表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/81

★第7話ー1、異世界の焼き魚も美味しい! けどスープは塩味ばかり。

★第7話


 魔族領の結界を抜けると、一気に暑さが戻って汗がふきだす。


「まずは港町サリュを目指すのじゃ!」


 暑さもなんのその、ルルカは鼻歌を口ずさみながら、まるでスキップするかのように足取り軽く下山し始めた。僕たちも慌ててついて行く。


「ルルカ待って! そこに何があるの?」

「お主ら、軟弱すぎじゃろ? そやつは元気みたいじゃがの」


 天音が砂漠を飛び跳ねながら楽しそうに、はしゃいでいるのを指差す。そう言えば、山に登って来る時も平気そうだった。


「人間には、この暑さは堪えるんだ……」

「仕方がないの! 少し待つのじゃ」


 ルルカが、両手を広げ空に向けて大きく口を開ける。すると目の前に、大きな茶褐色のドラゴンが舞い降りた。


「すご!」

「妾は、魔物共の言葉も分かるし、しゃべる事ができるのじゃ! 時間が惜しい。さっさと出発するのじゃ!」


 僕たち人間には聞こえない声で、ドラゴンを呼んだのだと分かった。そしてもう一つ分かったのは、ルルカはめちゃくちゃせっかちだと言う事だ。今も翼を使って1番にドラゴンの背に乗っている。しかも仁王立ちだ。


「俺の背に乗れ」

「ありがと」


 リュカが僕を背負ってドラゴンに飛び乗り背に跨る。鱗がザラザラしてるし一枚一枚が大きいから丁度良い感じに尻が乗る。滑り落ちる心配は無さそうだ。天音は僕の肩にちょこんと座った。


「しっかりと、しがみついておれ」


 リュカの腰の辺りの服を、両手でしっかりと握り締める。たぶん服の裾は伸びてしまうだろう。リュカの身体つきは、がっしりしてるから5歳児には腰に腕を回して、しがみつくなんて無理だったから仕方ない。

 ドラゴンが翼を羽ばたかせフワリと飛び立つ。馬車と違って直接、風を感じられて思ったより快適だ。


「うわぁ! 地平線まで見える! それに気持ちいい!」

「そうじゃろ! そうじゃろ! そこで無愛想にしておるリュカデリクより、アレティーシアお主との方が話が合いそうじゃ!」


 そう言えばルルカが同行する様になってから、リュカは余り喋らなくなったような気がする。


「もしかしてリュカとルルカは仲が悪いとか?」

「仲が悪いとか苦手とかの次元ではないな」

「うむ! もはや天敵じゃな!」


 この2人に一体何があったのだろうか? とりあえず相性は最悪みたいだ。


「そのような事より前を見てみるのじゃ!」


 ルルカの指差す方を見下ろすと、海岸沿いに街が見えてきたり。


「わぁ! 大きな街!」

「港町サリュは、この黒の大陸で最大の港があるんだ。新鮮な魚介類も手に入るし、様々な大陸と島々からの交易品も集まるから面白いと思う」

「へぇ! 美味しいものもありそうだし面白そう! それに小さな島々だけじゃ無いんだ」

「この世界には5色の色の名前が付いた5つの大陸があるんだが、大陸同士は友好的では無いな。行き来するのは商人くらいだろう」

「そっか。海の向こうにも行って見たかったなぁ」


 せっかくだから、この世界を沢山見て回りたいと思っていたから残念。


「そうガッカリするでない! そのうち妾が連れて行ってやるのじゃ!」

「良いの?」

「もちろんじゃ! とその前に、そろそろ地上に着く。しっかりつかまっておれ!」

「楽しみにしてる!」


 再びリュカの服をギュッと握りしめる。間違いなく服は伸びるだろう。ドラゴンは旋回しながら、ゆっくりと目立たないように街からは少し離れた森の中に降り立った。僕たちが背中から降りると、ドラゴンは飛び去って行ってしまった。自分の寝ぐらに帰って行ったのだろう。リュカの服は伸びて裾の辺りがビロビロになってしまっていた。


「アレティーシアお主は極秘の旅じゃったな?」

「うん。だから僕の事はタキって呼んで欲しいんだ」

「うむ!」


 森のど真ん中、草木に覆われた狭い人ひとりが通れるくらいの獣道を先頭リュカ、真ん中僕、最後にルルカで1列に並んで歩きはじめた。天音は僕の肩で、プスゥ〜プスゥ〜と鼻を鳴らしながら気持ち良さげにお昼寝中だ。途中、ルルカが立ち止まって変身術で角と翼を消す。天音も目を覚まして眠そうにしながら、それに倣って翼を消した。


