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悟りの店員

 ピューとリコーダーを吹いてみる。そのままの勢いでシューベルトの「魔王」を吹き始めた。


 冷房のガンガン効いたゲームショップのカウンター。そこでボクはリコーダーを吹く。


 客は顔なじみしかいない。


 ボクは小さなゲームショップの店員をやっている。通販がメインなので店に訪れる人はかなり少ない。最新機器のメモリ増加の為の製品を買いに来たり、普通だったら転売屋に買い占められるカードゲームのパックをウチがこっそり目立たないところに売っていることもあって、それを買いに来る常連だとかそんなものだ。


 魔王を吹き終えて、リコーダーを背負っているミニランドセルに突っ込む。ボクが着ているのは不思議の国のアリス風水色のロリータ服だった。赤いヘアバンドにウサギの耳みたいなパーツがついている。


 店員は服装自由だ。というか店長の意向でコスプレさせられている。


 なんたってボクは合法ロリの美少女だから!


「ぷはー」


 電子タバコを吸う。はぁ、チョコミント最高。っぱ咥えるならリコーダーより電子タバコだ。


「冒涜感がひどい」


 苦笑いしながらカウンターに商品が置かれる。新男子大学生ヨシクリくんだった。


「やだなぁお客様。この冒涜感がいいんじゃないですか」

「現実に持ってこられるとなぁ……」

「そりゃボクは正真正銘合法ロリなので」


 パソコンゲームのバーコードを読み取り、会計を済ませる。


「ボクは可愛いでしょ?」

「否定しづれえ。というか麻央さんはどんだけ若さ保ってるんだ」

「ふっ、我は吸血鬼。若さは永遠なり」


 片目を隠しながら言う。彼とは彼が中学生くらいからの付き合いだ。


「いい歳して中二病とか」


 実は本当に吸血鬼なんだけどね。太陽克服してるし、食事は娯楽になったから血もいらないし、聖水は普通ににおいとかべたつくのが嫌だけどニンニク好きだし。


 死なないから封印されたわけだし。


「というか昔は普通に黒髪黒目だったはずなのに、今じゃ青染めに金のカラコンだもんな。逆行してる」


 最初はこの国の人になじめるように黒髪黒目に見えるような魔術をかけていたんだけど、今じゃ髪染めもカラコンもそんなに珍しくなさそうだったので素で過ごすことにしていた。


 髪は水色だし、目は金色だ。


「――ふふん。ところでヨシクリくんもこういうゲームに興味持つようになったんですね」

「ばっ、あんま表面にするな」

「変な性癖拗らせないでくださいねー」


 ゲームショップのビニール袋は黒だ。プライバシーは守られる。安心したまえ少年、君の願い(年齢制限解除)はようやく叶う。いやぁ、ヨシクリくんも大人になったなぁ……ボクは誇らしい想いで商品を渡した。

 ヨシクリくんは顔を赤くしながら店を出ていく。


 うーん平和だ。







 真夜中、コンビニを出る。電子タバコのチョコミントフレーバーリキッドを買い足したところだった。ついでに好きなカップ麺をいくつか買った。あとお酒。


 ボクの見た目は完全に未成年のソレの為、馴染のコンビニしか夜中は使えない。手軽にお酒が買えるのも顔なじみだからだ。これが全然知らない地域のコンビニとなると年齢確認とかが色々面倒くさい。


 身長百四十三センチなので子供服を買った方が楽な身長なのだ。


 一応ボクは二十八歳ということにしている。大人として働ける年齢からスタートして、八年ここらで生活しているわけだ。


 ボクがお酒を飲みながら家路についていると、住宅街の道路の先で、見覚えのある姿を見た。


「あれ、テンチョー……?」


 街灯に照らされた場所で、我がゲームショップの女性店長がいた。ブロック塀に下半身が埋まっており、必死に両手を壁につけてもがいている。右側だけ長い前髪とポニテを揺らし、元ヤンらしい鋭い目は珍しく涙目になっていた。


「どうしたんだ、テンチョー」


 片手を上げながらもがくテンチョーに話しかけると、ぱっと顔を輝かせてボクを見た。


「マオ! 頼む助けてくれ!」

「お、おぉ……? どうすればいいんだボクは」

「とにかく引っ張ってくれ!」


 手をボクには向けて伸ばす。ボクはそれを握って引っ張った。


「いただだだ!」


 うん? びくともしないぞ。


「テンチョー……大きいお尻が穴に引っかかってるんじゃないの?」

「穴じゃねーよ!? 誰が現実世界に壁抜けしようと思うよ! なんか異空間みたいなのに吸い込まれそうなんだよ」


 悲鳴を上げながらもがくテンチョー。

 意識を集中させて、テンチョーの細い腰周りを見ると何かがまとわりついている。


「ちぎれぢゃう……!」


 苦しそうな声と、体、衣類の軋む音がする。苦悶の表情が強くなる。


「まずいな」


 このままボクがテンチョーを引っ張ってるとテンチョーが死にそうだ。


「テンチョー手を離すけど」

「まっでぇ!」

「いやでも穴に吸い込まれたほうがいいんじゃ」


 ボクは元魔王なのでチョー強い。なので穴の吸い込む力とボクの引っ張る力でテンチョーがスプラッタホラーみたいな展開になりかねない。


「どこに、繋がってるかわかんないでしょう……がっ」

「うーんほらチーレムアニメの異世界かもしれないじゃん」

「バッカ! アニメの見すぎだ!」


 怒られてしまった。

 うーん、それじゃまぁ……


 ボクは指を鳴らす。体の中の魔力を弾けさせて魔術を発動させた。


 瞬間視点が切り替わる。


「ほへっ!?」


 目の前に尻もちをついたテンチョーが現れる。ボクは下半身が穴に消えた状態で壁に埋まっている。


 位置入れ替えの魔術だ。単純な転移魔術も使えなくはないんだけどブランクがあるからテンチョーを転移させたら骨がグチャグチャになる可能性がある。キチッと座標が決まってる入れ替え魔術の方が確実だった。


「あっ」


 テンチョーが尻もちをついているせいでボクを引き止める存在がいない。しかも海に行ったら男の視線を釘付けにするようなわがまま魅惑ボディのテンチョーと違ってボクはロリ体型。すぐに穴に呑まれる。


 ボクは手を伸ばしたまま、穴に吸い込まれていった。

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