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入国

 ラスティ姫は優しさと気丈さを持ち合わせた性格だと言われている。言われているというのは、ゲーム本編だとほぼセリフがないから性格を読み取りづらい。コミカライズ版デザイアメイロがあるんだけど、そこで少しだけエピソードがあるだけで彼女の詳細はあまり知られていない。


 ただ兵士の野次を言って黙らせる力があるというのはそれだけ兵士たちがラスティ姫に「力」を感じているということだ。単純な力ではない、威厳や恐怖、尊敬を抱けるもの……どれでも構わないし、どれだけ持っていてもいいが、とにかく、彼女は「王女」としての格、気質を持っているのだろう。


「あなたが普通の魔物と違う理由(わけ)を教えていただけますか」


 微笑みながらラスティ姫が聞いてくる。結界の境界線、ボクに最も近い位置にいる。警戒心があるのならここまで近づかない。


「……通じるかわかりませんが、ボクは吸血鬼です」

「人ではない、ということですか」

「端的に言えば」


 頷き、自分の瞳を指さす。


「ボクの育った場所では金の瞳は悪魔の子の証でした」


 結界が拒んだ以上、ボクの扱いは魔物だ。取り繕うことなく、ボクがどういった存在か、伝えたほうが良いだろう。ラスティ姫にも、わかりやすいように。


「実際、ボクは体質が違う。生の血を好んで太陽を嫌う、そんな体質だったのです」


 一瞬、ラスティ姫は空に視線を移し、そしてボクを見る。太陽の下にいるボクを不思議に思ったのかもしれないが、話を待ってくれた。


「ボクは赤子の頃、まじゅ……魔法に詳しい人の家の前に捨てられていたそうです。ですから親が何だったのかは知りません。ただ、金の瞳を持ち、日光を痛がるボクを捨てる感性は持っていたと言えます」


 それはすなわち、人間だったということだ。


「ボクは魔法の先生に育てられました。血の代わりになる薬とできるだけ日陰で過ごしながら」


 魔術、薬学に長けたもの……他人と違い森に住み、自然に生きる者。それを人は魔女と呼ぶ。ボクを育ててくれたのはただの優しい魔術の先生だったけれど。でも、世間では魔女だったのだと思う。


 美魔女とかプラスのイメージではなく、マイナスのイメージで。


「その方は素敵な方だったのですね」

「はい」


 殺されたけど。いや、だから殺されたんだ。


「ボクは自分の体質を魔法で克服しました。だから太陽も平気ですし、血もいりません。ただ身体構造が通常の人とは違うので、結界が魔物判定を出したのなら、ボクは魔物なのでしょう」

「いいえ。結界が間違えただけです」


 強くラスティ姫が否定する。

 ボクの手を握ってくる。ラスティ姫の手が淡く金色に輝き、ボクの中に温かな力が流れてくる。


 これが「アーク」か。何だか、優しい光だ。


 手を引き込まれる。結界に阻まれるはずが、そのまますり抜ける。手を離されるが、弾かれることもなく、身動きが取れた。


「ほら、あなたは人です」


 心の底から肯定の言葉を投げられる。


「…………ぁ」


 人という言葉が不思議と胸に突き刺さった。テンチョーに「いい色だな」って髪色と目を褒められたときを思い出す。


「歓迎します。マオさん。ようこそアーティンベルへ。そしてぜひ、お礼をさせてください」

「ありがとう、ございます」


 ボクが頷くと、セーナ姫は嬉しそうに笑みを浮かべ、ガリアは安堵の息を漏らした。







 十日経った。


 十日間何してたんだよベイベーという話なんだけど。


 寝てた。てへ。


 あの後、安心感からか、意識が飛んで目が覚めたらなんか高級な寝室で寝ていた。意識が飛ぶ前に数日目を覚まさないことを伝えていたので、パニックにはなっていなさそうだった。起きたら可愛いメイドさんに湯浴みを手伝ってもらい、病人用の食事を用意してもらって食し(おいしくはなかった)、ドレスを着せられた。落ち着いたデザインの薄い黄色のドレスだった。


 どうやら王に謁見するらしい。


 デザイアメイロだとちょっとしたイベントの後すぐ旅立つからこういうの全然わからないんだよなぁ。


 大扉があけられて、ザ・玉座と謁見の間みたいな場所に案内される。


 王が玉座に座っており、その傍でラスティ姫が笑顔で手を振ってくる。


 ボクはそこそこの場所でなんとなく片膝をついて頭を下げた。


「はじめまして。国王陛下。ボクはマオ・フルシロ。旅人をしております。お会いできて光栄です」


 ひとまずファミリーネームを後ろにして、元の世界の名前を名乗る。今のボクは古城麻央だしね。それに魔王のときの名前だとたぶんややこしいだろうし。ゲームと同じであれば丸かぶりだ。


「うむ。我はこの国の王ヴェルディ・アーティンベルだ。しかし楽にせよ、遠い異国の者と聞いた。礼儀は気にせずとも良い」


 いかつい髭面の割に優しげな口調で王様が言ってくれる。ひとまず王を見上げる。


「セーナ姫と騎士ガリア、そして我が娘から話は聞いた。先日、宣戦布告をしてきた魔王の軍、その魔の手からふたりを救ったこと、感謝しかない」

「はっ、ありがたき幸せにございます」


 一生使わないであろう言葉を使う。いやぁこういう言葉を気にせず使えるっていいね。


「ホロービタンダのことは残念だった。しかし、セーナ姫がいれば、ビタンダ家の血は途絶えずに済むだろう」


 心の底から思っているのか、声が一瞬だけ上擦り、震えた。まぁ、友好国の設定だったし、デザイアメイロの始まりもお通夜みたいなムードだったしね。


「そなたが強力な魔物を撃退したおかげでしばらくやつらも好き勝手に侵攻はしてこないだろう。その間に我らも備えられる。より結界を強固にする。そのチャンスを与えてくれたそなたに褒美を与えたい。何か欲しいものを言ってみよ」

「では、遠慮なく」


 ボクは王様にこう告げた。


「武具の作成方法と、武具の素材の情報を頂きたく思います」


 ボクの言葉に王様は意外そうに眉根をあげた。

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