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★第6話、異世界の山は溶けてしまいそうなくらい暑い。


 ★第6話


「逃がしたって誰がそんな事」

「間違いなくティルティポーの奴らだろうな」

「助けに来た?」

「ラウルとシャイナは人を助けたりはしない。あの2人が裏切らないよう隠密にでも見張らせていたのだろう」

「そういえば、サリアたちが魔族退治なんてしないとか大声で話してた。あとなんか金銀財宝盗むって言ってたような? そのことを聞いて連れ戻しに来たのかな」

「それもあるが、一番の問題は情報が漏れることを恐れたはずだ。実際あの2人はペラペラ色々な事を話してくれたからな」


 うわぁ~。見張りに気づかず任された仕事を放り出して、他国の城に盗みに入った上に情報漏洩とか、めちゃくちゃヤバいことしてる。


「サリアたちは、これからどうなるの?」

「間違いなく2人は奴隷落ちだろうな。だから忍び込んで盗みを、はたらこうとした事に関しては放置で良いと思っている。眠り薬で眠らされた兵士はいたが目を覚ましたし、大した被害も無かったからな」

「え! 奴隷制度なんてあるの?」

「奴隷と言っても、本来は犯罪者に『支配の首輪』を嵌めて、逃がさないようにしてから働かせるのが目的だ。だから普通に暮らしてるだけなら、まず奴隷になる事は無い。だが最近のティルティポーは一般人を攫う事も厭わない。奴等がは一体、裏で何をしているのか……」

「良かった普通は無いんんだ……でも一般人まで攫うって……」

「今、例の件と共に探らせてる」

「夜会の後、母さんとリュカがミュルアークの王様が捕まってるって話してた事?」

「あぁ。そうだ」


 正直な話サリアたちが、どうなろうとどうでもいい。前世の【俺】を殺し、この世界でも僕を殺そうとしたのだから助けるつもりは全くない。

 でもティルティポーの不審な動きは気になってしまう。一般人まで巻き込むなんて碌な事してなさそうだ。


「僕にも出来る事あるかな?」

「ありがとう。何かあれば手伝ってくれ」

「うん!」




 コンコンコン!


 ノックと共に、扉が少しだけ開き女性が顔を覗かせた。


「入っても良いかしら?」

「母上」

「もう出発するのよね?」

「はい」

「その前にアレティーシアとお話がしたいの」

「分かりました。どうぞ」


 内緒話のように小さな声で喋りながら、リュカが扉を開け女性を招き入れる。


「アレティーシア会えて嬉しいわ。私はリュカデリクの母ルシェリアよ。よろしくね」

「ルシェリア様、アレティーシアです。よろしくお願いします」


 赤い色のドレスを着た華やかなルシェリアに抱きしめられる。同時に、ふわりと甘い薔薇の良い香りが鼻の奥まで届く。


「よく顔を見せてちょうだい」


 さすがリュカの母。緩くウェーブがかった金の髪の毛はサラサラで腰まで届き、目の色も輝くような金色だ。小麦色の肌は健康的だし、かなりの美人だ。だから見つめられると照れてしまって目が泳ぐ。


「やっぱりそうだわ! リュカデリクから貴方の事情を聞いて、もしかしてと思っていたの」

「もしかしてって?」

「この世界に来る前の、貴方の父はルドラという名前ではなくて?」

「そう……だけど……?」


 なんで知ってるんだろ? リュカにも両親の名前までは言ってないはずなんだけど? しかも生まれ変わって、姿が違うはずだから父の面影も無いはずだ。


「戸惑わせてごめんなさい。私の家系は代々星読みをしたり、人生についての相談を受けることが生業なの。それが出来るのは人の魂の真実を見透す力を持ってるからなの。貴方の魂はルドラととてもよく似てるの。だから親子だと確信したのよ」