「これならばエルフで通るのじゃ」

「やっぱり隠さないとダメ?」

「魔族と人族の間には色々とあるからの」

「そっか……」

「お主が気にする事は無いのじゃ」

「にゃーん」


 しょんぼりした僕の背中をルルカがポンポンと軽く叩く。天音も僕の頬を舐めて頭を擦り寄せてきた。

 森を抜け街道まで来ると、風に乗って海の香りが漂い始め、馬車や大きな荷物を背負って歩く商人風の人々と沢山すれ違う。


「あのさ。ルルカ。僕たちは兄さん……ヴァレリーを探してセランケーナの山に行ったんだけど知らない?」

「知っておる! じゃから港町サリュに来たのじゃ」

「ここにいるの?」

「分からん。妾の先見じゃと、ここまでしか見えなかったのじゃ」

「どういう事?」

「妾の能力も万能では無いのじゃ。妾自身と身内の未来現在過去は視る事が出来んのじゃ。タキの兄者は妾の兄ハルルと移動しておるようなのじゃ」

「魔王に兄がいるとは聞いた事がないが?」


 リュカが立ち止まって振り返る。

 

「うむ。ハルルの事はたぶん妾とバティストしか存在を知らないはずじゃ」

「どういう事?」

「引きこもりじゃ!」

「引きこもり?」

「そうじゃ。しかも筋金入りの引きこもりじゃ。妾もハルルの姿は幼い頃しか見ておらん」

「それって、なんかおかしくない? ヴァレリーははっきり言って間違いなく妹のアレティーシアの事が大好きすぎて他人に興味が全く無かったはずだからさ」

「確かにそうじゃな。そもそも人嫌いのハルルが城から出るなどありえんのじゃ……しかもいつ城から出たのかも分からんのじゃ」

「何か理由があるんだろう。2人の事はサリュで食事をしてから情報を集めるのがいいだろう」


 う〜ん……と唸りながら悩み始めた、僕たちを見てリュカが提案してきた。太陽が真上に来てお腹も空いているし、人が集まる昼時の食事処なら情報も拾えるかもしれない。


「うん。そうだね!」

「うむ」



 港町サリュにたどり着くと、オープンな事に驚いた。高い塀も門も無く兵士の姿も見かけない。


「兵士の姿が全く無いんだね」

「ここは黒の大陸の玄関口だから商人と共に自然と冒険者たちも集まるからな」

「そっか。何かあっても皆んなで守るんだね」

「そういう事だ」


 とその時、今まで肩の上で、ぐっすり寝ていた天音が飛び起き、僕の肩から飛び降り走り出した。


「うにゃ〜ん」


 慌てて僕たちも追いかける。そして走りながら街の美しさに驚く。石をタイルのように波の模様に敷き詰めた綺麗な道路が続き、街の中央は広場になっていて真ん中に大きな噴水、壁沿いには屋台が並んでいるのだ。人通りも多いし、焼き魚やら焼き貝の匂いが店先から漂ってくる。昼時なのでかなりの賑わいだ。


「うにゃ!」


 奥の方から鳴き声がして向かうと、店先で目を輝かせヨダレまで垂らした天音がいた。炭火が焚かれ網で、かなり大きな魚がパチパチ音を立てて香ばしい匂いする。天音でなくても、めちゃくちゃ食欲そそられる。


「リュカ昼ご飯ここにしない?」

「そうしよう。オヤジさん焼き魚4匹くれ」

「ありがとよ! パンに挟んで食うと美味いぞ!」


 リュカが銅貨4枚を渡すと、木皿に焼き魚と黒パンを乗せて僕たちに渡してくれる。店の前に並べられた椅子に座って、丸テーブルの上に木皿を置き、黒パンを手で半分に割って、焼き魚の骨を取って身をほぐして挟み込む。パクリと食べると魚の油が少しパンに染み込んで美味しい。天音には細かくパンを千切って、ほぐした身を混ぜて木皿に盛って、目の前に置くとかなり腹が空いていたのか勢いよく食べ始めた。黒パンが硬めなので、ゆっくり口をモゴモゴさせて中々飲み込めない僕よりも早く食べ終わった。当然、リュカとルルカも終わっている。


「慌てなくていい」

「うむ! ゆっくりで良いのじゃ」


 リュカは何やら難しい顔して考え事をしてる。ルルカは道端から引っこ抜いてきた雑草を振り回して、ひたすら天音と戯れている。めちゃくちゃ楽しそうだ。その様子を見ながら、噛みしめて食べ水を飲む。


「美味しかった! ご馳走様」

「では情報集めなのじゃ!」

「うん!」


 僕とルルカが歩き出そうとしたら、リュカに手を掴まれ立ち止まった。


「オヤジさん。ご馳走様! 一つ聞きたいんだが、この子の兄を探している。心当たりはないか?」

「う〜ん。ワシは見てないが他のヤツらにも聞いてみてはどうだ?」

「そうするよ」


 僕も、すぐに見つかるとは思ってないから気落ちはしない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