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★ 第16話、白の大陸へ渡る前の決意。


 天音が幸せそうに大きな焼き魚を食べ終わるのを見届けるてから、母さんは立ち上がり弁当箱とティーセットを籠にしまい、敷いていた布も折りたたんで籠にかぶせた。


「アレティーシア、リュカデリク、こちらへ来て手を握ってくださいね」

「うん」

「分かりました」


 母さんが僕たちに手を差し出す。その手を握りしめると、しっかり握り返してくれた。


「大精霊の所まで転移するので目を瞑ってください」


 目を閉じた瞬間、青の大陸で体験した感覚が襲ってくる。それは地面に穴が空き、まるでバンジージャンプをした時のような急降下。絶叫系が苦手な僕は思わず母さんの手にしがみつく。


「もう目を開けて大丈夫ですよ」


 ゆっくりと目を開けると、濃い霧が立ち込め無機質な黒い岩がゴロゴロ転がる岩場が広がっていた。


「こちらです」


 地面を踏み締め歩きだすと、意外にもフカフカと柔らかな感触がする。


 奥へ進むと水音が聞こえ始め、岩場から大量の水が溢れ出て空に向かって噴き上げている不思議な場所に辿り着いた。上空に滝壺と言うか黒い湖面がキラキラと七色の輝きを放ち広がっている。青の大陸と似てるけど、ほんの少し違う雰囲気で面白い。


「この滝の柱が大陸を支えているんだね」

「えぇ。そして滝の中央にいるのが私と繋がっている大精霊です」

「凄いな……」

「うん」

「にゃん!」


 リュカは頭上を見上げて、脈打つように大陸から出ている波を不思議そうに見つめている。


「2人共こちらにいらっしゃい。先ほどの話で気がついているかもしれませんが、大地を覆い尽くす水は、この世界全てと繋がっているのです。なので例えば遠くにいる人と話をする事も可能です」


 母さんがしゃがんで黒い湖面を指差す。


 それって、もしかしてテレビ電話のような事が出来たりするのかな? って事は……。


「水がある所なら、湖の向こうにいる人と話が出来るって事?」

「そうですね。早馬やドラゴンよりも早く伝えられる、大陸の王のみが使える極秘の最終手段です」

「王のみって事は、相手から湖には声を届けられないの?」

「残念ながらそうなのです。大精霊の力を借りて繋げるので、普通の湖では出来ません。けれどそれを補うほどの利点があります」

「どんな?」

「向こう側の人が、どのような場所にいたとしても”水”さえあれば、コップの中でも庭の池でも、話をする事が可能なのですよ。そうですね例えば紅茶やワインだとしても繋ぐ事が出来るそうですよ」

「それは凄いな」

「うん」


 母さんが靴を脱ぎ、湖の中にゆっくりと入っていく。湖面に波紋が広がり揺れる。岸から2メートルくらいの所で立ち止まると、腰をかがめ手のひらで湖面に触れた。


 暫く小さな声で湖に話かけてから、姿勢を元に戻し僕たちの方を振り返って手招きをする。


「リュカデリク。こちらへいらっしゃい。ルシェリアとお話しをすることが出来ますよ」

「はい」


 みるからに緊張しながらリュカは靴を脱いでから、母さんのいる湖の中に湖面を揺らしながら入っていく。


「湖面に手で触れて、言葉を伝えたい相手を思い浮かべてください。私はアレティーシアと待っていますね」

「分かりました」


 リュカが、まるで壊れ物を扱うように湖面に触れ目を閉じる。そして次の瞬間、驚いたような顔をして目を見開いたけれど、すぐにいつもと同じ表情になり湖の向こうにいるルシェリアと話し始めた。


「大丈夫そうですね」


 母さんが、波を立てないように静かに僕のいる場所に戻って来ると、籠から布を出し足を拭き靴を履いた。


「お茶を飲んで待ちましょう」


 籠から敷き布とティーセットを出し手際よく準備して紅茶を淹れてくれた。


「蜂蜜を頂いたので入れてみましたよ。熱いので気をつけてお飲みなさい」

「うん! ありがと!」


 フーフーと吹き冷まし飲む。ほんのり甘い蜂蜜の優しい味はとても茶葉に合っている。


「すっごく美味しい!」

「良かったわ」


 母さんは籠をもう一度探って、茶色の大きな葉っぱに包まれたものを、天音の前に開いて置いた。


「天音には私が作った、とっておきの小魚クッキーを持ってきましたよ」

「にゃん!」


 天音は目を輝かせ、勢いよくカツカツと嬉しそうに食べていく。


「うみゃい! うみゃい!!」

「気に入って貰えて良かったです」

「みゃん!」


 天まで吹き上がる滝を見ながら紅茶を飲む。この世界の成り立ちを知ってしまった後だと滝の音が、まるで悲鳴を上げているようにも聞こえて悲しい気持ちになってしまう。


 真剣な表情で、ルシェリア様と話をしていたリュカが少し照れくさそうに微笑んでから、湖面から手を離し立ち上がると、僕たちの方へ戻ってきた。


「リデアーナ様、ありがとうございました。無事に母上に報告する事が出来ました。それに白の大陸へ渡る前に家族の顔を見ることが出来て嬉しく思います」

「良かったですね。それと白の大陸は何が起こるか分からない場所です。なので大精霊に加護を与えて頂けるようにお願いしました」


 母さんが滝の方へお辞儀をすると、滝の中央にいた大精霊がフワリと体を躍らせ僕たちの前に移動してきた。


『リデアーナの子か?』

「は! はい!」

『お前もまた数奇な運命を背負っておるな。分かった加護をやろう』


 僕の額に、ひんやりとした人差し指が触れると、暖かく優しい何かが体に入って来たのが分かった。


『これで余程の事が無い限り命を落とさないだろう』

「ありがとうございます」


 次にリュカの方へ滑るように移動する。


『お前の名は何と言う?』

「リュカデリク・ミュルアーク」

『もう一人の王の子か……。ククク。お前はアレティーシアから離れるな。あの娘を死なせたく無ければリュカデリクお前の全てをかけて守れ』

「元よりそのつもりだ」

『お前への加護は戦う為の光だ』


 リュカの額にも同じように人差し指で触れる。


「ありがとうございます」


『死ぬなよ』

「はい」

「はい」



 今まで、この地下深くで沢山の出来事を見ている事しか出来なかった大精霊は、僕たちを悲しげな表情で見つめてからフワリと再び滝の中へと戻っていった。




——数奇な運命だとしても強い思いがあれば、死すら覆す事も出来るかもしれんな……——


 小さく呟かれた大精霊の言葉は、滝の音に消され誰の耳にも届かなかった。




 

「明日は朝早いのでしょう?」

「うん」

「では地上に戻ったら、ゆっくり休んでくださいね」

「分かった。今日は夕ごはん食べたら寝るよ」

「そうなさい」

「リュカデリク貴方も今夜は早めに休むのですよ」

「分かりました」

 


 


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