「凄い力ですね。じゃあ。もしかしてルシェリア様は父に会ったことがあるのですか?」

「ええ。ルドラはミュルアーク王室、お抱えの研究者だったの。だから私も幼い頃は本を沢山読んで貰ったのよ」

「そうだったのですね。と言うか、父が王室お抱えの研究者だったことに驚きました」

「とても優秀な人だったわ。けれど研究中の爆発事故で姿を消してしまったの」


 今その話を聞くと本当の事だって分かるけど、倉田木シンだった時は、異世界なんて信じてなかったから、父は海外から日本に来て【俺】の母、美春に出会って結婚したんだと思ってたんだよなぁ。


「事故で日本に来たって聞かされてたけど、その時の爆発の事だったのかな?」

「間違いなくそうだと思うわ」

「びっくりですね」

「そうよね。でも私は貴方が、ここに戻ってくる運命だったと何となくだけど分かっていたの」

「ルシェリア様には全てが見えてそうですね」

「さぁ。どうでしょうね。運命は変わるし変えられると私は信じているの」

「それはどういう……」


 更に聞こうとすると、僕の唇に人差し指を押し当て口を封じるようにする。


「私は公務があるからもう行くわ。今日は朝食を御一緒できなくてごめんなさい」


 ニコリと微笑んで部屋から出て行ってしまった。肝心な事は聞けなかったような気がするし、ちょっぴり誤魔化された気分だ。

 けど思ったより深く、僕はこの世界に繋がっていた。そしてルシェリア様は星読みとか見透す力があると言っていたから、もしかすると僕がここにいる理由も見えている気がする。


「少し遅くなったが朝食にしよう。そのあと山に出発だ」

「うん! 分かった」


 カリンさんたちが、用意してくれた朝食は今日も豪華だ。コーンと卵の温かいスープに、こんがり焼き目のついた黒パンと新鮮なサラダ、そして薄く切って焼いた肉まである。そのどれもが美味しくて、おかわりまでして食べてしまった。だって今日の昼からは、また乾パンに干し肉だからさ食べられるときには、腹いっぱいにしておきたかったからさ。


「1時間後に玄関で待ってる」

「うん!また後で」



 食事をすませると一旦リュカと別れ、待ち合わせに間に合うようカリンさんに旅支度を手伝ってもらう事にした。まずは、ミュルアークまでの旅の間ずっと着ていた冒険者風の地味なシャツとズボンに着替えて、髪の毛も変身術で短くして眼帯も着ける。


「やっぱりドレスより、シャツとズボンの方が楽だよ~!」

「ふふふ! アレティーシア様は、お転婆ですから動きやすいお洋服の方が良さそうですね。今度、こちらに来る時までに、ドレス以外のお洋服も仕立てておきますね」

「わぁ! 楽しみにしてるね!」

「必要なものを色々、鞄の中に入れておきますね。あとこれはオマケです」


 話をしながらも手際よく、次々と手拭き布や替えの洋服を鞄に詰め込んでいき、ウインクをしながら紙袋を渡された。


「中、見ていい?」

「はい」


 ガサガサ開けてみると、色とりどりのドライフルーツが入っている。


「干した果物だ」

「おやつに食べてくださいね」

「ありがと! 嬉しい」


 この世界では、甘味が貴重で少ないから贅沢な気分になってしまう。大切に少しずつ食べよう。でも甘味と言うと、やっぱりケーキが恋しいし食べたいと思ってしまう。無いと思うとよけい食べたくなるものだからさ。いつかカタカナでも、色々な事が出来るようになるといいなと切実に思ってしまった。


 旅支度が終わってもまだ少し時間があったから、裏庭の猫たちにも旅立ちの挨拶に立ち寄った。猫たちは、世界が違ってもやっぱり自由で可愛い。


「むーちゃん! みんな行ってきます!!」

「にゃ~ん」

「なぁ~!」

「みゃん!」


 はぁ~! めちゃくちゃ癒される。これで登山も頑張れそうだよ。擦り寄ってくる猫たちを撫でまわし、めいっぱいじゃれて満足してから、待ち合わせ場所に向かおうとした。んだけど、服の裾を引っ張られ振り返ると、深い青い目をした小さな黒猫しかも翼のある子猫がぶら下がっている。


