★第5話、本気の告白は破壊力抜群だ。
★第5話
早朝、街道を進んでいくと、馬車や多くの荷物を背負った一団や、一目見て冒険者のグループと分かる筋骨隆々な男女が、すでに長い列を作って、王都ミュルアークへの門が開くのを待っていた。
「僕たちが一番だと思ったのに凄い人数が並んでるんだ」
「門の前で野営をする人々もいるからな」
「そっか。王都の近くで大勢で野営した方が安全かも」
「そういう事だ。門には兵士もいるから何かあった時には頼ることも出来る」
今まで見てきた街とは違い、ミュルアークの王都を守る塀は見上げるほどだ。当然、中の様子も全く見えない。
「開門!」
朝日が地平線の向こうから、柔らかい光を伴って現れると同時に門が開いた。列もゆっくりと動き始める。
「リュカデリク様、長旅お疲れさまでした」
「ただいま」
列に並んでいるリュカに気が付いた兵士が、駈けよってきて元気いっぱいに挨拶をする。門もリュカがいれば顔パスで入ることが出来た。
「王城まで馬車を出しますか?」
「あぁ。頼む」
兵士が門の隣にある待機所に合図を送ると、直ぐに馬車がやって来たんだけど、流石は王都仕様だ。
白く長い角の生えた白馬の2頭だて馬車だ。毛並みも太陽に照らされキラキラ輝いている。昔、図書館で読んだ童話に出てくるユニコーンみたいで格好いい。
「凄く綺麗な馬だね。触ってもいい?」
「おとなしい子たちなので撫でてやってください」
「ありがと!」
リュカに抱きかかえてもらい、風に揺れるたてがみを触ってみる。サラサラとして、とても柔らかい。次に頭も撫でてみると、僕の顔に体をスリスリ押し付けてくれる。
「可愛い!」
「タキの事が気に入ったようだな」
「へへへ!」
ひとしきり撫でまくってから馬車に入る。
最近は、森や草原ばかりだったから、窓の外の街の様子が新鮮で賑やかで見ているだけで楽しい。目的地の王城までの20分がアッというまに感じてしまった。
城へと続く豪奢なアーチ門をくぐり抜け、前庭に馬車が止まる。
「リュカデリク様、お帰りなさいませ」
「ようこそ。アレティーシア様」
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関と言うには広すぎるけど、執事やメイドさんがズラリと並んでお辞儀をしている。テレビとか映画でしか見たことのない光景にテンションが上がってしまう。
「なんか凄い」
「バタバタしていて気が付かなかったかもしれないが、フィラシャーリの城もこんな感じだったはずだ。今度帰ったら見てみるといい」
「そっか!じゃあ早く兄さんを見つけて帰りたいな」
「そうだな」
クシャリと僕の頭を撫でる。リュカはよく頭を撫でてくる。もしかしたら、撫でるのが好きなのかもしれない。僕もリュカの大きな手のひらは、男らしくて気に入っている。というか力強くて逞しくて羨ましい。
「今から登山?」
「いや。今日は一日休んで、明日の朝にセランケーナ山脈に向かおうと思っている」
「分かった」
玄関を入ると、深紅の毛足の長いフカフカ絨毯が敷かれ、中央階段は白くツヤツヤの石で出来ている。階段を上っていくと、一定間隔に、代々の国王の肖像画が飾られて迫力がある。夜ここに来たら少し怖いかもしれない、と思うくらいには魂を込めて描かれている素晴らしい絵だ。
「オレは母上と軍部に旅の報告に行ってくる。夕食の時に会おう。それまではゆっくりしてくれ」
「うん。あ! 夕食まで城の中の探検していい?」
「もちろんだ。メイドのカリンをつけるから楽しんでこい」
「アレティーシア様。初めましてカリンです。よろしくお願いいたします」
「リュカありがと! カリンさんよろしく」
