一難去って
ボクは残心を解き、後ろに振り返る。するとガラスの割れるような音とともに結界が破壊され、城の内側から何かが飛んだ。
目を凝らしてその物体を見る。黒い鎧の、聞いた外見の魔王だ。小脇には気絶しているらしいラスティ姫がいた。
サラマンダーだけじゃないのかい!
デザイアメイロ本編だと結界に耐えて内部まで入れるのが魔王で、魔王が城内に侵入してラスティ姫を攫うという流れになっている。
アルフも戦うが、簡単に気絶させられる。負けイベだ。
そして、結界が破壊されたために国は民を守る必要ができてしまった。結果、姫救出に戦力を割くことができず、アルフが真っ先に魔王討伐に向かうことになるのだ。
ボクは右脚を高くあげる。
いくらアークで死なないかもしれないからって、逃してなるものか。
震脚の後跳躍し弾丸のごとく、魔王へ接近する。
「おい! 変態!」
身をひねりながら踵落としをかます。
「姫様を返せ!」
兜に目掛けて踵が当たる。
何か阻まれた感覚がするが、構わずぶち抜く。
魔王の影が落下していく。影がふたつにわかれたのを確認する。ボクは放り出されたラスティ姫の方を追う。
即座に入れ替え魔術や転移魔術を発動するにはこの空装じゃなくする必要がある。
扱いの難しい魔術はクンフードレスだとコントロールしづらい。クンフードレスは魔力密度を上げて肉弾戦や攻撃魔術を使用することに適しているからだ。
ラスティ姫を転移魔術で逃がしたりするには魔女っ子装備に戻る必要はある。でも魔王と戦闘をするかもしれない現状において、一番安全なのはクンフードレスだ。今は魔女っ子装備に戻るのはリスキーだ。
ボクはラスティ姫をしっかり目で確認して抱きしめ、そしてボクの体を下に向ける。
「コォオ」
ボクの体を盾に地面に激突した。
「姫様っ」
抱きかかえながらラスティ姫の状態を確認する。息はしてるし、表情も穏やかだ。とりあえず大丈夫そう。
ふぅ、良かった。
「全く……乱暴な救出方法だな」
低い男のような声が響く。振り返ると魔王がいた。
「ディアプラだっけ」
「ディアプラーダだ」
「同じじゃん」
睨む。かなり大柄な鎧だ。今は武装していないが、サラマンダーのように武器は呼び出せるのだろう。
魔王ディアプラーダはサラマンダーとの戦闘跡を見て、ため息を吐く。
ブレスやビームで抉れた大地は規模の凄まじさを物語っている。
「サラマンダーは負けたか」
それからすっと手を振る。
「フレア」
冷や汗が出た。吐き出された魔法名に似合わぬ不吉さが、ボクの本能に訴えてきた。
紫色の炎がボクを襲う。
震脚、練り上げた魔力で防御姿勢を取る。
サラマンダーのプラズマフレイムの比にならない火力で、ボクの体が押される。それでも防ぎ切った。
「あっぶな! 姫に当たったらどうするつもりなのさ!」
「こいつのことか?」
魔王が肩に乗せた姫を指差す。
いつの間にそっちに……。
「……焦っているな。娘よ」
どうやって奪還するか考えていると、見透かしたかのように言われた。
「安心しろ。力を取り出し切るまで殺しはしないさ」
「アークをどうするつもりだ」
「姫の心配ではなかったのか? まぁいい。アークは」
「オラァ!」
会話の雰囲気をつくってから掌打をディアプラーダに叩き込む。
かったぁっ!?