「むーちゃん。どうしよう?」


 むーちゃんに答えを求めると、子猫の首を優しく咥え僕の胸に押し付けてきた。落ちたりしないように子猫をしっかり腕で抱える。


「連れてっても良いの?」

「にゃーん!」


 僕の頬を舐めて頭を擦り付けてくる。この黒猫は間違いなく、むーちゃんの子供だだろう。本当に良いのかな? と思っていると、子猫が僕にしがみついて「ミャー」と甘えた声で鳴いた。あまりの可愛さに、思わず抱きしめてしまう。


 そして……


「むーちゃん! ありがとう凄く心強いよ!」

『きっとお前の役に立つはずだ』

「え!?」


 頭の中に直接、響いた透き通るような声に驚き、むーちゃんの顔を見たら再び僕の頬を舐めてから去って行ってしまった。


 玄関先で待っていたリュカに、そのことを伝えると、僕の頭をくしゃりと撫でて微笑む。


「良かったな。あいつに認められたって事だ。むーちゃんなどと呼ばれているが、れっきとした城の番人だからな」

「そうなんだ」


 サリアたちからも守ってくれたし、番人だと言うのも頷ける。そして僕に大切な命を預けてくれた。


「そういえば、この子の名前を聞いてない」

「タキがつけてやればいい」

「良いの?」

「みやん!」


 腕の中から、返事をするように黒猫は鳴いた。


「う~ん……目の色が空みたいに綺麗だし声も可愛いから【天音】はどうかな?」

「うにゃ~ん!!」


 返事をするように鳴いて、尻尾を僕の腕に絡める。


「気に入ったみたい!」

「良かったな! オレも天音は良い名前だと思う」

「えへへ! よろしく天音!!」

「にゃん!」


 僕の言葉に反応して返事をする天音の、あまりの可愛さに思わずギュウギュウ抱きしめてしまう。天音も嫌がることなく喉をゴロゴロ鳴らす。


「そろそろ迎えが来てるはずだ」

「うん! 行こう!」





 



「では出発します」


 御者にドアを開けてもらいリュカと共に乗り込むと、馬車はすぐに走り出した。天音は、初めての外の世界に、大喜びで馬車の中をソワソワ動いては、窓に張り付き流れる景色を楽しんだりしている。


「セランケーナ山脈には、魔族がいるって聞いたけど、魔物とどう違うの?」

「魔族は絶大な魔力と力を持っているが、殆ど人間と変わらない。種族が違うだけで話も通じる。魔物は厄介で、人間や動物を力任せに襲って食べる。知能は無い」

「じゃあ。あんまり危険は無い感じ?」

「あぁ。怒らせたりしない限りは大丈夫だ」

「良かった~!」


 山登りは楽しみだけど、戦うのは苦手と言うか嫌だからさ。話が出来ると聞いて安心できた。


「リュカデリク様、到着しました」


 城を出て2時間もしないくらいで、山の麓に来ることが出来るのだから馬車は早い。御者が馬車を止めて、ドアを開けてくれたので外にでる。


「ありがとう。ではタキ行こう」

「うん!」


 

 歩き出してから数時間が経った。山登りは初めてじゃないし登山は好きなんだけど、日本の山と、こんなにも違うとは思わなかった。


「もしかして、上に行けば行くほど暑くなるの?」

「あぁ。今は多分、五合目辺りだから、これより上はもっと暑くなるだろう。頂上付近は砂漠だと聞いている」

「山に砂漠って意味分からない」

「ツラいなら、オレの背に乗るか?」

「ありがと。でも頑張るから大丈夫!」

「無理はするなよ」

「うん」


 風もあるんだけど熱風だし、周りの景色は暑さで揺らいでる。僕もリュカも、半そで半ズボンなんだけど、絞れそうな程に汗だくだ。ちなみに、天音は平気そうというか楽しそうに、僕たちの周りを飛んでいる。