僕たちの後ろを、ティーセットを乗せた台車を押しながらついて来ていた、カリンさんに挨拶するとニコッと微笑んでくれた。三つ編みにした金髪と、ブラウンの瞳の可愛いメイドさんだ。
「では行ってくる」
「いってらっしゃーい」
手を振って別れる。
「まずは、アレティーシア様のお部屋にまいりましょう」
カリンさんの後をついて行きながら、窓の外に気になるものを見つけた。
「カリンさん。あそこの片隅の小さな建物は何があるの?」
「裏庭で猫を飼っているのですよ。とても可愛い子たちですよ」
「猫いるの?」
「沢山いますよ。特に素敵な子は翼もあってかっこいいのです」
「え? 翼あるの?」
「とても珍しい魔物なのですけど大昔に迷い込んで以来、ずっと住み着いてるのです」
「見に行きたいけど良い?」
「はい。ではお着替えをしてから行きましょうか」
「わぁ! ありがと楽しみ~!」
使うのは明日の朝までのはずなのに、僕の為に用意された部屋は、どう考えても女の子が暮らせるようにと作ったと分かるものばかりだ。レース付きの薄いピンク色の花柄のカーテンに、ふかふか絨毯も同じ色で、家具だけじゃなく室内全体が同系色で、衣装もピンクや赤が多い。
「可愛い部屋だね」
「奥様が、アレティーシア様にと気合いを入れて考えてましたからね」
「もしかして知ってるの?」
この城に入ってから、女の子として接してくる周りの反応から何となくは気が付いていたけど、僕とリュカの出会いとか関係まで知られてるのだろうか?
「リュカデリク様がアレティーシア様に、愛の告白をして婚約を考えている事でしたら、城の全員が聞いて知ってますよ」
「なぇ!?」
思わず変な声が出たよ。コレって外堀から埋める作戦なんじゃ……。カリンさんは僕の様子を見てニコニコ顔だしどうしたものかな? リュカの事は嫌いではないし、隣にいてくれると安心感もあるけど、恋愛……恋愛かぁ~……。
グルグルそんなことを考えているうちに、手際のいいカリンさんの手によって、埃だらけの冒険者風の服装から、ピンクのシンプルなドレスに着替えさせられていた。
「御髪を整えるので術を解いてくださいませ」
言われたとおりにすると、優しい手つきで長い髪の毛をスルスルとかし、右側の髪の毛を少し摘まんでピンクのリボンで縛って完成したようだ。
「それでは猫たちに会いに行きましょう」
「うん!」
広い城の廊下をのんびり歩き、中庭へ出て北側へ進んで、更に執事やメイドが暮らしている建物の先が裏庭になっている。奥まった少し日影が多い場所だけど、日向もあるし芝生も青々として、植木も綺麗に剪定されているので素晴らしい庭だと思う。
そして庭のあちらこちらには、猫たちが自由に昼寝をしていたり、飛び跳ねるようにじゃれて遊んでいる。
「本当に沢山いる!」
「57匹いますよ。それぞれにちゃんと名前もあるんです」
「可愛がってるんだね」
「えぇ。特に奥様が猫がお好きなので、公務の無い日は1日に何度もいらっしゃいます」
「そうなんだ。あ! 触ってもいい?」
「もちろんです。ぜひ遊んであげてくださいませ」
カリンさんが、ポケットから紐付きのネズミのおもちゃを出して僕に渡してくれた。紐を持って振り回すと、すぐに3匹の茶色い猫たちが飛びついてきた。
「可愛すぎる!」
昨日までの、胸の中のもやもやまで取り去って癒してくれる気がする。
夢中で猫たちと戯れていると背後から、やけに強めに体を押し付けてくる猫がいて振り返ってみると、まるで蝙蝠のような翼の生えた黒豹が喉をゴロゴロ鳴らしながら擦り寄って来ていた。体は僕と変わらないくらい大きくて、艶やかな黒い毛並みに、目の色が金色なのが綺麗でかっこいい。