腕のしびれを感じながら飛び上がり、再度ラスティ姫を抱えて飛び退く。
ディアプラーダのほうは軽くよろめいただけで鼻で笑ってきやがった。
「素晴らしい力だ。こちらにつかないか?」
「べー」
舌を出す。
「……残念だ」
ディアプラーダの姿がぶれたかと思うとボクの腹部に拳が叩きつけられていた。
凄まじい衝撃と共に殴り飛ばされる。
ラスティ姫はしっかり抱えられてる。よし、やつの追撃もないな。
「解除!」
クンフードレスから魔女っ子装備に戻る。そして転移魔術を大急ぎで発動させた。ボクが借りてる部屋が最も成功させやすいので、そこをイメージしてラスティ姫だけを転移させる。
大急ぎで発動させたので失敗しているかもしれないが……この戦地に巻き込まれるよりは壁に埋まったりしたほうがいいだろう。アークが守ってくれると信じたい。
ボクはここで魔王を止めなければならないから残るのだ。
カードを取り出して、再度クンフードレスを呼び出す。
「空装切替!」
目的達成。
身を回転させて着地し、構える。ディアプラーダはゆっくりこちらに歩み寄ってきた。
「サラマンダーとの戦闘でかなり力を使ったのではないか。我を相手にする余裕があるのかな?」
「……キミの目的はなんだ」
「シンプルさ。ここを魔物の世界にする」
「共存するつもりはないわけ」
「面倒だ。家畜と和平を築こうとする愚か者はおるまい」
呼吸を整える。
「典型的な悪側のセリフどうもありがとう」
「それで、どうするつもりだ。結界は剥がれ、アーティンベルは魔物への防衛力が著しく下がってしまったぞ」
「結界くらいボクが用意できる」
「愚かな」
姿がぶれて、次の瞬間には拳が襲ってくる。
ボクは拳を防御した。衝撃を殺したのに数メートル飛ばされる。
「我の前にいる。それでもう結末など、決まっている」
「魔王相手に随分強気じゃないか。ディアプラ」
ディアプラーダが首をかしげる。
「魔王? 貴様が?」
笑みを浮かべる。
「面白い冗談だ」
再度、姿が消える。
――が。
「慣れた」
拳を上から叩きつけて、ディアプラーダの一撃を弾き切った。
「――何?」
不思議そうに弾かれた拳を見てから、ボクに顔を向けるディアプラーダ。
魔力の密度は段階がある。
自然発生時の自然魔力。魔術発動の際に密集するような集中魔力。
意図的に圧縮させて発生させる高魔力。これが、さっきまで使っていたクンフードレス装着時の魔力の状態だ。
今はその上の超高魔力状態にした。相当な熟練魔術師でも滅多に練り出せないものだ。こうなるとほとんどの魔術で応用が効かなくなる。その分肉体強化は相当なものになるし、放つ魔術は強力になるけどね。肉体強化は体に負担がかかりすぎるし、魔術は放つまでに時間がかかりすぎるので、誰も好んで使わない。
魔力も魔術もイメージ力だ。装備も本人のイメージが明確でなければ十全に力を発揮できない。
そこらへんクンフードレスは完璧だ。ボクが散々格ゲーとか映画とか見てきたからイメージを補完しやすい。チャイナドレスといえば中国拳法だ――嘘、これは偏見だけど。
ボクがこの空装をつくったのはこういう土壇場に魔力の密度を上げて戦闘能力に直結させられるからだ。
気を練る。その描写をいろいろな作品が表現してきた。ボクが魔王をやっていた時代よりも、ずっとずぅーっと超高魔力状態にするイメージはしやすい。
サブカルチャーさまさまである。
「――面白い」
ディアプラーダは片手を掲げる。
出現した武器は、あまりにも鉄塊だった。
巨剣というのはわかる。馬なんて一刀両断だろうし、巨人ですら簡単に屠るだろう。
そう思えるほど無骨で分厚くて、大きくて、鉄塊が剣の形をしていると思ったほうがしっくり来るほど、大きかった。
「耐えてみろ」
あまりにも当たり前に。
まるで包丁でも入れるかのように、巨剣が振り下ろされた。




