて!!!」

「ほい!お姉ちゃん!」


桃子は抱きかかえていた愛らしい生き物を、凛子の膝へ乗せる。


「はわわわ……もっふもふ……」

凛子は両手で包み込み、頬ずりした。


「無礼だぞ!んもう!敬って!俺を敬って!」


思う存分愛でたあと、凛子は冷静になり、膝の上から祠へ返す。


「はっ……すみません。山の神様。あまりにも、その……お姿がかわいすぎて」

「そういうことなら仕方ないけどさ。いやー、優しくてかわいい俺で良かったね!他の神様だったら即呪いだよ?……って、もう呪う隙もないくらい呪われてる!」


モグラ……いや、山の神アミラは、祠の影へ隠れるように戻った。


「やっぱり分かるんですね」

「分かるよ!何重にも呪われてる!何やったらこうなるの?!神様何体か殺した?!」


「そんなことしてないよ!朝起きたら、お姉ちゃんも私もこうなってたんだもん!」


祠の影から顔を出したアミラが、怪訝そうに言う。


「朝起きたら?」


「はい。何の覚えもないんです。だから、山の神様なら何か知ってるかと思って伺ったんです」


「ふーん……とりあえず、名前を聞いていい?集落の住人だよね?」

アミラは祠からノートを取り出し、ペラペラとめくった。


「凛子と桃子です。さっきお家で“伺っていいですか”ってお札に話しかけたら、文字が浮かび上がって……」

「あー、お札は強い信仰があると勝手に文字が浮かぶ仕様ね!俺って信じる人は救ってあげたい優しい神だから!

えっと、桃子に凛子……あーあの集落の右手の家か。大きくなったねえ。……あれ?お父さんとお母さん、集落出てる?俺の加護から外れてるけど」


「そうなんです!手とか足とか千切れるようになった日から両親がいなくなって……。お姉ちゃんは目も見えないし、歩けないし……」

「待って待って待って!情報多すぎる!ゆっくり話して!とりあえず祠に入りな!」


ふっと不思議な風が吹き、気がつくと祠の中。柔らかいソファーに腰を下ろすと、目の前のテーブルにお茶とおまんじゅうが現れた。


「神様の力やっば……」

「なに?!なにが起きてるの?!」


混乱する凛子をよそに、アミラは話を始めた。


「俺の加護下の集落の子だし、お供えも百年欠かさない家だし。話くらいは聞いてあげる。でも力になれるかは分かんない。それでいい?」

「はい!ありがとうございます!」

「?!よろしくお願いします!」


二人はあの日のことを語った。

朝目覚めた時にはすでに異変があったこと。

気づけば両親は姿を消し、財布も服もなく、置き手紙すらなかったこと。

残されたのは呪いだけ。


――姉は目が見えず、足も動かない。

――妹は身体が脆く、負荷をかけるともげる。しかし一時間で復活する。千切れた部分は塵となり消える。首を落としても蘇ったが、その間の記憶はない。


「うーん……大変だな」

「……モグラさん……」

「だからモグラじゃない!アミラ様と呼べ!」


凛子は桃子から手渡されたお茶を口に含み、静かに続ける。


「あの、アミラ様。ご存じかもしれませんが……母は数か月前に死産をしました」


「あー、あったね。知ってるよ。でも、あればっかりは神様でもどうしようもないんだよ」


「その後、両親は以前よりも信仰熱心になった気がします。変に」


「変に?」


「はい。毎日の神棚掃除はもちろん、聞いたこともないお唱えを夜中にしたり、“禊だ”と言って冷たい水を浴びたり。あっ、イカは神様の友達だから食べないって言ってました」


「……びっくりするくらい俺の信仰に関係ないんだけど」

「関係ないんですか……」


アミラは渋い顔をしながらお茶を啜る。


「んー、確定じゃないけど……もしかすると」

「本当になんでもいいんです!教えてください!」

「え〜……俺の勘違いかもよ?」

「「大丈夫です!なんでもいいから!」」


二人の勢いに押され、アミラは話し始めた。


「君たちの両親、俺以外の神様を信仰してたんじゃない?俺は禊も食事制限も課してないし。まあ、俺だけ信じろとは思ってないからいいけどぉ」

「そうなんですか?!モグ……アミラ様!」

「おっと桃子、危なかったな。次“モグラ”って言ったら何も教えないぞ」

「ごめんなさい……」


「俺を信仰してくれてる人には、“神棚を大事にしろ”ってお願いするだけ。ここは栄えた土地じゃないけど、荒れることもない平和な集落だしね。……では、こちらをご覧ください」


アミラがテーブルに触れると、光が走り、地図が浮かび上がった。


「すっげー!!!お姉ちゃん、お姉ちゃん見て!!あ……見えないんだった……!」

「何?!何が起きてるの?!」

「えーとね、アミラ様の力でテーブルから地図が出たの!」


アミラは満足げに微笑むと、指で地図を示した。


「こんな素晴らしい物が見えないなんてもったいないなあ。まあ、目を取り戻したいなら、後でここの神様に話聞いてみるといいよー」

「えっ?!」

「えっ?!」

「えっ?!」


「私の目……見えるようになるんですか?!」

「逆にこのままでいいの?!」


三人はそれぞれ違う意味で戸惑った。



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