「リュカ休憩していい?」

「もちろんだ」

「やった!」


 やっぱり、こんな暑いときにはアレが欲しい。周りに人がいないのを確認してから呼び出す事にした。


『氷』


 リュカの身長と同じくらいの大きな氷が現れた。すぐに溶け始めた巨大氷に抱きついてスリスリ頬ずりまでしてしまう。冷たくてめちゃくちゃ気持ちいい。


「ふゎぁ~……生き返るぅ~……」


 平気そうにしていたけど、やっぱりリュカも暑かったらしく、氷にもたれかかるようにして冷たさを楽しんでいる。天音は初めて見る氷に、最初は威嚇していたけど、今はガリガリ齧ったり爪でひっかいたりしてる。


「タキのおかげで快適な休憩だ。水飲むか?」

「えへへ! ありがと飲む」


 水の入った木筒を渡され、コルクを抜いて水を一気に飲む。生ぬるいけど喉がカラカラだったから美味しく感じる。天音の前に木皿を置いて、水をそそぐと小さな赤い舌で器用にピチャピチャ音を立てて飲み始めた。


 更に、『保冷剤』を呼び出しリュカにも渡す。


「溶けない氷か? いいな」

「これで少しは暑さが和らぐと思う」


 もちろん天音にも、保冷剤を布で包んで首に巻いてやる。すると嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。


 こんなにも過酷だと思ってなくて、冷たいものなら何でもいいから欲しかったんだよ。じゃないと干からびてしまいそうだ。


 上に行けば行くほど、登れば登るほど、僕もリュカも無口になっていく。少し進んでは休んで、氷を呼び出し体を冷やして水を飲むを繰り返す。天音だけはめちゃくちゃ元気だ。


 ついに頂上まで、あと少しという所で再び休憩をすることにした。




「おい! お前たち、ここが魔族領と分かってい入ったのか? それとも迷い込んだのか?」


 氷にもたれかかる様にして水を飲んでいると、空から大きな声が響きわたる。見上げると、逆光で影の様にしか見えないけど、翼のある人間が僕たちを見下ろしていた。


「オレはリュカデリク・ミュルアーク。人を探してる。魔王はいるか?」

「ミュルアークの王子か。案内する。ついて来い」

「タキ行くぞ」


 魔族領と聞いて、僕はビビって思わず氷の陰に隠れたけど、リュカデリクが立ち上がって名乗ると、魔王のところまで案内してくれることになった。んだけど魔王か……なんか恐ろしいイメージしか無いから、出来る事なら会いたくないなぁ……。などと考えながら一歩を踏み出すと、砂漠だった景色が一変した。暑さも一気に和らいだのが分かるほどだ。天音にとっては、見るもの全てが初めてだから、どんな事にも興味津々で辺りをキョロキョロしたり匂いを嗅いだりマイペースだ。


「わ! 変わった!!」

「下界の者たちが、迷い込んだりしないための結界だ」


 あまりの変化にポカンと口を開けて驚いていると、案内人が教えてくれた。


「結界! 凄!!」


 目の前に広がる、この場所はまるで小さな村だ。湖があって木々が生い茂り気温もちょうどいい。山の中の、オアシスみたいな感じなのかもしれない。案内人の後ろをついて奥に行くにつれて、所々に木造の家が建っているし、翼や角がある人間や、耳の長いエルフや、背が低くてどっしりしたドワーフまでいる。その中でも、もふもふな耳や尻尾を持った獣人に惹かれてしまう。見た目がとんでもなく可愛いのだ。とは言っても、うちの子が一番なので天音が最強に可愛いし癒しだと思っている。今も草むらで蝶を追い掛け回している。


 村の一番の奥の突き当りの袋小路に辿り着くと、案内人がその行き止まりの壁に向かい手をかざす。すると複雑な模様、文字かもしれないけど紫色の魔方陣が浮かび上がると同時に、目の前には黒い石造りの城が現れた。壁面には茨の蔦が這ってるし、名前も分からない毒々しい紫の花も咲いている。まさに魔王城って雰囲気が漂っている。夜この城を見たならドラキュラ城をだと思ってしまうだろう。


 案内人が城の重厚な扉を開ける。扉には細やかな彫刻が施されてるんだけど、蝙蝠だったり蛇だったりするから、ちょっと不気味かもしれない。


「入れ」


 天音を抱き上げ扉をくぐる。内部もやっぱりと言うか、想像通り壁も床も黒いツヤツヤした石造りで、一定間隔に、松明の炎が揺らめき仄かに室内を照らしている。暗くは無いけど、空気が重く感じられ緊張感が増す。