「私たちは、むーちゃんと呼んでます」
「可愛い名前。むーちゃんよろしく」
「なぁ~ん!」
姿はまさに黒豹って感じなのに、鳴き声はしっかり猫だった。
途中、カリンさんが持ってきてくれたサンドウィッチを食べて、暖かい日差しの中、むーちゃんと沢山の猫たちに囲まれ昼寝までしてしまった。
夕食前に久しぶりにお風呂にも入れた。湯船が広いので、体を伸ばしまくっても泳いでも余裕だったし、カリンさんが髪の毛を洗ってくれたから大満足だった。
お風呂から出ると、夕食の為のドレスを着ることになったんだけど、下着やら何だかよく分からないものを重ね着することになったので暑いし苦しい。ドレスはやっぱりピンク色だった。花柄で腰に赤いリボンが付いている。
待ちにまった夕食は大好きな肉料理だ。しかも分厚いステーキなので見た時は嬉しかった。最近、干し肉と乾パンばかりだったから、焼き立てのパンと肉は涎まで出そうなほどだったんだ。
けれど、マナーだとかで静かすぎる食堂で食べることになったので冷や汗しか出なかった。リュカも無言だし、せっかくの肉も味が分からなかった。
食べ終えて食堂を出ると溜息が漏れてしまった。
「緊張したか?」
「うん。静かに食べるのって難しい。やっぱり僕は喋りながら楽しく食べたいかも」
慣れないから何度かフォークを落としたし、肉を切るときギコギコとナイフで音を立ててしまった。
「明日の朝は、部屋に食事を持ってきてもらおう。マナーを気にせず食べるといい」
「ありがと!」
「あと母上も一緒に食べたいと言っているのだが誘っても良いか?」
「うん! 良いよ」
「ありがとう。アレティーシアに会いたいと言っていたから喜ぶ」
「じゃ。オレは公務があるから行く。おやすみタキ」
「仕事頑張って!おやすみリュカ」
手をヒラヒラさせてリュカを見送った。
部屋に入ると、まずは窮屈なドレスをカリンさんに手伝ってもらって脱いで、楽な白いワンピース型の寝間着に着替えてベッドに大の字に転がる。ようやく緊張がとけたような気がする。
「アレティーシア様おやすみなさいませ」
カリンさんが洗濯物を手に持ち、部屋から出て行って一人きりになった。
「あっ! 母さんに手紙書こう」
起き上がって、ベッドサイドの小さな机に置いてある羊皮紙と羽ペンを使って、ミュルアークに無事着いた事と道中であった様々な出来事を細かく書いて手紙が出来上がった。
『鴉』
「母さんによろしく」
「カァ!」
呼び出された鴉は手紙を咥えると、窓から夜の闇に溶け込むようにして飛び立っていった。
「明日は山登り。兄さんいるといいなぁ……」
ふかふかベッドに横になると疲れもあって、すぐに眠りに落ちた。
深夜、トイレに行きたくなって目が覚めてしまった。カーテンの隙間から漏れる月明かりが細く差し込んでいて明るい。これなら転んだりすることもなさそう。ゆっくり起き上がり目を擦りながら、ベッドから抜け出し自室を出る。廊下へ出るとロウソクの炎が揺らめき思ったより周りがよく見える。多分こんな真夜中に起きてるのは見回りの兵士くらいだと思う。
「はぁ……やっぱ夜のトイレは暗すぎる」
トイレの中はロウソクの数も、少なくしてあるのでボンヤリとしか見えない。手を洗ってトイレから出ようとした時、聞き覚えのある声が廊下から響いてきた。なんで此処にいるのか分からないけど、様子を伺うため気づかれないようにトイレの扉を盾にして息をひそめる。
「あはは! 馬鹿正直に魔族退治なんて行くわけないじゃん」
「そう! そう! そんな事より金銀財宝奪って日本に帰る方が良いわ!」
もしかして、この2人は忍び込んだのか?
