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車椅子盲目の姉と不死の妹  作者: ももんが
1/4

はじまりはいつ?

この国には八百万の神様がいる。


捨てる神もいれば拾う神もいる、はず。





「あーーーー!!!!また指取れた!!!!お姉ちゃん!また指取れました!!!今度は親指です!」


「大丈夫?親指ねこれで32回目。痛みはどう?」


車輪付きの椅子に座る姉凛子は目が見えないながらも膝の上のノートに器用にメモを取っている。


「痛み、、、慣れたのかなあ、今朝足が千切れた時よりも痛くないー」


親指のもげた右手を庇いながら脚立から降りてくる。



「んー、、、、、もしかしたら、初めて千切れる部分は痛いけど、回数を重ねると痛みが少なくなっていく?」


「1番多くもげた所ってどこだっけ?」


「えーっと、、、、右腕ね。154回」


「うっそ、、、そんなにもげてんの?!怖〜」


「本当に、脆くなってるのね。色々気をつけないといけないわ」



桃子は千切れた親指を足で蹴り転がしながら隅へ追いやった。そこには体の一部だった物の残骸が溜まっている。


「次はどれが塵になるかな」


体の一部だったものが塵になる時間を凛子は細くノートにメモをしていた。

この体の呪いを解くなにかの役に経つかもしれないから。

でも、大きい四肢だろうが小さい指だろうが、1時間くらいなのは変わらなかった。



いきなり2人暮らしになってしまった、この家の中で何度も実験を繰り返していたが、多少の誤差はあれど、だいたい1時間。それに気づいてからは凛子のメモはあまり進んでいない。



親指がもげたことで一旦お掃除は中止。

テーブルの前の椅子へ座ると親指がはえてくるまで暇を潰していた。



「ん?あ、またあの匂い」


テーブルを挟んで桃子の右手を嗅ぐ。


「この匂いがすると、塵になる気がするの」


凛子の言う通りしばらくすると千切れた親指は、チリチリと乾燥するように塵となった。


「お父さん達が居なくなった日の夜もこの匂いがしたの。塵になる前の匂い。」


新しく生えてきた右手の親指を動かし、自分も、匂いを嗅いでみる。


「なーんか前も言ってたよねー呪いってどんな匂いするの?私には全然わからないー」


「なんかね、難しいんだけど、甘いような乳臭いような青臭いような、、、、」


「いい匂いじゃないのは確かだね」


親指が千切れた事で神棚の掃除が途中だったが、元に戻ったので、脚立に登り掃除を再開する。


「桃子、気をつけるのはもちろんだけど、ちゃんと丁寧にお掃除するのよ?樒も新しいのに変えて、お札もほこりを払って、、、」


他の家族と違い、信仰深くない桃子は何度か神棚の掃除を適当に済ませていた。目が見えないはずの凛子はなぜか手抜きした事が分かり、こうして毎回細かく指示するようになったのだ。


「はいはい。わかってますー。でさ!この神棚ってさ、山の神様の分家?お裾分け?なんでしょ?」


「そうそうアミラ山の神様が見守ってくれてるの。神棚はアミラ山の神様の目や耳の役目をしているから隠し事はできないらしいわよ?」



「それならさ、アミラ山行ってみない?お父さん達が居なくなってから行ってないし、もしかしたら神様が助けてくれるかもしれないしー」


思いつきの提案を伝えながら、神棚の古くなった樒を捨て新しく生ける。

樒の他にもお酒の入った器や生米など山の神様に供えるものは毎日新鮮な物を供え替える。桃子は心底面倒だと感じている。毎日供えるお酒と米なんて自分が消費したい。




「でも、アミラ山の神様が私たちと話してくれるのかしら?」


古くなった樒やお供え物は脚立の下で凛子が纏めていた。後で家の外の焼却炉で燃やす予定。


「そーなんだよね〜」


「山の神様って基本的に一般人とは話せないって聞いたことあるのよね」


桃子は神棚の掃除を終え脚立の下に降りると手を合わせながら


「アミラ山の神様!私たち困ってます!多分なんかしら呪われました!なにもかも曖昧です!両親達も突然居なくなっています!そちらにお話をしに伺ってもよろしいでしょうか!!!!!」


桃子が頭を上げると同時に供えていたお札が、音を立てて落ちた。


桃子は神棚から落ちてきたお札を拾い見ると鳥肌が立った。

そこには真っ赤な


「是」


の文字が浮かび上がっていた。


「お〜、、、これは、、、行くべきですね、お姉様」


「何?!何が起きたの?!」



目の見えない凛子に状況を伝え、お出かけの準備が整い次第アミラ山へ向かう事にした。




外出するためには歩けない凛子のサポートが必要になる。

必需品の車輪付きの椅子は、設計図を凛子が描き、桃子が作成した。

凛子は昔父から借りた医学書の挿絵を必死に思い出しながら設計図を描いたのだが、桃子に制作をお願いすると


「こんなもん、作れるわけねーだろ!!!」


と叫ばれた。でも桃子は姉の快適な生活の為に脳味噌フル回転させながら制作を始めたのだ。



「よーし!お姉ちゃん!準備できたよ!乗り換えようか!」


外出用の車輪付きの椅子を準備すると最新の注意を払って凛子を支えのせた。

ギシギシとちょっと怖い音はする。

だが、外の凸凹道の衝撃を和らげるための役割のため我慢してほしい。

外出用は後ろから押せるようになっているしこれならアミラ山までの山道は余裕だ。


「外出用のまで作ってくれて本当ありがとう。荷物も乗せられるし、17歳でこんなの作れるなんて天才!もし歩けるようになっても使いたいくらいだわ」


「へへ!でしょでしょ!設計図があればこんなもんよ!、、、、、って歩けるようになったら直ぐ捨ててやるわ!!!!歩け自分で!」


桃子は自分の荷物を凛子の膝へ乗せると


「いくぞー!しゅっぱーつ!」


「お願いしまーーす!」


後ろから押してアミラ山の山道を目指しはじめた。




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