「待っておったぞ!」


 入って直ぐの緩くカーブした階段の上から大きな声が響きわたる。何というか、城全体に木霊してるんじゃないかと思うくらいの大音量だ。


「妾が魔王ルルカじゃ!」


 2階の手摺りから、ふわりと飛び降り長くキラキラ輝く白い髪の毛を躍らせながら、目の前に降り立つ。僕を見つめる赤い目は好奇心にあふれギラギラしていて、ちょっと怖い気がする。背中にはグレーの大きな翼、頭の左側だけにある銀色の角は、まさに魔王と言う感じがする。


「お前の事はずっと見ておった」

「見てた?」


 僕を守る為にリュカが、魔王の前に立つが片手で難なく押しのける。


「リュカデリクは大人しくしておれ。妾はアレティーシアに用がある」

「危害は加えるなよ」

「五月蠅いのぉ。分かっておるわ」


 リュカを手で追い払うようにしてから近づき、ニカッと八重歯を覗かせ笑う。


「妾はお前がここに来るのを知っておった。そしてずっと待っておったのじゃ」

「え! どういう事?」

「ふふん! 分かっておらんようじゃな。妾は魔王じゃからな。現在過去未来全てを見透せるのじゃ」

「もしかしてルシェリア様と同じ力を持ってるとか?」

「ふん! そんな薄らぼんやりしたものではないわ。ほれ! お前の前世で何と言うたかの? でぃーぶいでぃじゃったか? そのくらい鮮明に見えるのじゃ」

「って! まさか倉田木シンだった時の【俺】の事もしってる?」

「ふふん! もちろんじゃ! どうだ凄いじゃろ! 凄いじゃろ!!」


 身長は今の僕アレティーシアと変わらないのに、ドヤ顔で仁王立ちしているからなのか存在感があって大きく見える。黒色のドレスは、腰のあたりまでスリットが入ってるので際どい。とりあえず仁王立ちは止めた方が良いと思うんだけどさ。魔王っていうだけで怖くて言えない。


「めちゃくちゃ凄いかも!」

「ふふん! もっと褒めるがいい! あと妾の事はルルカと呼ぶがいい」


 DVDまで知ってるなら、ルルカのいう事は本当なのだろう。この世界には無いものだからさ。


「それで僕を待ってたって、一体どういう事?」

「知りたければ妾も旅に同行させるのじゃ」

「リュカ、どうしよう?」


 僕だけで決めるわけにはいかないから、リュカに聞こうとすると、ルルカに顔を両手で挟み込むように固定されて身動きが取れなくなる。


「妾はお前に聞いてるのじゃ! リュカデリクはどうでもよい」


 横目でリュカを見ると、溜息をつきながら頷いている。


「分かった。一緒に行こう」

「よし! では今から行くのじゃ!」


 ルルカが僕の肩をポン! と軽く叩いてから歩き出す、外へ出て振り返ると、もう城は消えて元の袋小路に戻っていた。


「これも結界?」

「妾を狙う輩もおるし、こやつらを守らねばならんからの」


 目の前に広がる小さな村を、魔王とは思えないほどの優しい表情で見つめる。きっとここはルルカの大切な場所で宝物なんだろう。その証拠に、天音も安全だと分かっているようで、僕の腕の中でスヤスヤ眠ってしまっている。


「魔王様、お出かけですか?」

「ふふん! お出かけじゃ! 妾の運命の相手が来たからの」

「魔王様が言っていた通りの可愛らしいお方ですね」

「そうじゃろ! そうじゃろ!」


 歩き出すと村の住民が話しかけてきた。狐の耳と尻尾の生えて爽やかな笑顔の感じのいい青年だ。


「あとの事はバティストに任せてあるからの。もしもの時は奴を頼るのじゃ」

「分かりました。行ってらっしゃいませ」

「じゃあ留守は頼んだのじゃ」

「はいっ!!」


 爽やか青年の腕をポンポンと叩いてから歩き出す。



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