「クロトは良いけど、あたしは魔導士の証だったみたいだからマズいのよ」
「俺だって剣なんて使った事ねぇよ! けどマジな話、魔法使えねぇ魔導士とかありえねーもんな」
「だからさっさと帰るのよ!」
「美人なメイドさんに、かしずかれんのは良かったけど、そろそろ帰りてぇかも」
2人は扉を一つずつ開けては、部屋を物色しながら奥へと進んでいく。見失わないようにトイレから出ようと動いたら、扉のドアノブに服をひっかけ 「ガタン!」 と音を立ててしまった。
「びっくりした~! 子供かよ」
「シッ! クロトは黙ってて、あたしが何とかするから」
「へいへい」
この2人、元々の声が大きいせいで内緒話も丸聞えだ。
「あたしたちは双子神子なの。ここに滞在中だからよろしくね」
今まで部屋を、物色していたとは思えないほどの態度と優しい笑顔を浮かべ、僕に手を差し出してきた。サリアの二面性を知らずにいたなら、握手をしたかもしれないけど今は……
パシンッ!!
差し出された手を振り払って、サリアたちから目を離すことなく警戒する。
「もしかして、あたしたちの話聞いちゃった?」
優しげだった笑顔が、ニタリと歪み醜悪な笑みへと変わっていく。そして豊満な胸の谷間から、ナイフを取り出し鞘を放り捨て僕の方に近づいて来る。
「馬鹿な子供ね」
ナイフが振り下ろされる。
『壁』
ガキン!
「ふぅ~ん……一丁前に魔法使うんだ。クロトこれ壊して!」
「へいへい。そらよ!」
腰に下げていた鞘から、剣を抜くのが壁の隙間から見えて、もう一度『壁』で補強する。念のために左右も『壁』で防御しておく。
ガスン! ガスンッ!!
剣を壁に叩きつける音が響く。こんな大きな音と声を出してるのに、兵士が一人も来ないことに気が付く。
「見回りの兵士がいたのに何で!?」
「そんなのは眠り粉で、みんなお休み中よ。本当は魔族を眠らせる為のものだったみたいだけどね」
助けなんか来ないって事じゃんか! まさかの状況に焦りと不安がおしよせる。
「後ろがガラ空きだぜ!!」
いつの間にか、後ろに回り込まれ剣が振り下ろされ、思わず目を閉じてしまう。同時に上から風と共に何かが舞い降りた。
「シャャーーー!!」
ドカッ!
「ぐっ! いってぇ! なんだこいつ!!」
恐る恐る目を開けると、むーちゃんがクロトに体当たりで剣を弾き飛ばして、僕を守るように翼を広げ2人を威嚇していた。
「むーちゃん。ありがと!!」
「にぁ~ん!!」
剣を弾かれたクロトは、腕を押さえながら少しだけ後ずさる。その時、ふと思った今なら本人の口から真実が聞けるかもしれないと……。
「あんたたち倉田木シン知ってる?」
「ふぅ~ん。シンの家があったから、もしかしてって思ったら、やっぱこの世界に居るのね」
「なんで殺した?」
「あはは! そんな事まで知ってんの? シンこんな子供にまで喋るとか馬鹿じゃない?」
「だよな! という訳で、今からお前を一撃で殺してやるよ」
剣を拾い上げ再びクロトが切りかかってくる。むーちゃんも応戦しようと、牙を剥きだし右前足を振り下ろそうとした瞬間。
「そこまでだ! 捕縛しろ!!」
「キャァ!!」
「グハッ!!」
「タキ。もう大丈夫だ」
戦闘経験の差なのか、アッと言う間に数十人の兵士に囲まれ、2人とも黒いワイヤーのようなものでグルグル巻きにされた。
「タキって、あんたまさか? ぐふぅ……」
更に、猿轡まで噛まされ言葉は途中で途切れ、サリアが僕を怨念のこもったギラギラした目で睨んでいる。
「連れていけ」
「はい!」
兵士たちが去っていくと、廊下にはリュカと2人だけになった。
「怪我はないか?」
「うん」
「部屋まで送って行こう」
フワっと抱き上げ歩き出す。いつもと違い、初めてのお姫様抱っこだ。危険も去って安心したからなのか、この体勢はなんか照れる。
「ありがと」
「気にするな」
部屋に着くと僕をベッドに寝かせてくれた。出て行こうとするリュカの服の裾を、無意識のうちに握り締めてしまっていた。その手をリュカが握ってベッドに腰かける。
「タキが眠るまで、ここにいる」
頭を優しく撫でてくれるのを、感じながら眠りに落ちていった。
次の日の朝、目が覚めると隣にリュカが寝ていた。
カーテンの隙間からもれる朝日に キラキラ輝く金色の髪の毛に自然と手が伸びる。思ったより触り心地抜群だ。
「ふわっふわで柔らか」
「起きたのか」
昨夜はゴタゴタで余り眠れなかったのだろう、目をしばたかせ少しボンヤリしているようだ。
「おはよ。眠そうだけど、あれから忙しかった?」
「おはよう。タキが寝てからアイツらの尋問に行ってきたんだが、拷問するまでもなく聞いて無い事までペラペラ喋ってくれた。おかげで早く終わって2時間ほど寝られたな」
「そっか。何か聞けた?」
「お前にとっては重要な、この世界に来る過程まで話してくれた。見るか?」
ベッドサイドの机に手を伸ばして、羊皮紙を取り僕に見せてくれた。
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ー極秘事項ー
サリアが倉田木シンの両親を殺した理由は、シンの父親の研究書を盗もうと書斎に忍び込んだ時、その事に気が付いた父親が研究書を持って逃げ出した。ムカついたから車で追いかけ父親を撥ねて研究書を奪った。後を追ってきたシンの母もナイフで殺して山に埋めた。
そして、事故の事を疑い始めた息子シンを監視する目的で近づいた。
研究書に描かれた双子神子の証のタトゥーを胸に入れ別世界に行く準備を整えた。シンを殺したあの日、研究書に描かれていた魔方陣を、リビングの床にシンの血で描いた瞬間、この世界に召喚されていた。
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「こんな事になるなら一人暮らしなんてしなかった。あいつらから守ることは出来なくても、父さんと母さんの傍には居られたはずだからさ……」
本当の事を知るまでは怒りと悲しみで、どうにかなってしまいそうだった。けれど今は、後悔はあるものの、事実を知ったからなのか心は落ち着き始めている。
「復讐するか?」
「許せないし怒りも治まらないし悲しみもある……でもさ。今の家族を大切にしたいんだ。だから復讐はしない。それにリュカもいてくれるから怖く無いし寂しくないから大丈夫」
「お前は強いな」
「強くなんかない!」
「もしもオレが違う世界で生き返ったとしたら、周りは知らない人間ばかり、更に環境も違うとなればパニックになるだろう。ましてや自分を殺した相手に遭遇したら怒りや憎しみで精神を病むと思う」
「う~ん……確かに異世界に来てビックリしたし、サリアたちがいると思うと怖いよ。でもさ僕って単純で楽観的だからさ。せっかく生き返ったんなら楽しみたい気持ちの方が大きいんだ。特に魔法なんて前世では使えなかったから面白いんだよ!」
「やっぱりタキは強いと思う! 教会で初めて見た時から、オレにはお前が輝いて見えたんだ」
「かっ! 輝くって何!?」
「今も眩しいくらいだ。大好きだよアレティーシア」
トドメとばかりに額にキスをされてしまった。
「な! 朝から何言ってんの!?」
「一目惚れは叶えるものだからな!」
ウインクまでして、直球ストレートな告白をしてくるリュカに、アタフタして視線が泳いでしまう。
「待つって言った!!」
「あぁ。待つ! が手加減もしない」
「!」
真っ赤になってジタバタしていると、リュカが立ち上がり頭をクシャリと撫でる。
「落ち着いたらタキは着替えて待ってろ」
「落ち着けるわけないじゃん」
リュカの太陽のような匂いが残るベッドをゴロゴロ転がりまくりながら、熱く火照ってしまった顔を両手で覆う。
「イケメンの破壊力ハンパねぇ……」
深呼吸をして落ち着かせてから、カリンさんに着替えを手伝ってもらっていると、廊下からガシャガシャという音が聞こえ始め、ノックもなく扉が開かれリュカが慌ただしく入ってきた。その後ろには鎧を纏った兵士たちの姿まである。ガシャガシャ音は、鎧が擦れる音だったようだ。
「タキ! 無事か?」
「大丈夫だけど何かあったの?」
「双子神子が地下牢から消えたんだ。と言うより逃がした誰かがいる」